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新たな旅立ち

「ん……」

 眩しくて目を覚ますと、暖かな日の光が森をかき分け窓辺に届いていた。体を起こし自分の状態を確認したところ、よく眠れたことで昨日疲れもとれていた。ベッドから降りて入り口の傍にあった鏡を見て寝癖がついた髪を手櫛で整える。

 部屋を出て、居間に行くとすでにエイミが朝食の用意をしていた。


「あらマグナスさん、おはようございます」


「ああ。おはよう」


「今、朝食の準備をしておりますので座って待っていてくださいね」


「いや、そこまで世話になるわけには」


「いいですから、座っていてください」

 エイミの迫力に押し切られてしまった。母親というのは強いな。

 言われた通りに座って待っていると、徹夜したのだろうか目の下に隅が出来たカイルが帰ってきた。


「母さんただいま。マグナスさん、おはようございます」


「徹夜したのか?すまない、無理をさせたな」


「いえいえ。少し仮眠したので平気ですよ」

 目の下が黒くなり顔色が悪い。ちゃんとベッドで休んだほうがいいだろう。眠そうな目を擦って俺の向かい側に座りカイルから刀を受け取る。


「色々調べさせてもらいました」


「疲れているところ悪い。何かわかったか?」

 すると、カイルは難しい表情をした。


「……一つお聞きしたいんですが、本当に人を切ったんですか?」


「ん?ああ」

 間違いなく、人を切った感触は覚えていた。それにミアたちも見ている。


「おかしいですね……」


「変なことを言ったか?」


「刃こぼれが一つもないんですよ。そもそも刀は手入れが大変なので不人気の武器です。折れやすいことから貴族などが、骨董品として飾るのが一般的です」


「武器として使うには、脆すぎると」


「ええ。そして3人切ったとミアから聞いています。それなのに刃こぼれどころか血が付着した形跡もない」

 ふと刀を抜いてみる。昨日刀を鞘にしまうとき、確かに刃こぼれがあったのを思い出す。しかし、今手元にあるのは傷もなく新品同然の刀だ。


「魔刀だからという説明だけでは足らないか?」


「いくら魔刀だといっても、人を切ったら刃こぼれの跡くらいはできると思います」

 規格外の代物ということか。俺がいた世界の文明はこの世界より進んでいるのかもしれない。


「使われている素材も未知の物です。切れ味は申し分ないですが武器として扱うには重すぎます。

……すみません。調べてみたものの何もわからなくて」


「いや、助かった」


「そうだ。都で働いている父を尋ねてみてください。父は魔道を研究しているので魔刀のことも詳しいはずです。都市の名前はグレンといいます」


「カイル、色々とありがとう」


「こちらこそ、こんな貴重な品を見せていただき感謝しています。見送りは出来ませんがよかったら、またこの村を訪ねてください」

 カイルと握手を交わし、彼は自分の部屋へと消えていく。入れ替わるようにしてミアが


「マグナス、おはよう。良く眠れた?」


「眠れた。一度ベッドから落ちてしまったが」


「ふふ。マグナス、体大きいからね。父さん小柄だから」

 確かに少し小さかったが、落ちるとは恥ずかしい。寝相が良くないのかも知れない。


「ちゃんと寝癖なおしたのね。うふふ、いつもは寝癖をつけて起きてくるのに」


「ちょっと、母さん!恥ずかしいからやめて」


「……聞かなかったことにして」


「気にするな。そういった一面も可愛らしいと思う」

 ミアは顔を赤くしてガシガシと髪をかき乱す。そういう意味ではないのだがな。


 乱れた髪のミアと朝食を食べ、外に出て一人で族長の家を訪ねるとマルが笑顔で族長と話をしていた。

昨日のことを引きずっていなさそうでよかった。靴を脱いで部屋に上がり二人に声をかけると、マルが駆け寄ってきて俺に抱きついた。


「お兄ちゃん。おはよー。えへへ」


「疲れはとれたようだの。だいぶ顔色もいい」


「ああ。いい村だった」


「昨日の晩、エイミがマルを届けてくれたとき、おぬしの記憶の件は聞いた。ずいぶんと奇特なことを申したから、心配ではあったのじゃが過去の記憶がないとはのう」


「相手からは無知な男に見えてしまうが、自分は新しい発見ばかりで楽しみが増える」


「ほほ。前向きな考え方じゃ。それと地図と食料を用意した。2日くらいなら余裕で持つと思うのじゃが、足りなかったらいっとくれ」


「感謝する」

 皮の袋には水が入った水筒と多くの保存食が入っていた。


「それと少しばかりだがこれも」

 渡された小さな皮の袋には銀色の硬貨が入っていた。


「一文無しではこの先厳しかろうと思っての」


「本当に助かる。これで旅が続けられる」

 今思えば、金銭も持たず旅をしようとするなんて、愚かすぎるな。この銀の硬貨の価値を教えてほしいと族長に聞くと、そのようなことまで忘れてしまったのかと驚かれたが、丁寧に説明してくれた。


「今いる場所は、地図の最南端に位置するエルフ領の第1集落におる。森を抜けるなら村の入り口を正面に見て北東に向かうといい」


「わかった。道中気をつけることはあるか?」


「方角を見失わないことじゃ。わしらにとっては庭のような森の中でも人間には同じ景色に見えて迷いやすい。それと、ボイドには気をつけなされ」

昨日会った盗賊たちのことか。勢力が拡大していると言っていたな。


「奴らの正体は?」


「謎につつまれておる。以前までは、小規模の団体だったのじゃが、最近になって規模が大きくなり様々な地方で悪行を働かしておる」

 どんな世界でも悪行を生業としている者は少なからず存在するが最近というのが気になる。指導者が変わったのだろうか。なんにしても向かってくる火の粉は振り払うまでだ。


「気をつけるとしよう。それでは、族長そろそろ」


「うむ。この村の近くに来たらぜひ立ち寄るといい。歓迎しようぞ」


「お兄ちゃん、いっちゃうの?」


「ああ。マルも元気でな」

 もう会うことはできないかもしれないが、この村の人たちがしてくれたことは忘れずにいよう。そう決意し屋敷から出ようとしたら、血相を変えたネイが屋敷に入ってきた。


「おじい。問題発生」


「どうしたのじゃ」


「隣村の者が、マグナスを出せって村の入り口まできている」


「なんじゃと」

 どうやら旅を続けるのは、まだ先になりそうだ。

ストック溜め中です。

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