表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/85

間に合わなかった勇者一行と被害に遭う筈だった村

8/21 22:30 誤字報告受け付けました。

いつもありがとうございます。

とある国のとある村……ここには最近近くに魔物の巣が出来ていた。


魔物は巣作りに力を入れており、早期に発見出来たのは幸運だった……が、国が巣を調査して討伐隊を派遣するというのは時間がかかる。


かと言って村人達は生活の基盤が出来た村を捨て去ることも出来ない。


討伐隊が先か、それとも巣が完成して村が襲われるのが先か。


もしも村が襲われたなら口にするのも憚られる悲劇が起こる事は想像に難くない。


そんな噂が偶々この国の王都に立ち寄ったカリス達の耳に届いたのは必然だったのかもしれない。


「村の人達のために僕たちで魔物を討伐しよう」


カリスが仲間であるマリアとカリンに提案する。


「そうだね……もう誰かが犠牲になるのは見たくないからね」


マリアが過去のトラウマを思い出して苦い顔をして答える。


一年前のあの日……カリスのピンチを救ったのは自分たちが心配になる程貧弱な少女だった。


「私達に出来ることがあるならしましょう。

そして時間が許すのであればその村人達を魔物に負けないくらいに鍛えてもいいかもしれないですね」


カリンもそう言いながら一年前まで一緒にいた少女の事を思い浮かべる。


彼女は勇者を救うと言う偉業をやってのけた……しかし、その代償に行方不明となってしまった。


いや、冷たい海のど真ん中に投げ出されて一年間行方知らずなのだ…….その結末がどうだったのか彼女も頭では分かっているのだ。


しかし、心の中ではそれを認められずに長い時間が過ぎてしまった。


もっと鍛えておけば良かった。


その後悔は未だに彼女達の心を締め付けていた。


「方針は決まった……明日からはその村に向けて出発しよう」


こうしてカリス一行は村を救出する為の行程を取ることにした。


村は国の端の方にあり、道中も手強い敵が出てきた事で苦戦を強いられた。


思った以上に時間を取られた一行は2週間という期間を経て村にたどり着いた。


あまりにも時間をかけ過ぎた事と、道中に討伐隊と出会わなかった事から最悪の結末が頭をよぎっていた。


そんな折に見えた村からは煙が黙々と上がっていたのである。


3人はいま正に村が襲われているのではないかと疲労した身体に鞭打って村に駆け出した。


そんな彼らが村にたどり着いて最初に見た光景……それは村人達が魔物を解体しながら食している光景であった。


「こ、これは一体?」


呆然としながらその光景を見る3人に気がついた村人が近づいてきた。


「おーう、旅の人かい?

今は祝宴中でな〜旅の人も良かったら参加していかんかね」


「いえ、僕たちは……」


「それは実にありがたい申し出。

カリスさん、是非私たちも参加させていただきましょう」


事情を説明しようとしてカリスの言葉を遮って誘いを受けるカリン。


(どういう訳か分かりませんが既に解決してしまっている様子……ここで助けに来た勇者一行と話してもどうにもならないでしょう。

それよりもここで何があったか調べるべきです)


(それもそうだね……助かるよ)


2人でこそこそ話している間にマリアは既に村の中で村人の一人と肩を組んで祝宴に参加していた。


この辺りの迷いのなさはある意味羨ましいと二人は思う。


祝宴に参加した3人は断片的な村人の話を聞く。


魔物は村人が倒したこと。


巣は定期的に魔物を狩るために残していること。


狩った魔物は解体していまのように調理したり素材にして収入源に当てていること。


危険はないのかと思ったのだが、村人一人一人から感じるエネルギーがとても大きい。


更に大人も子供も女性も全員が魔物と戦うための装備を所持している事が分かった。


祝宴の途中では


「おう、肉が足りないぞ!

ちょっと狩ってこい!!」


「やれやれ、しょうがないね」


と言った具合にどう見ても唯の村人のおばさんが、その見た目に不釣り合いな武具を装備して村の外に出て行った。


「一人じゃ危ないですよ」


と言ってカリスもついていくことにしたのだが……


「そこだね!」


暗闇の中で唐突におばさんが手にしたナイフを投げる。


すると動物の鳴き声と倒れる音が聞こえた。


「ほれ、こんな感じで獲物はすぐに取れるから危険はないんだよ」


そう言っておばさんは捕まえた獲物……うさぎを抱えて村に戻っていった。


「ねぇ……ここは達人しか住んでない村なの?」


「それにしたって全員が武具を所持しているとかおかしくありませんか?」


「分からない……こんなに強ければ魔物の巣で騒ぐことも無かったように思うが」


村に戻って祝宴に参加し直した3人は気になる事を聞いた。


それは10歳くらいの少年を連れた赤髪の女性の話だ。


その女性が振る舞う料理を食べたことで力が湧き、彼女に素材を渡すと装備品を作ってくれたらしい。


村人は彼女の力を借りつつ自力で魔物の巣を押さえることに成功したそうだ。


その女性はつい先日再び旅に出てしまったそうなので会えないのが悔やまれる。


「そんなに立派な方がいたのですね」


「そうだぜ……俺たちは全員あの人に足向けて寝られねえよ」


「ちげえねえ!」


「あの〜所でその女性の名前って覚えてますか?」


盛り上がる村人達に恐る恐る尋ねるが全員が首を捻った。


「一回聞いたけど教えてもらえなかったな」


「一緒にいた坊主がお姉ちゃんって呼んでるのは聞いたな」


「そうですか……この情報ではよく分かりませんね。

兎に角、問題は解決していたので今日は村で休ませてもらって明日からまた魔王討伐の旅を続けましょう」


そう提案するカリンに二人は同意して頷くのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