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エルフの村

 真新しい木材の屋根と落ち着きを与える白色の外壁が施工してある大きな屋敷の扉を開く。

 屋敷の中はゆったりとした広々とした空間が展開していた。床には畳が敷き詰めてあり、い草の香りが立ち込め緊張がほぐれる。土足で上がるのを踏み留まって靴を脱ぎ畳に上がると屋敷の奥に白髪と白い髭を蓄えた老人が座っていた。


「おじいちゃん!」

 マルが勢いよく走り出し老人に抱きつく。


「えへへ。おじいちゃん、おひげくすぐったいー」


「どうやら、怪我は無いようじゃな。心配かけさせよって」

老人はマルを抱きしめ頭をなでる。


「エレミアもご苦労じゃった」


「うん。無事に帰ってこれたわ」

 背負っているミアを床に下ろし、壁に背をもたせかける。


「族長。先に報告するね」


「その前に足の治療が先じゃ。エイミ、アニー!入りなさい」

 背後を見るとこの村の住人たちが屋敷の外に集まっていた。その人だかりから、2人の女性が現れ屋敷の中に入ってくる。


「エレミアの治療を頼む。そこの右の部屋を使うといい」


「はい、族長」


「母さんごめんね」


「ミーちゃんの無茶はいつものことでしょ。

でも、無事に戻って本当によかった」

 ミアの隣に座り靴を脱がしていた黒髪の女性が頭を撫でている。


「アニーにも心配かけたね」


「今度は二人以上で行動しいや。脳筋すぎるで」

 緑色の髪をした女性がミアを叱る。どうやら彼女は話の様子から見るに無茶な行動を頻繁に行っているみたいだ。2人がミアに肩を貸し、右側の部屋へ少しずつ歩いていく。


「ミアお姉ちゃん、だいじょうぶだよね?」


「大丈夫、エレミアは強い子じゃ。それに優秀な薬師である二人もついておる。その間にマルよ、風呂にでも入ってきなさい」


「でも……ミアお姉ちゃんが。……うん、わかった」


「ほれ、皆の者。心配なのは分かるが仕事に戻ろうか。それと誰か、ネイを呼んできてくれんかの」

 終始心配そうな面持ちでこちらを見ていた住人たちがそそくさと動き出す。


「ん。ここにいるよ」

 少し短めの茶色の髪の女性が柱の陰から現れた。

 気配を消していたのか彼女が今まで居たことに気づかなかった。なかなかやるようだ。


「そこにおったか、ネイよ。そちらの客人にお茶か水を。それと、すまないのじゃが風呂にいるマルの様子を見ておいてほしいのじゃ」


「了解。水でいい?」

 こちらに視線を向ける。彼女の目が光ったような気がする。


「ああ。助かる。多めに頼む」

 歩きすぎて喉もカラカラだ。少しだけ飲んでも渇きは治まらないだろう。


「ん。わかった」

 そこからの行動は早かった。すごい速さで水が入った小さなガラスの容器が次々と俺の周りに置かれていった。驚きはしたものの、水の誘惑に勝てず一気に口に流し込む。乾いていた喉が潤いを取り戻していく。行き倒れだけは回避できたようだ。


「おかわりほしいとき声かけて。秒で持ってくる」


「あ、ああ……助かる」

 彼女は得意げな顔をし、にやりと笑った。

 物を運ぶ達人なのか? 眼光が鋭すぎる。


「おじい。マルの様子みてくる」

 族長が頷くと彼女は颯爽と左の部屋に消えていく。悲しいかな、水のおかわりはすぐにお預けになった。


 目を瞑り楽な姿勢で座りながら、俺はこの先のことを考えていた。想像だが、人族とエルフは種族が違うことから互いが良好な関係を築いているとは考えづらい。今のところは平気だが、人族が村の中にいることを(こころよ)く思わない者も出てくるだろう。食料をわけてもらったら森を抜ける方角を聞いて、早めに村を出よう。



 治療から20分ほど時間が経ったころ、部屋から杖をついたミアが出てきた。


「どうなんじゃ。足の具合は」


「幸いなことに骨には異常はないようです。私が調合したこの薬を塗り包帯も頻繁に変えれば2日ほどで傷は塞がるでしょう」


「それと、安静にすることも条件や。ミアは訓練の後、怪我しとんのにすぐにふらっと、どこぞいくからなあ」


「あはは……」

 緑色の髪の女性に言われたことが思い当たるのか、ミアは渇いた笑い声をあげている。

怪我の具合から見て普通なら7日以上かかるはずなのに2日で塞がるということに驚きを隠せなかった。よほど、調合した薬の効果が良いのだろうか。


「そういえば、マルは?」


「風呂じゃ。ネイに様子を見てもらっとる」


「そっか、ネイに。……不安しかないんだけど」

 ミアは安心よりも不安そうな表情をする。過去に彼女が何をしたのか興味があるな。


「エレミアよ。おぬしも疲れているじゃろうが、簡単に報告しとくれ」

 俺の隣に座ったミアは頷くと、今回の経緯を話し始めた。



「なるほどの……。よりによってボイドに追われていたとは。腕に紋章が掘ってあったのじゃな?」


「ええ、間違いないわ。まさかここまで進行してくるなんて。勢力が拡大しているという噂は本当だったのね」


「そこで偶然出会ったそちらの客人に助けられたと」


「そんなところね」

 族長が改めてこちらに目を向けて、深々とお辞儀をした。


「子供たちが助かったのもそなたのおかげじゃ。この村の族長としてお礼を申しあげたい」


「頭を上げてほしい。奴らが何者なのか知らないが、彼女たちに危険が迫っていたのは誰が見ても明らかだった。それに俺も森で迷い行き倒れになりそうだったんだ。助かったのはこちらも同じだ」

