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39.東区域

 リタさんは何事もなかったかのように地面から立ち上がる。

 そしてカウンターに座り直し、目頭を押さえた。


「おい、リタ。大丈夫か……?」


 ハイムさんが心配そうにリタさんに問いかける。


「大丈夫……。私は大丈夫だから……ハイムさんは料理を作ってきて」


 リタさんはそう言い、黙り込んだ。

 ハイムさんもそれ以上何も話しかけるべきではないと悟ったのか、厨房へと下がっていった。


 俺もリタさんに話しかけずにいた。というか話しかけられるはずがなかった。


 おかげでしばらく無言の時間が流れた。

 まるで葬式のようだった。

 息ができないほど気まずかった。


 幾ばくかの時間の後、ハイムさんが紙袋に包まれた料理を持ってきてくれた。

 リタさんはそれを受け取り、店を後にする。


 俺もリタさんの後に続くようにして店を出た。


***


 外は既に日が暮れており、街灯がぽつり、ぽつりと、明かりを灯していた。


 俺はリタさんの後ろをまるで尾けるように歩いている。


 気まずい……。

 リタさんまだ怒ってるよな……。


 どうやって謝ろう……。


 その時だった。


 ふと、リタさんが足を止めた。

 釣られて俺も足を止める。


「ハルト」


 リタさんに呼ばれ、びくりと身体が跳ねる。


 リタさんはゆっくりとこちらを振り向く。

 そして、申し訳なさそうな表情をして、頭を下げた。


「さっきはすまなかった」


 リタさんは真摯な声色でそう述べる。


 あれ? 逆に俺が謝られた……。

 もう怒ってないのか……?


「いや、その、なんというか、こちらこそ申し訳ないことをしたなーと……」


 俺がしどろもどろでそう答えると、リタさんは静かな口調で話し始める。


「ハルトは何も悪くないよ。悪いのは全部私なんだ。ハルトが私をかばおうとしてくれたのはわかってる。だけど私はどうしようもない奴だから、わかっていてついカッとなってしまった。……挙句の果てに手まで上げてしまって…………。本当にすまなかった」


 リタさんはそう言い、再度深く頭を下げた。


「いやいや! こちらこそ何の事情も知らないのに口を挟んでしまって……すみません」

「……最初から全部説明しておけばよかったんだ。悪いのは私だよ」


 そう呟くリタさんの表情は今にも泣きだしてしまいそうで、俺はさらに動揺してしまう。


「いや、そんな……、だって仕方ないですよ……、その……」


 俺が必死で言葉を探していると、リタさんがそれを遮るように言葉を発した。


「ハルト」


 リタさんが真剣な表情で俺の目を見つめてくる。

 風が吹き、リタさんの短めの髪が揺れてその顔をわずかに覆う。

 リタさんは一瞬逡巡した後、また泣き出してしまいそうな表情になり、口を開いた。


「私たちの事情を全部話す。…………そしたらもうこの国を出て行ってくれ」


 その言葉には強い意志が込められているのがわかった。

 言い方はお願いをするような言い方だったが、しかしその言葉は命令よりも強い意味を持っている。

 これはきっと最後通告だ。

 俺に拒否権は無い。


「……事情って何ですか」


 しかし、とにかく事情を知らないことには話は始まらない。

 国を出るうんぬんは事情を聞いてから決めたい。


「……場所を変えよう」


 リタさんは周囲を気にするように見渡してそう言い、街の中を歩き出した。


***


 リタさんについていくと、見覚えのある燃え尽きてしまった廃墟に出た。ここはこの間俺が迷いこんだ場所だ。

 確か東区域という名前だっけか。数年前に燃え尽きてしまったという区域だ。


 なるほど。

 ここなら周りを気にせず話せるな。


 リタさんはどこか悲し気な表情をしながらその焼け落ちた街を眺めている。


「これは、国王がやったんだ」

「え?」


 リタさんのつぶやきに俺は思わず生返事をしてしまう。


「この区域は国王の魔法によって燃やされたんだ」


 こういうリタさんの声色は悲しそうで、そしてどこか憎しみのこもった声色でもあった。

 国王の魔法によって燃やされた?

 なんで?

 というかこの規模の区域を魔法で?

 なかなか大規模な魔法じゃないかそれ?


「昔、ハルトと同じようなことをした男が居たんだ。彼は白タキシードの連中に反逆した。その結果がこれだよ。結局彼は住んでいたこの区域ごと燃やされて死んだ」


 リタさんはそう語った。

 ……まじで?

 だとしたらやりすぎだろ。

 ひどすぎる。

 白タキシードの連中に反逆しただけで? 白タキシードの連中はそんなに偉いのか? それに国王も謎だ。なぜこんな横暴なことを許しているんだ?

 だめだ。話についていけない。一つ一つ聞いていこう。

 

「白タキシードの連中は何者なんですか?」

「奴らは国王の近衛隊だよ。名目は近衛隊だが、実際は他国で言うところの貴族や王族と変わらない。この国の実権を握っているのは国王とその近衛隊なんだ」

「……はあ」

「といっても、私が何を言ってるかよくわからないよな。大丈夫。この国に起こったことを全部話そう。十年前の話からしなければならないから少し長くなってしまうが」

「お願いします」


 リタさんは崩れ落ちた建物に座る。俺もその横に座った。


 そしてリタさんはゆっくりと、この国の事情について語りだした。


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― 新着の感想 ―
[一言] キッズばかりかよ 作者は書きたいように書いてくれ
[良い点] テンポ遅いテンポ遅い言うけど描写もしっかりしてるし別に読んでて苦には思わない。 内容は面白いから、人に惑わされず自分の書きたいものを書いて欲しいですね。
[一言] 主人公さん理不尽なことが嫌いと言ってるのに リタに理不尽な暴力振るわれて謝罪するって・・・ リタと主人公のやり取りみて、DV加害者と被害者のように見えて不快な気分になりました。
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