いま、旅立ちのとき。
「神様の力でパパッと何か出来たりしないの?」
シャーリーがそう尋ねるとノアは腕を組んで唸る。
「うーん……出来なくは無いです。
ただ、一度起きてしまったことを捻じ曲げることは無理ですね。
精々認識を変える程度です。
それも強烈なイメージを持っているものを変えるのも不可能ですね」
「どう言うこと?」
「お姉ちゃんがやった、魔術師ギルドを筋肉ギルドに変えたこと全般を無かったことにするのは無理です。
加えて、彼らの中でお姉ちゃんの存在はとても大きなイメージとして残っているので、こちらも弄るのは不可能です。
弄れるのは精々名前を誤認させる程度ですよ。
それも元とかけ離れている名前は出来ませんので似た名前ですね。
例えばシャーリーではなくシャンディみたいに」
「ふーん、じゃあそれでお願い。
それにしても神様の力って言っても色々と制約があるんだね」
「これでもギリギリなんですよ。
あまりやりすぎると……」
「やりすぎるとどうなるの?」
そこでノアはコテンと首を傾げながら
「どうなるんでしょうね?
何かやってはいけないと言うことだけは覚えているんですが」
「ああ、ここで記憶障害か。
普段話していると記憶が無くなったように感じないから時折忘れちゃうよ」
「以前の自分が色々と本にしてデータを残しておいてくれたお陰ですかね」
ノアの返答にシャーリーは両手を上げて首を振った。
「私は以前のノアは好きじゃ無いから微妙だけどね」
「嫌われるだけの理由はありますからね。
僕もお姉ちゃんに嫌われるのは嫌なんでこのままがいいですよ」
こうしてノアの力によって人々の頭の中にある恩人がシャーリーからシャンディに置き換わっていった。
シャーリーブランドを掲げていた人達はなぜ自分たちはこんな偽物のような名前を掲げていたのかと疑問に思いながらも看板を新しいものに変えていった。
こうしてサリトンの街の英雄がシャンディに置き換わった頃……2人は旅に出ることにした。
「もうこの街は大丈夫だから私たちは旅に出る」
「今までお世話になりました」
「お、お待ちください!
シャンディ様とノア様には大変お世話になりました。
まだお礼も返しきれておりませぬ」
慌てて引き止めるダルダリオン。
彼の身体も初めてあった頃に比べたら二回りは大きくなっている。
昔のダルダリオンを知っている人物がその姿を見たなら
「ずいぶん……鍛え直したな……」
と思わず言ってしまう程であろう。
「好きでやったことだからお礼はいらない」
「ここに居た時間楽しかったんですが僕達にもやらなければいけないことがありますので」
「……分かりました。
確かにお二方は人類の至宝。
私たちが独占するわけにはいきませんね。
出発はいつをご予定で?
「実はもう街を出るだけ」
「ここが最後の挨拶なので、この後はすぐに街を出るつもりです」
「そうでしたか……実に急な話で名残惜しいです。
……そうだ!
これをお持ちください」
ダルダリオンはそう言って杖に蛇の絡みついたピンバッチを取り出した。
「これは?」
「我が魔術士ギルドが身分保証するためのバッチです。
これがあれば何処の街でもこれを見せるだけで通行できるでしょう」
「それで中に入った人が暴れたら危ないのでは?」
「その時は我が魔術師ギルドが全責任を負います。
全ての責任を負っても信頼する人物という証なのですよ」
「分かった……大事にする」
ダルダリオンの真意が分かったのか、シャーリーはバッチを握り締めながら呟いた。
「この街は貴方達をいつでも歓迎いたします。
いつでも遊びに……いえ、帰ってきてください」
こうして2人はサリトンの街を後にする。
その数日後……この街に勇者一行がたどり着いた。