 実際に危ないところまできていた。彼女たちに出会えていなかったらどうなっていたことやら。


「エレミアよ。彼の名はなんと?」


「うん?ああ名前ね。うんとね。えーとね。あれ……。そういえば、自分の紹介もしてない……」


「この子は本当にもう……」

 呆れたとばかりに母親がため息をつく。


「状況も状況だったから仕方ないことだ。

 名は、マグナスという」

 あの神の言うことだから本当の名前なのか疑わしいが。


「私はエレミア。村のみんなからはミアって呼ばれているわ。そして森の中で一緒にいた子の名前はマルっていうの。改めてよろしくね。マグナス」

 ミアは満面の笑顔になり、握手を求めてくる。その笑顔に思わず、心臓が軽く跳ねる。

 俺も男だからな、美人には弱いんだ。平常心を保ちつつ握手を交わした。


「それで、こっちが私の母さんと親友のアニー」


「エイミと申します。この度は子供たちを救ってくださって本当にありがとうございました」

 なんとなく顔立ちがミアに似ているとは思っていたが、母親だったとは。


「何もないところやけど、ゆっくりしていってな。うち薬師やねん。薬がほしいなったら相談してな」


「アニー。あなたはまだ、見習いでしょ?」

 横からエイミが釘をさすとそうやったとアニーは笑い声をあげる。旅を続けるにあたって薬はいくつか欲しいな。村を出る前にでも声をかけてみよう。


「紹介は、済んだようじゃの」


「族長。折り入って頼みがあるのだが」


「なんでも申してみなされ」


「1日分の水と食料、それらを入れる袋を譲ってほしい。それと、地図がほしい。今日中に森を抜けたいと思っている」

 早いところ村を出よう。森を抜けた近くに町があれば助かるのだが。


「え!もういっちゃうの……?」


「あまり長居はしないと決めていたからな」


「助けてもらったお礼もまだなのに……」

 ミアが驚きの声を上げ悲しそうな表情になってこちらを見てきた。

 ……そんな目で見ないでくれ。決意が揺らぐ。


「マグナスよ。そなた何か急ぎの要件でもあるのかの?」


「特に急いではないんだがな」


「うむ。頼まれた物は喜んで用意をしよう。

 ただのう、もう時間も遅い。今日は、この村に泊まっていきなされ」


「しかし俺は人族だ。人間が滞在するのを好ましくないと思う者がいるんじゃないか?」


「ふむ。エルフと人族が仲違いを?そなた、面白いことを言うのう。何千年前の古代の時代にはそんなこともあったらしいの。じゃが、今の世は仲違いなぞしていないぞい」


「何?そうなのか?」


「その証拠に見てみい。エイミは人間でこの村に長いこと住んでおるぞい」

 確かに彼女の耳の形は人族と同じだ。


「人間とエルフが一緒に暮らしているのか?」


「もう20年になりますか、旦那様と結婚してこの村に嫁いできました。

 その間に子供2人を授かりまして 。ちなみに申し上げますと、旦那様はエルフ族ですよ」

 ひとつわかったことがある。俺の考え方はこの世界では的外れだ。


「夕食を用意しているので、少しだけお待ちになってくださいね」


「マグナスよ。安心するのじゃ。人族を好ましくないと思ってる者はこの村にはいないぞい」

 隣を見るとミアが真剣な目をして頷いていた。


「それに森の中をずいぶんとさまよったみたいじゃな。汚れが目立つのう。食事を準備してる間に風呂にでもゆっくり入りなされ」

 風呂か……魅力的な提案だな。

 皆の視線を感じる。どういう訳か断ったほうが悪い感じになりつつある。

 それに森の中をさまよっていたせいで少しばかり体が臭うかも知れない。


「臭うか?」

 横にいたミアに確認してみると彼女は俺から視線を外し、こくりと首を縦に振る。


「ごめんなさい……少し……」

 ……どうやら今まで皆に気を使わせていたようだ。

 風呂に入らずこのまま他の町についたとしても臭いで住人に避けられてしまう。


「わかった……。世話になる」

 諦めたように、そう答えるとミアが再び笑顔を咲かせた。


「それじゃあ、私の家のお風呂でいいよね。お母さん、お湯はもう張ってある?」


「用意してあるわよ」


「なら先に戻って、マグナスの着替えを用意しておいて」

 エイミは、笑顔ではいはいと言いながら立ち上がり屋敷から出ていく。


「アニーは、薪を追加しておいてくれる?それじゃあ私は……」


「安静や。怪我してるのもう忘れとるん?」

 アニーがミアの頭を軽く小突くとそうだったとミアの表情が固まる。


「それやったらミアは、長風呂姉妹にこっち来るように声かけといてな」


「わかった。あの子たち相変わらずの長風呂ね……」

だいぶ長い時間あの2人は風呂場から出てこないな。


俺も気が緩んだのか、にぎやかな雰囲気と安心感につい笑みがこぼれた。

今日はこの村のご厚意に甘えよう。

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