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美しき女性との遭遇

タイトル名を少し変えました。

 少女の前には、見目麗しい女性が立っていた。年齢は若者、身長は160ほど。

 髪は肩まで伸びており、流れるような金色の髪が目を引く。鮮やかな緑色の服を着用し、下は短めのスカート、大胆にあらわになった太股にはベルトがしており短刀が何本か収納できるようになっている。そして、少女と同じように人族とは違う耳の形をしていた。


「ミアお姉ちゃん…!」


「マル、無事のようね。今助けてあげるから、そこでじっとしていてね」

 どうやら彼女たちは仲間なのだろう。少女の危機は一旦回避できたようだ。

 

 しかし、困ったことになった。

 不覚にもマグナス、飛び出すタイミングを逃した……。顔の頬に幹の跡が残っているくらいには木に張り付いている。

 まずいな……。これでは、ただの覗き見している記憶喪失のおっさんである。

 堂々と正面から出て行けばいい。難しいことではない。しかし、予想していなかった展開ゆえに体がうまく動かない。

 このままだと今回は、ここで2回目の人生の幕を下ろすかもしれない。


「あなたたちを見逃すわけにはいかない。私の家族を襲った罪、その身でわからせてあげる」

 明らかに女性の目は、怒りで燃えていた。


「お前は、ハーフエルフだな。瞳の色が左右で違う。お前ら、ついでにこの女も回収するぞ」

 頭役であろう盗賊が後ろにさがり、代わるようにして、二人が前に出る。片方は短刀により手を負傷していた奴だ。


「一人は片方の手が使い物にならないのに、馬鹿にされたものね。でも、悪いけど手加減はできないわ」

 いくわよの声と同時に彼女はベルトに差していた短刀を抜き、盗賊の一人と対峙する。相手が剣で短刀を受け止め、攻撃を逸らそうとするが、彼女が盗賊の腹に素早く蹴り上げた足先が突き刺さる。

 鳩尾(みぞおち)に直接入ったか。あれは呼吸が苦しいだろう。

 盗賊はくぐもった声を出し、苦しそうに片膝をつく。とどめと言わんとばかりに、短刀の柄の部分で相手の頬を全力で殴り盗賊は地面に崩れ落ちた。


 彼女の背後には、手を負傷していた盗賊が片手斧を振りかざそうとしていた。

 まずい。くっ……何だ。急に風が!?

 急に風が吹き荒れる。背後から攻撃しようとしていた盗賊のまわりに風の渦が発生して瞬く間に衣服が裂け、体に傷ができて血が吹き出す。相手が悲鳴を上げながら地面に倒れると風がぴたりとやんだ。

 洗練された体術、流れるような攻撃を見て彼女が相当訓練されているのはわかる。戦闘に慣れているなと感心していた。

 まあ、最後の風は、さっぱりだ。

 しかし、相手はもう一人いるのだ。油断はできない。周りを見渡してみると右側の少し離れた所に弓矢を構えた男が立っていた。矢が放たれて女性の右太股に刺さる。


「ああ!」


「ミアお姉ちゃん!」


「この……風よ!」

 再びあの不思議な力を使おうとしていたが、矢を放った後、女性のそばまで走ってきていた頭役の盗賊の剣のけっさきが彼女の顔の近くに向けられていた。


「大人しくしろ。綺麗な顔に傷がつくぞ」


「その紋章はボイド……!」


「今さら気づいたか。しかし、初めて目の当たりにしたが、これがエルフ族だけが使える魔法、風の恩恵か。厄介な術だな」


「ただ、俺は知っているぞ。ハーフエルフは特別な指輪をしなければ術が使えないということはなあ。指輪と短刀は預かっておくぜ」

 先ほどの戦闘で傷ついた盗賊たちが起き上がる。


「頭目。すまねえ」


「喋っている暇があるなら、さっさと連れて行け!

 しかし、仲間が負傷はしたが、これは高い金額で売れるぞ!」


「あたしたちをどうする気よ!」


「あ?決まってるだろ。都で売るんだよ。エルフやハーフエルフは悪い金持ちどもに高く売れるんだ」


「人身売買。顔も心もゴミね」


「いくらでも吠えろ。せいぜい飼い主に飽きられんようにな」


「下衆が。地に落ちろ」


「じゃあ、俺も吠えていいか?」

 俺は、のそっと木の裏から姿を現わす。


「誰だ!」

 盗賊たちが武器を構え直し、こちらを見る。


「飛び出す瞬間を逃したせいで、樹木の精霊になった男だよ」

 俺の頬にはびっしりと木の幹の跡がついていた。



「何者だ。貴様」

 聞いていないのか?精霊さんだよ。

 慎重になりすぎていたせいで結果的に真っ向勝負だ、この野郎。


「お前人間だな。もしかして同業者か?」


「あー……その前に一ついいか?俺の言葉は理解できるか?」


「お前、もしかしてモルフィナやりすぎて頭イってんのか」


「モルフィナってなんだ?」


「幻覚薬のことだ。自分で使ってる薬の名前もしらんのか、馬鹿が」

 男たちは下卑た笑い声をあげる。ちゃんと答えてくれるとは意外と優しい頭役の盗賊だ。

 それにしても安心した、言葉が通じている。気まぐれな神がかけた魔法?だったので半信半疑だったが、どうやら作用しているようだ。自然と安堵の笑みがもれた。


「おい、聞いてんのか!」


「ん?」

 悪い。嬉しさのあまり、話を聞いていなかった。


「どうやら同業ではないようだな。悪いが俺たちの商売をその目で見たからには生かしておけないんだよ」

 前言撤回しよう。優しさのかけらもない見ただけで殺しにくる血の気が多い連中だった。


「教訓を教えてやる。この世には半端な正義感なんていらんぞ。大方、若い女だから助けようとしたんだろう。そういう奴こそ、先に死んでいくんだ」

 それについては同感だ。若い女だからと偽善的な行動をする男は身を滅ぼす。


「それでは、中途半端にならないように宣言しておこうか。いい格好をするつもりはないが、俺は少女たちを助けることにするよ。まず初めに、お前らの商売に協力する気はない」

 要するに、お前たちの目の前にいる奴は敵だ。


「かまわねえ。殺せ」

 盗賊たちはゆっくりと自分に向かって動きだした。先の戦闘で負傷していた二人も動けないほどではないか。


「お願い逃げて、この連中はボイドよ!」

 怪我をしている女性が叫ぶ。

 ボイド?さあ知らんなあ。生憎と、この世界に馴染みがないんでな。


 刀を腰に構え、一気に鞘から刀身を引き抜くと、呼応するかのように自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。早鐘のように響いていた音は徐々に小さくなり、落ち着きを取り戻す。

 ああ……今、分かった。抜刀したことで、


 (ひど)く。心が落ち着いたことに。

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