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転移からの絶望

途中までアウィーラ視点です。

「転移は、無事に成功したようです」


「よかったよかった」

 キロ様は、どうだ!と胸を張り自信に満ちた顔をしている。


「しかしキロ様、少々強引すぎたのではありませんか?現世を離れ目を覚ましたばかりの人間に、すぐに理解しろという方が無理な話でしょう。少し時間を与えてもよかったのでは」

 彼の生前の情報についてはキロ様の側近である私でさえ何も聞かされていなかった。


「んー?あえて時間を与えなかったの。彼を見極めたかったのよ」


「キロ様。彼は迷走していました。我々を信用できないのも無理はないですが」

 余談ではあるが、我々は蘇生を行わない。我々は命あるものは皆平等という概念を持っているからである。神の掟としてそのような行為は許されないと厳守されてきた。

 キロ様を除いては。この方は強い心を持った人間に対して興味を抱き掟を破る。たまに破るくらいのほうがいいのよとキロ様は簡単に仰るのだが、こちらは後処理が大変になるので、正直やめて欲しいの一言に尽きる。

 そして、キロ様は蘇生させる魂の選定基準が恐ろしいほど厳しく、運良く選ばれたとしても、その後悩みに悩んで、結局蘇生させないことが多い。

 だから、天使たちが回収した彼の死体を見て迷わずにこの人間を蘇生させるわと決断し、即座に実行した時は正直驚いた。


「迷走してて安心したよー」


「それは、どういう……」


「ここで暮らしたいとか、迷いなく人生を続けたいって言っていたら私――」


「彼を消していたわ」

 キロ様は恐ろしいほど冷酷な表情を浮かべていた。


「初めに、ここに居座るを選ぶ奴は論外。安全を保障するという言葉に甘えて楽な方に流される。そんな奴を蘇生させたと知れたら汚点になるから即座に消すわ」


「キロ様。何もしないと仰ったはずでは。

 ……迷わずに決めた場合もそうなさるおつもりでしたか?」


「まあ、大抵の人間も最初だけは私たちの存在を疑う。ただし、人生を続けられる事を伝えると、その後は疑いもせずにすぐ受け入れるけどね」


「それは……キロ様」


「そうね。本来、人は己の命に執着する者だから仕方ないことよ。自分が死んだことを信じられず我を失い救いを求める。そこで神が救いの手を差し伸べると自分は神様に認められた特別な存在だとでも思い迷いもせず了承する」

 自分が特別であると誰しもが一度は思うこと。人間らしいといえばそうかもしれない。


「くだらない。そんな奴は神が力を与えたとしても、自分の力に酔いしれ正義の味方の真似ごとを始める。そういった人間が敗北を知った時、どういう考えに至ると思う?」


「より強い力を得たいと思うのでは」


「先にこう思うはずよ。 負けたの自分のせいじゃない、こんな弱い力を授けた神が悪いとね。与えられた力に溺れた人間は決して努力をして力を得ようとはしない。その後は語る必要もないわね。力を得ることが簡単ではないことを知り全てが(わずら)わしくなって、堕落の道を辿る」


「キロ様、彼は大丈夫なのでしょうか」


「平気よ。私が認めた人間なのだから」

 我が主は、そう言って笑みを深めた。



 意識が戻り目を少しずつ開けると視界がぼやける。徐々に目が慣れてきたことで、どうやらどこかの建物の中で横たわっていたことがわかった。体を起こして立ち上がり目の前に見える木製の扉の取っ手に指をかけ扉を開けた。光が漏れる。暖かい陽の光だ。

 外に出て空を見上げると雲がない青々とした空が広がっていた。どうやら小さな小屋の中に送られたようだ。神によって無事、転移とやらは成功したらしい。


 しかし、神よ。いきなりまずい状況にしてくれたな。

この世界に辿り着いた時、まずは情報を得ることを目標としていた。そうするために、人が住んでいる町や村に辿り着ければ、この世界の情勢、一般常識は得られると考えていた。俺は、この世界では、右も左もわからない赤子のような者だ。この世界のことを知ることは優先するべき事項だった。


 だが、この森はなんだ?近くに町はあるのか?

