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仕込みとパフォーマンス

ギルド長の手前、表立って文句を言うものはいなかったがこの場に集められた全員が思っていた。


なぜ、魔術士である自分達が体力を鍛えなければいけないのかと。


こんな事は前衛職に任せておけば良いと子供の頃から身体を使ってこなかった彼らは頭の中で怨嗟の声を響かせながら走っていた。


だが、段々と気付いていく。


10分が経ち、30分が経ち、1時間が経過しても息が途切れない。


自分達にこんな体力など無かった筈だと。


もちろん自慢にもならないが鍛えたことなど一度もない。


貧弱、虚弱という概念が肉を得た者……それが魔術士である自分達だったはず。


しかし、現実では幾ら走っても体力が切れる事がない。


それどころか運動する喜びを知った身体を通して楽しいとすら感じ始めていた。


「はーい、そこまで」


「ランニング終了です。

急に止まると身体を冷ますので暫くは歩きながら聞いてください。

恐らく皆さんはこう考えていると思います……自分はこんなに体力があったのかと?

実は今日のために1週間前からお姉ちゃんが準備をしていたからです」


ノアの言葉に彼らはそんな馬鹿なと思った。


遠巻きに見る事はあれど、シャーリーとノアの2人には一切接触していないからだ。


だが、彼らも予想だにしていないところからシャーリーの手は伸びていた。


「実は1週間前から皆さんが食堂で食べている食事は全てお姉ちゃんの料理に代わっています。


ノアの言葉に「あっ!」とか、「確かに」と言った思い当たるフシのある人達の反応が返ってくる。


彼らは何となくではあるが、1週間前から飯が美味くなり豪勢になっていると感じていた。


「お姉ちゃんの料理は簡単に言うと皆さんの能力を底上げする力があります。

1週間食べ続けたおかげでこうしてマトモに運動が出来る身体となった訳です」


そんなことがある訳ない……最初にこの説明を受けていたならば彼らはそう思っていただろう。


しかし、現実に体力が強化されていて、知る限りで1週間前から食堂のご飯は美味しく豪華になっていた。


「最後に……皆さんが食べたご飯の肉の正体はコイツなんです!」


ノアがそう言った瞬間にシャリーはテントの外に置いてある道具箱を開く。


そこから取り出したのはどうやって収納したのか分からないほどに大きい……全長3メートルはあろうかと言うほどの巨大なタードラゴンであった。


驚くことにシャーリーはタードラゴンを両手を突き上げるようにして持ち上げていた。


「いっぱい食べて強くなる。

みんなこれくらい出来るようになるから」


そのパフォーマンスはギルドの下級魔術士の心を大いに掴んだ。


男たる者誰だって力ある者に憧れる。


しかし、憧れだけでそこを目指せるほどに人は強くない……まして魔術士に適性のあるような頭の良い者は特に。


そうして身体を鍛える行為を完全に捨てた彼らだったが、その時の情熱はまだ燻り続けていた。


その情熱がシャーリー達との出会いで一気に燃え上がる。


こうして、この日からシャーリーの元で下級魔術士の強化計画が行われることとなった。

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