ジュリアンの困惑
「な……何が起きていると言うのだ?」
ジュリアンは目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。
自分達が馬鹿にしていた下級魔術士達が特殊なタードラゴンと対等に戦っているのだ……魔法を使わずに。
タードラゴンの攻撃は下級魔術士に全く当たらず、本来硬い甲羅に覆われて通らない筈の杖の打撃を受け絶命していく。
「一体これはどう言うことなのだ……」
「彼らが装備しているのは極限まで鍛えた回避装備です。
そこにエンチャントによる特性で更に回避を上げる効果が付けてあります」
答えを期待して呟いた言葉では無かったのだが、その呟きにあざとくも気付いたノアが答える。
「馬鹿な!?
そのような装備を下級魔術士分揃えるなど不可能ではないか!
そのような予算が何処から出たと言うのだ」
性能を聞き実際の効果を見れば分かる……あれは国宝級の代物だ。
一式揃えるとどれだけの値段になるか分からない。
それがこの場にいる下級魔術士の部隊……パッと見ても50人以上の人間が全員装備していた。
「自作したから無料」
「自作したとはいえ材料費が……」
「全部私が用意したから無料」
「………」
ジュリアンは何も言えなくなってしまった。
普通ならばそんな馬鹿な事をと言うところではあるが、目の前で実際に用意されて言葉通りの性能を発揮しているのだ。
これらを用意する方法を色々と考えてはみたものの、シャーリーが自分で用意したという答えが最も現実的に思えたからである。
「防具に関しては何も言うまい……だが、あの武器は何だ?
何故タードラゴンの硬い防御の上からダメージを与えられるのだ?」
「あの杖は自分の魔力を加算してダメージを与える事が出来るんです。
加算された分は防御力に関係なく通るのでダメージを与える事が可能なのです」
「それも貴殿が手ずから作られたものか」
「うん、そう」
そんな話をしている間にも下級魔術士達の手によってタードラゴンはどんどんと討伐されていく。
しかし、それにも限界は来るだろう……魔力の枯渇である。
更に魔力が枯渇した事でタードラゴンの攻撃を喰らってしまったものが出る。
「被弾したものを担いで即座に撤退!!」
ノアが叫び下級魔術士は倒れた仲間を担いで後ろに退がる。
ジュリアンはその光景を見てあの魔術士は無事ではいない……死んでしまったと思った。
昨日までは馬鹿にしていた下級魔術士だが、今の奮闘ぶりを見せられて犠牲になってしまったかと思うと、自分でも信じられないほどに悲しい気分が込み上げてきた。
だが、犠牲になった魔術士がシャーリーの元に運ばれ、彼女がフラスコに入った赤い液体をかけると彼はムクリと起き上がる。
「回復ありがとうございました!」
彼はお礼を言って下がった仲間のところに戻っていく。
「い、今のは死んだのでは無かったのか?」
「御守りを持たせてあげるから一回なら大丈夫」
「致死量のダメージを喰らっても一回だけ瀕死で耐えれるアクセサリーを装備させています」
「な……なんだと!?」
そんなもの……伝説上の装備ではないか?
世の国王達なら喉から手が出るほどに欲するであろう代物を下級魔術士全員に装備させるなど、この女性は一体何者なのだ?
そんな事を考えているとシャーリーが前に出始める。
「交戦中の方は下がってください!
今からお姉ちゃんが前に出ます!!」
ノアの言葉を聞いた交戦中の魔術士達が一斉に退いていく。
そんな彼らを追いかけるように動くのは未だに無事なタードラゴン5体。
「今夜はカメ鍋」
シャーリーはボソッと呟くとタードラゴンに向かって駆け出した。
 




