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生き返ってからの始めての休息

 アニーがミアの家へ案内してくれた。大きさは族長の屋敷ほどではないが、人が暮らしていくぶんには十分すぎるほど立派な家だ。用事を思い出したアニーと玄関で別れ、既に中にいたエイミに風呂場へと案内された。


「ここが脱衣所になります。正面にある扉を開けると浴室となっています。脱いだ服はこちらの籠に入れて下さい。入浴している間に代わりの服を用意しておきますね」

 エイミは丁寧な口調で説明する。着ている汚れた服も洗ってくれるとのことだ。


「何から何まで申し訳ない」


「いえいえ。それではごゆっくり」

 エイミが脱衣所を出て行った後、土と血がついた服を脱ぎ籠に入れる。浴室の扉を開くと下は綺麗な石床、風呂場は広く奥行きがある浴室で木材の大きい四角い浴槽があった。浴槽に近づいてみると、花のような良い香りがする香料が入っているのか、お湯は薄緑色をしている。木の桶でお湯を体にかけて汚れをよく洗い流し、湯船に入ると気持ちよくて自然と声が出た。

 ゆっくりとした時間が流れて、まどろんでいると脱衣所のほうで話し声が聞こえる。誰か、着替えを持って来てくれたようだ。


「私にも手伝わせて」


「ミアは安静。一人で平気」

 この声はミアとネイか。しかし、安静にと言われたのにするそぶりが全く無いな。エイミからしたら娘が心配で気が休まらないだろう。


「あなた一人じゃ心配なのよ」


「何故?」


「なぜってそれはその……マグナスに変なことしそうだし」


「変なこと……。実はミア。スケベなことするためについてきた」


「違うわよ!」

 外が騒がしい、嫌な予感がする。


「ミアの恩人にそんなことしない」


「そう? ならいいんだけど」


「変なことはしない」


「え? じゃあ何するの?」


「背中流す」


「ちょっと待ちなさい!」

 扉が勢いよく開きタオルを持ったネイが仁王立ちで立っていた。その後ろにいたミアは動きやすそうな格好に着替えていて、手で顔を覆っている。


「ネイちゃんの背中流しタイムー」


「あと少しだけ体を休めて出るから今はひとりにさせてほしい。それと、きみの後ろで時々こちらを見ている女も連れていってくれ」

 ミアは、はっとして顔を逸らす。

 

「平気。すぐおわる。ネイ後ろ向いてるから。準備できたら教えて」

 彼女は頑固なのか、一歩も引き下がらず聞く耳を持たない。背中を流さないと出て行かないつもりだ。


「ミアも後ろ向く」


「は、はい!」

 ミアは、とりあえず部屋に戻るんだ。


 観念して立ち上がり浴槽の縁の部分に腰かける。寒い時期じゃなくてよかった、下手したら体調を崩す。

 ちらりと後ろに視線をむけると真っ赤な顔をしたミアが俺の背中をじっと見つめていた。

 あいつは、もうダメだ。好きにしろ……。


「準備ができた」

 近づいてきたネイが泡だてたタオルで丁寧に背中を擦る。

 これは……なかなか気持ちが良いものだ。ネイが念入りに背中の汚れを落としていく。満足したのか傍にあった桶でお湯をすくい泡を流したので、感謝の言葉をネイに伝えようとしたが彼女は恥じらいもなくこう告げた。


「次、前洗う。こっち向いて」


「前はやめておけ」


「大丈夫。ネイ小さい時、弟と一緒にお風呂入ってたから見慣れてる」

 そういう問題じゃない。手で追い払う仕草をして湯船に浸かるとネイは不満なのか、むーっと唸る。親切心からかも知れないが唸っても前を洗ってもらうのはよろしくない。諦めたのかネイは立ち上がり浴室から出て行こうとする。そういえば、ミアが静かだな。


「……やるもん」

 は?小さい声で何か呟いている。何事かと見てみると決心した様子の彼女がそこにはいた。


「私が前やるもん!」


 彼女は浴室に杖をつきながら突撃してきた。

お前は何を決心したんだ!転んでさらに怪我を増やすだけだぞ!


「きゃあ!」

 案の定足を滑らせ、ミアが宙に舞った。


「あ。やば」

 案の定、足を滑らせミアが宙に舞う。ネイが宙に浮いたミアを抱き留めるがバランスを崩して尻餅をつく。


「ミア……。何してる」

 ネイが哀れむようにミアに声をかける。


「おい!大丈夫か!」


「いったあ……。へーきぃ。え……」

 慌てて湯船から出ると涙目の彼女の視線が俺の下腹部に集中しているのに気づく。彼女はきゅうと謎の声を出し、そのまま気絶した。


「ダメ。気失ってる」

 ネイがペチペチと額を叩いたが、起きそうにない。


「とりあえずエイミを呼んできてくれ……」

 あきれ果てて湯船に戻り天井を仰ぎ見る。体は綺麗になったが、疲れはあまり取れなかった。


 

