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一方的な暴力

 俺の記憶は失われた。ただ、神が蘇生させるときなにをしたのかわからないが戦い方は不思議と覚えていた。

 悪いが、俺もこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。一度死んでいたとしても立ち止まるわけにはいかない。

 盗賊が振りかざした刃が目の前に迫ってくるが、遅すぎる。

 相手の攻撃をかわし、心を乱さず抜刀して盗賊を十字に両断した。その人間は、一瞬で無数の肉塊になった。


「な……何が起こったんだ……」

 短刀で怪我をしていた野盗の1人が呆然と言葉を発した。その男にゆっくりと近づく。何も語らず、笑みを浮かべず、刀を構えもしないで相手だけを見据え近づいていく。


「う、うわぁ! くるなあ!」


「逃げるな! 一斉にかかれば相手に勝ち目はねえ!」


「しかし……!」


「失敗の報告なんてしてみろ! 殺されるだけだぞ! 分かったら動け!」

 2人は武器を構え直し自分を囲むように前後に挟みこんできた。


「貴様に勝ち目はないぞ! 命乞いでもしたらどうだ!今なら特別に逃げても許してや――」

 喋っている頭役の首をなぎ払う。頭が地面に転がり静かになった。残り1人。何が起こったのか理解できずに動いていない奴を無慈悲に刀を腹に突き刺す。そのまま力任せに捻りを加える。くぐもった声を出し、しばらくすると動かなくなった。体から刀を引き抜き、刀身についた血を払い落として鞘に戻す。

 終わったようだ……。


 足元にはさっきまで人であった無数の塊が転がっている。俺が殺したんだ、許される事ではない。そう自分を責めても心は落ち着いていた。

 目を閉じ思考を切り替える。今は少女たちを解放するのが先だ。


「大丈夫か? 縄を解くから動かないで」

 2人は頷きはしたが、言葉を発さず縄を解かれるのを静かに待っていた。縄を解いた後、盗賊の荷物から開封されてない酒精の強そうな酒で傷口を消毒しミアと呼ばれた女性が持っていた包帯を使い足の応急措置を施した。矢を抜く時、血が溢れ、激痛で苦しそうだったが取り除くことが出来た。

頑張ったなと伝え、彼女の額の汗を拭う。



 応急処置から少し時間が経過した。ミアは呼吸が落ち着いてきたのか助けてくれてありがとうと感謝の言葉を述べる。


「痛みはどうだ」


「さっきよりは全然まし。それに戦闘の訓練で怪我にも慣れているから」

 ミアは笑顔をこちらに向けて、ゆっくりと立ち上がろうとする。


「ほらね……つぅ!」

 倒れそうになる彼女の腕を掴み、体制を整え、ゆっくりと座らせる。


「無理はするな。応急処置をしたとはいえ、足に矢が刺さったんだ。痛くないわけがない」

 普通の人間なら処置の段階で気を失うだろう。


「ミアお姉ちゃん……大丈夫なの?」

 マルという名前だったか……小さな少女は心配そうにミアを見つめている。


「家に帰って、母さんに治療して貰えばすぐ治るわ。

 マルこそ大丈夫だったの?怪我は見たところないようだけど。怖かったでしょ」


「へーき。でも、わたしのせいでミアお姉ちゃん怪我しちゃった……」


「こら。そんなこと言わないの」

 マルの頬を軽く摘まみ優しく微笑む。


「少しいいか? もしかして、近くに町があるのか?」


「ええ、あるわ。森で隠されているからわかりづらいけど私たちエルフ族が暮らしている村があるのよ」

 森の中に村が。それにエルフ族。前世での記憶は自分にはないが、常識はそれなりに覚えているみたいだ。確か自然と豊かさを司る空想上の生物のはずだが、この世界では現存するらしい。


「すまないが、その村まで案内をしてほしい。できれば、水と食料を少しばかり分けてくれると助かる」


「もちろんよ。助けてもらったお礼もしたいし。でもこの足じゃあね……」

 傷ついた足に視線を向ける。いささか大胆だが簡単な方法がある。


「非常時だ。君を背中に背負う」

 彼女の側にしゃがむ。痛みを与えないように気をつけないと。


「え……? ええ!?」


「他に方法が思いつかない。嫌なら言ってくれ」


「そ、それじゃあ……。し、失礼します」

 おそるおそる背中に体を預け肩に両手を置く。後ろに回していた腕で彼女の両足を振動を与えないように抱えてゆっくりと立ち上がる。


「こうすれば、歩けなくても道案内はできるだろう。俺の刀は持っていてくれると助かる」

 ミアに持っていた刀を手渡す。

 

