美味しいは強い
間違えて別の部分に投稿していました。
申し訳ありません。
「帰る準備しよう」
シャーリーがそう言って道具箱を取り出すとパカっと開いた。
どう言うことかとジュリアンが見ていると、ノアがシャーリーの仕留めたタードラゴンを担いでは道具箱に投げ入れていく。
どういう作りになっているのか分からないが、明らかに箱より体積が大きいタードラゴンをどんどんと飲み込んでいく道具箱。
この箱にも驚きであったが、ジュリアン達が驚いたのはノアの方である。
てっきりシャーリーについていって手伝いをしている普通の少年だと思っていた。
だが、タードラゴンを軽々と持ち上げて正確に道具箱に投げ入れる腕力は只者では無い。
彼もきっと戦えと言われれば一人でタードラゴンを倒すことが出来るのだろう。
「残ったタードラゴンはギルドの手柄ですのでどうぞ」
『うおおおおおお!!』
そう言われた下級魔術士達は叫びながら残ったタードラゴンを担ぎ上げて街まで運んでいく。
「後は貴方達だけ」
「全員治療しますね」
シャーリーの指示でノアは懐から袋を取り出すと紐を緩める。
すると中から緑色に光る粉が空に向かって飛び出し、辺り一面に降り注いだ。
「いた……くない?」
「火傷が治ってるぞ!?」
先程まで反射された自身の魔法を喰らって倒れていた魔術士達が立ち上がる。
彼らの傷は綺麗さっぱりと消え去っていたのだ。
更にジュリアン自身も感じていたのだが、失われた体力が戻っている。
こうして元気になった上級魔術士達も全員無事に街に戻ってきたのだが、驚きはここからだった。
戻ってくるや否や、シャーリーとノアは鮮やかな手並みでタードラゴンを捌き始めたのだ。
肉と甲羅、歯や爪と分けられたタードラゴン。
今度はその肉を巨大な鍋を使って煮込み始めた。
明らかに異様な光景であるが、下級魔術士達はそれを一切疑問に思わず、皆ワクワクした目で待っていた。
そして始まる宴……彼らはシャーリーから振る舞われたタードラゴンの鍋を嬉々として食べ始めた。
正直な話近寄り難い光景だとは思ったが、ジュリアン達上級魔術士達は彼女と彼らに命を救われた恩がある。
その礼をしようと意を決して中庭に踏み入れるとシャーリーがずいっと前に出てきた。
「我々、魔術士一同は貴女に命を救われた礼を……」
「はい、どうぞ」
したい。
そう言おうとしてジュリアンの目の前に中身の入ったお椀を突き出す。
「こ、これは?」
「次が詰まってるから早く受け取る」
「う、うむ」
シャーリーの勢いに押されたジュリアンがお椀を受け取る。
すると、シャーリーは同じように後ろの魔術士にお椀を渡す。
そしてアレよアレよと言う間に上級魔術士全員にお椀が行き渡ってしまった。
「う、うまあああああい!!」
お椀を持ったままどうしたら良いか分からないジュリアンの後ろから叫び声が聞こえる。
どうやら勇気ある隊員の一人がお椀を口にして思わず叫んでしまったらしい。
「なんだ、これ!?」
「うまっ!タードラゴンうまっ!!」
それを皮切りに他の隊員も次々にお椀の中身を口にしては喜びを噛み締めるような感想を述べていく。
ジュリアンも意を決してお椀のスープから口にしてみる。
すると今まで味わったことがないほどに濃厚な味が彼の舌を喜ばせた。
レストランでは食べることの出来ない野性味溢れた味である。
気がつくと夢中でお椀にかぶりついていた。
そして、中身が無くなってから慌てて自分の目的を思い出して顔を上げる。
するとシャーリーは満足そうに頷きながら鍋の中身をよそったお椀を簡易的に作られたテーブルに並べ始めた。
「美味しいは分け与えるもの。
美味しいものの前にはどんな悩みも無力」
そう言って笑う彼女の姿にジュリアンは心の中で白旗を挙げた。
そして今は思うままにこの美味しい料理を味わおうと決意するのであった。




