エムザラの襲来
ここは神の船の甲板。
ホクホク顔の2人が島から出て、大陸に向かう途中で事件は起こった。
「そもそも何だけど、何で神の力をあまり使っちゃいけないの?」
旅に出てからシャーリーがずっと気になっていたことだ。
力仕事や一般人レベルの魔法、それに見ることに関しては大丈夫らしいが、ノアは神としての力を使おうとはしない。
「うーん、僕にもよく分からないんですけどね。
何か使っちゃいけない気がするのと、本棚にあった神関係の内容にも決して地上で神の奇跡を起こすなって書いてあるんですよね」
「何で何だろうね?」
「そりゃ、地上でホイホイ神の奇跡なんか起こされたらあの世界で生きている者達のバランスが崩れっちまうからだよ」
唐突に横から声がかかってそちらを見ると、船の縁の部分に1人の女性が立っていた。
燃えるような赤い髪を腰まで伸ばした野生的な美女。
スタイルの良い身体を覆う布は胸と腰しか無い。
その姿を見たシャーリーは女性の正体を確信する。
「……痴女だ」
「ちげーよ!!
ったく、ノアは何でこんな人間の女を眷属にしてんだよ」
女性は縁からジャンプして一気にノアに近づくと馴れ馴れしい様子で彼の方に肘を置く。
一方のノアは彼女の顔を無表情に眺めていた。
「どうしたんだい?
まさかこのアタシを忘れたなんて言うんじゃ無いだろうね」
「そのまさかなんですけどね。
記憶が無くなる前の僕とはお知り合いで?」
「はぁ!?
おい、人間の女!
どう言うことだい?」
「え……殴って頭に踵落としから?」
「いや、意味が分からん。
神であるアタシらが人間の攻撃くらいで記憶を失う訳ねえだろ」
「試してみる?」
シャーリーはそう言って立ち上がり構える。
「おもしれぇ……アタシにそんな舐めた口聞いた人間は初めてだよ。
アタシら神と人間にはそんな冗談言えないくらいの差が開いてる事を教えてやるよ。
どっからでもかかってきな!」
「じゃあ、遠慮なく」
シャーリーは即座に真っ直ぐ行って右ストレートをぶっ放した。
「うお!?
遠慮がねぇ上にド鋭でぇ!?
お前、只の眷属じゃねぇな?」
「眷属って何なんですか?
私は別に誰かに忠義を誓ってる訳じゃないですよ」
「はぁ!?
ノアに力を借りてる訳じゃなくて自分の力だって言うのかい?」
「気に入らないものは何でもぶちのめす為に修行しましたからね」
会話しながらもシャーリーが攻め続けるが女性は辛くも凌ぎ切っている。
そして一旦距離を取ると待ったをかけた。
「アンタのこと舐めてたのはアタシだったみたいだね。
アンタ、名前は?」
「シャーリーです……貴女は?」
「アタシは神の1柱、エムザラ。
シャーリー、アンタのこと気に入ったよ。
この勝負でアタシが勝ったらアタシの眷属になりな。
その代わりにシャーリーが勝ったら何でも好きな願いを叶えてやるよ」




