至福の宿屋
「いらっしゃいませ」
「こんな辺鄙なところによく来たね!
ゆっくりしていっておくれ」
カリス達が疑問に思いながらも宿屋に入ると、女将と思わしき女性とその息子だろうか?
とても品のある男の子が出迎えてくれた。
「えっと……ここは宿屋で間違い無いんですよね?」
「それ以外の何に見えるってんだい!
疲れて頭が働かないから変なこと考えるのさ。
うちで休んで腹一杯食べていきな」
「僕から見ても皆さん疲れた顔をしているので休んだほうがいいですよ」
そう言う女将と少年の後ろには厨房があるのだろうか?
そこから今までに嗅いだことが無いほどに美味しそうな匂いがしてきたカリス達はここで断れるほどに余裕があるわけではなかった。
「折角だから休ませてもらうぜ」
「そうですね……今の状態で野宿は現実的ではありませんから」
「そうだね、すいませんが一晩お世話になります」
マリアとカリンの後押しもあってカリスはこの宿屋に1日泊まることにした。
「では、案内しますね」
少年の案内でカリス達は部屋に案内される。
男女とはいえ部屋を分けるほどに余裕がある訳ではなく同部屋を取ることが多かったのだが、この宿屋は部屋が余っているのでまだ一人部屋使って良いと言う女将の言葉に喜んだのはマリアとカリンである。
更に部屋に入って驚いたのは備え付けの家具や寝具がどれも一級品であったことだ。
王都の一流の宿屋でもこのような立派な品揃えはしていないかもしれない。
彼らを更に驚かせたのが出てきたディナーの豪華さと美味しさであった。
普段から大食漢であるマリアとカリンだけでなく、カリスも思わず何度もおかわりを頼むほどであった。
これだけでも充分に満足する内容であったが、この宿屋のサービスはそれだけに留まらない。
何と庭にとても立派な露天風呂があると言うのだ。
魔物に襲われる心配は無いのかと尋ねると、この宿屋の周りには神聖な結界が張ってあり魔物が近寄れないらしい。
更にもし魔物が近寄ってきても優秀な護衛がいるので全く問題ないそうだ。
カリスは優秀な護衛という人物にとても興味が惹かれたのだが、冒険の為に色気を捨てているとはいえ乙女な年頃である二人の思考が完全にお風呂にいってしまっていたので後回しにする事にした。
そうしてお風呂に入って疲れを癒したカリス達は旅の疲れもあったのだろう。
この環境にすっかり安堵してしまい、部屋に戻ると気を失うように眠りについてしまった。