「足が痛い時は遠慮せずに言ってほしい」

 ん?急に大人しくなったな。心配そうなマルがミアの顔色を伺う。


「ミアお姉ちゃん!お顔、まっか!お熱あるの!?」


「へ、へーき! ほんとに大丈夫! お願いだからこっち見ないで!」

 さっき会話していた時よりも甲高い声で、まくしたてる。全然大丈夫そうに見えない。口には出さなかったが俺は直感的に理解していた。

 男に免疫がないのか……。

 彼女が立とうとして腕を掴んだ時も、少し頬に赤みが差していた。まさかとは思ったが、これほどまでにか。しかし、少しの間、我慢してもらうしかない。


「なるべく前に体重を預けてくれ。それで、ここからどっちに行けばいい」

 照れているせいなのか彼女が無言で指をさした方向へ歩いていった。


 先ほどいた場所からだいぶ歩いてきた。ミアは、少し慣れてきたのか右手で刀を持ち、左手はしっかりと俺の肩に手を置いて体重を前に預けている。まだ少し手は震えているがな。マルもしっかりとした足取りで、俺たちの後ろをついてくる。


「君は何故こんなところに一人でいたんだ?」


「あ、それはー……」

 言いづらい理由があるのか視線がさまよい、言葉が詰まる。


「そうよ! なんで一人で村の外に出たの!?」

 いきなり耳元で大声はやめてくれ。


「うー、ごめんなさい」


「何があったの? 言えないことなの?」

 畳み掛けるように質問したら混乱して喋りづらいだろう。


「嫌な質問をしてしまった。怖い目にあって疲れているはずだ。落ち着いてきたら話すといい」


「う? ……うん」


「ごめんねマル。問い詰めるような真似して」

 ミアも少し言い過ぎたと思ったのか謝罪する。


「わたしこそまだ言えなくてごめんなさい。……お兄ちゃんありがとう」

 兄というのは俺のことか。おじさんと言われなくて安心した。


「お兄ちゃん。どうしても、気になっていることあるんだけど聞いてもいい?」


「どうした」


「んとんと……。お兄ちゃんは木の精霊さんなの? 助けにきてくれたとき、精霊さんだって言ってたの、わたし聞いちゃった」


「そのことは、もう忘れてほしい」

 マルと呼ばれた少女は俺の心を(えぐ)ってきた。少女は不思議そうにこちらを見上げていた。



 結構歩いてきたと思うが森はまだ抜けない。

やはり、この森の広大さは計り知れないな。


「ここを真っ直ぐ行けば村が見えてくるわ」


「了解した」

 先に進むと人の手によって建立されたであろう建築物が見えてきた。

 木材を使った両開きの門の前に立つ。ミアが見張り台にいた男に軽く手を振ると男が集落の内側に指示を出し、目の前の扉が開いた。やっと人が暮らしている場所に着いたな。入り口を抜け、鳴き声がする方へ目を向けてみると柵が設置されており、鶏や鹿、豚が飼育されていた。食料としてか、それとも交易を行うための品だろうか。エルフが肉類を食べるイメージは沸かないものだが。

 村の様子を伺っていると一人の青年が足早にこちらに近付いてくる。


「エレミア戻ったか!」


「ただいま、兄さん」


「そちらの方は?それにどうしたその足の怪我は! マルは、見つかったのか!?」


「大丈夫。マルは無事よ」


「カイルお兄ちゃん、ただいま……」


「よかった、とりあえず安心した。度々すみませんがこのままエレミアを族長の家に運んでくれないでしょうか。自分は捜索に出ている者に報告をしてきます。それではまた後ほど」

 短い黒髪で体格が大きい青年がそれだけを言い残すと颯爽と走り出した。

 ミアが兄と言っていたな。言われた通りに彼女たちを届けよう。


「族長の家はどれだ?」


「奥に見える上り坂を登りきったら一番奥に大きい家が見えるわ。そこが、族長の家よ」

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