 エイミとネイに回収されたミアを見届け、風呂から出て、タオルで体を拭き、用意された服に着替える。サイズは丁度よく、動きやすい。

 着替えの途中で籠の横にキラリと光る緑色の指輪を見つけた。ミアが盗賊に奪われていたのを、密かに俺が回収しておいた物か。食事の時にでも返そう。

 隣の部屋ではエイミが”ミーちゃん!起きなさい”という声と共に何度も叩く音が響いてくる。聞かなかったことにしよう。


 着替えを済まして風呂場から出ると、大きめな四角いテーブルに置かれた肉、魚、野菜を使った色とりどりな料理がたくさん用意されていた。何も食べていなかったので美味しそうなにおいで、腹が鳴る。


「お兄ちゃん、こっちこっち!」

 マルの隣に腰を下ろすと左隣には両頬を赤く腫らしたミアが座っていた。


「うー。今日一日で怪我が増えていく……」

 痛々しいな。だが、途中からの怪我は自業自得だ。


「それじゃあ、みんな座って。さあ、感謝の祈りを」

 エイミが皆に合図をすると、皆が目を閉じ胸の前で手を組み祈るようにする。この村の食べる前の作法だろうか。見よう見真似で手を組み祈る。


「さあ、冷めないうちにいただきましょう」


「マグナスさんも、遠慮しないでどんどん食べてくださいね」


「ありがとう」

 祈りが終わると、皆料理を食べ始める。初めに魚料理から頂こうと取り皿に移し、箸で身をほぐし食べる。少し薄味ながらも口の中で魚の旨味が広がる。

 隣を見るとミアは、色々な料理を山盛りに積んでいる最中だった。

 それ全部1人で食べる気か?

 ミアの食欲に戸惑いながら、俺もシチューやパンなどを貰い次々と食べて腹を満たしていく。空腹も落ち着いてきたところでエイミが声をかけてきた。


「マグナスさん。お口に合いましたか」


「大変おいしい。これ全てエイミがつくったのか?」


「そうですね。今は怪我をされてできませんが、いつもはミーちゃんが料理します」


「ミアは料理が得意なのか?」


「何で意外そうなのよ」

ミアが不服そうに睨んでくる。


「ふふ。上手ですよ。子供の頃から私のほうで料理を教えていたのですが、料理の腕もどんどん上達して今では村一番の料理上手です」

 ミアはふふんっと自満気な顔をする。皿にずいぶんと盛るものだから食べる専門かと思っていた。

 ふと向かいの席を見ると、村の入り口で出会った青年が座っていた。俺からの視線を感じたのか目が合い、青年は食事の手を休めた。


「ご紹介が遅れまして。エレミアの兄のカイルといいます」


「マグナスだ。よろしく」

カイルと軽く挨拶を交わし、山盛りの食事を平らげて幸せそうな表情をしているミアに声をかける。見ていて気持ちがいいくらいすごい食欲だな。


「ミア、これを渡しておく」


「うん?」

 きょとんとしているミアの手のひらの上に緑色の指輪を乗せる。


「あ!指輪!取り返してくれたのね。よかったぁ。ありがとうマグナス」

 途端に皆の視線がこちらに集中する。


「ミアお姉ちゃん、お兄ちゃんと結婚するの?」


「二人はもうそんな関係なのか?」


「ミーちゃん。おめでとう!」


「なんや、妬けるなあ。お似合いやん」


「ミア。今日ねれない」


「ち、ちが!これはその……えへへ」

 ミアは顔が赤くなって微笑む。

 まずい、その顔はさらに誤解を生む。


「ミアが元々付けていた指輪だ。盗賊に奪われていたのを俺が回収しておいた」

 淡々と説明するとミアが不満そうに睨んでくる。

睨むな。本当のことだ。

皆、暖かい眼差しをこちらにむけてくるので視線を料理に集中し、気にしないように振舞っているとカイルが苦しそうな俺を気遣い、別の話題を提供してくれた。


「マグナスさんは旅をされているのですか?」


「ああ。旅の目的は記憶探しといったところか。言い忘れていたが俺は自分の過去の記憶がないんだ」


「え!記憶喪失ってこと?」


「自分の名前は思いだせたのだが、過去の記憶は何も思い出せない」


「それはまた。……知らなかったとはいえ立ち入ったことを聞きました。すみません」


「謝ることじゃない。目覚めたら記憶が抜け落ちていて森の小屋の中にいた」


「だから、森をさまよっていたのですね」

 エイミが道理でと納得していたが本来はその場所に神が転移させたんだったな。皆を混乱させてしまうからこのことは黙っていよう。


「空腹に襲われて大変だった。目覚めたとき、自分の持ち物はこの刀だけだったからな」


「ちょっと見せてもらってもよろしいですか?」

 カイルは刀が好きなのか目を輝かせていたので、頷き肯定する。


「兄さんは、この村で鍛冶屋を営んでいるの」

 なるほど。職業柄興味があるのか。

 彼に刀を手渡すとその場で調べ出す。エイミが食事中よ後にしなさいと注意しても、集中していて声が届いていない。刀身を少しだけ抜くと、カイルは驚いた表情をして鞘に戻した。


「どうした?」

 なんの変哲もない、ただの刀だと思うが。


「まだはっきりとした事はもっと調べないと、わからないのですが。おそらくこの刀」


「魔刀だと思われます」

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