 長い木の上を登り、あたりの様子を伺って目印になりそうな物を探してみたが四方、緑で埋め尽くされていた。もちろん町なんて見えない。諦めたように木を降り始め、地面に着地した。


 本当にきまぐれな神だ。

こういうときはとりあえず進むしかない。考えていても仕方ない。何もしていなくても体は疲弊し腹が減る。まだ日が昇ったばかりのようだが夜になる前に、この現状を打開しなくてはならない。

 いったん先ほどいた小屋に戻って使える物がないかと探してみたが、役に立ちそうな道具は見当たらなかった。


 これで全部か……。

 持っているのは、小屋の周りに落ちていた小さな尖った鉱石と生前使っていたらしい、刀のみ。こいつは歩き疲れてきたら杖の代わりには使えるな。

 危機的状況にあるのは確かだが、不思議と絶望感はなかった。生きているという実感は感じられた。なによりそう感じられることが嬉しかった。



 目標もなく、ひたすら森の中を進んできた。今はどのくらいの地点にいるのだろうか。目指そうとしている目標物がないのだからわかるわけがない。一応、小屋の周りに落ちていた石で木に傷をつけて通った道筋がわかるように進んできた。

 今まで来た道を戻りたくはないがな。

 大雨でも降ったのだろうか、地面の土が少し濡れていて軟らかい。泥が張り付き歩きずらいが、足の疲労が溜まっておらず痛みはまだない。


「この森を抜けることができれば」

 消え入りそうな声がもれた。


 今の時期はわからないが暖かい気候ゆえに動物が生息していると思い食料を確保しようとしたが、どういう訳かまるで見かけない。いないものは狩れないのだ。

 歩いている途中で見たこともない果実やきのこ類をいくつか拾っていた。しかし、食べて腹痛になり死んでしまっては目もあてられない。敵意を持つ相手と出会ってないだけ、まだ幸いというべきか。

 しかし、さすがに空腹になり喉も渇いてきた。

 そういえば、神によって魂を呼び戻されてから今まで何も口にしていない。


 神よ、期待には応えられないかもしれん。早くも詰みそうだ。

 一か八か持っていた果実でも食べてみるかと考え始めた時、視界に偶然、足跡の痕跡(こんせき)が残されているのを発見した。


 ん?これは……足跡だな。

 立ち止まり空腹感を忘れようと、どうにか思考を切り替える。人間の足跡だと仮定して足跡の大きさの違いからある程度の人数を把握する。


 2人……いや、3人。そして、おそらく大人。

 流石に足跡だけでは性別までは判別できない。そしてわかりづらいがその中に、小さな足跡を見つける。しゃがみこみ、注意深く痕跡を調べる。


 子供か……。

 ここまで来る間、風が幾分(いくぶん)強く吹いて木から落ちた葉が舞っていたはずなのに足跡がくっきり残っていることから最近できたものだと推測する。

 さらに跡を追ってみるとひときわ大きな木の根本から足跡が途切れていた。周辺を注意深く調べてみたがこのあたりは葉が多く散っており痕跡が残されていなかった。。

 仕方なく捜索を諦めようとしたとき僅かだが声が聞こえた。


 なるべく足音を消して声がする方へ注意深く進んでいると話し声が聞こえてきた。しゃがみこんで、木の幹から少し顔を出して前方の様子を伺うと男3人の集団と、少女1人が見える。

 少女が追い詰められ転んだのか尻餅をつき男たちから離れようと後ずさっていた。

 目をこらしてみると少女の耳の形が人間とは違う形をしているのに気づく。

 人族ではないのか?と思案していると2人の男が手に持った縄で暴れないように少女の腕と足をきつく結ぶ。


「やだやだあ……はなしてよ……」

 少女が涙をながし、か細い声で懇願する。その声を聞いた残り1人の男が短刀を取り出し、少女に刃を見せる。


「静かにしていろ。無事でいたいなら」

 少女は怯えた目で諦めたように頷く。


 盗賊の(たぐい)だな……それにあの男たちの目は(にご)っている。手段を選ばない(やから)か。

 どちらにせよ見て見ぬ振りはできない。見ず知らずの少女だが黙って見過ごすほど冷酷にはなれない。必要な事は助けにいくタイミングを計り実行に移すことだ。

 俺は考えがまとまったことで一気に動こうとしたが、別の足音が何処からか近づいてくるのに気づいて留まる。


「見つけた!」

 少女の背後の方から女性の声が聞こえ、木々の間から棒状の物が放たれる。


「ぐあああああ!」

 突然、盗賊の1人が叫び出す。何事かと思い見てみると、短刀が手の甲に刺さっていた。

 盗賊たちの前には美しい女性が少女を庇うように凛として立っていた。

次の話ではヒロインが登場します。お楽しみに。


それにしても、キロ様ひねくれすぎです。


ひねくれているのはこれを書いている私の方か……。

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