表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

神を名乗る女性との出会い

初投稿です。よろしくお願いします。

 敵の襲撃を受けたその町はあたり一面、火の海だった。人々は混乱し怒号が飛び交い悲鳴が上がる。もう逃げるところはどこにもない。突然、大きな爆発が起こり、全てが一瞬で炎に飲み込まれた。

 静寂が訪れ瓦礫の中から刀を持った男だけが辛うじて立ち上がる。


 正直、何が起きているのか、わからなかった。ここにいる人たちは全滅したのか?俺も持てる力を全て出しきったが、奴には届かなかったようだ。それほどまでに相手が強大すぎた。

 自分の体を見ると、片腕が消失していた。呼吸が苦しくなり、全身の力が抜けて体が崩れ落ちる。

 もう体は動かない。あっけない幕切れだ……。


 その男の意識は、そこで途切れた。


 目を開けると何もない白黒の世界が広がっていた。

 ここは……?俺はどうしてここにいる。

 何かやり残したことがあったはずだが思い出せない。

 不安が増して、気分が悪くなる。急いでこの世界から脱出しようとしたが、どういうことか声が出ず自分の体も動かなかった。


 俺は夢を見ているのだろうか。夢じゃないとしたら、俺はどうやってここに辿り着いたのか。

 ……ダメだ。思い出せない。

 状況を整理するために簡単なことから思い出そう。

 そう、例えば……自分の名前とか。


 俺の名前は……。……待ってくれ。嘘だろ……?

 自分の名前も記憶から抜け落ちていた。


 ここに来てから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。体が動かず、いつまで経っても白黒の世界から抜け出せない。

 気が狂いそうだ。頼む。夢なら早く覚めてくれ!


「もしもーし」

 叫びたくなる感情を抑えていると、誰かの声が聞こえたような気がした。

 ……。幻聴か。俺の心も限界が近いようだ。


「起きてー」

 気のせいではない。どこからか声が聞こえる。

 すると、一筋の光が、照らし出された。

 なんだ……?

 俺の方に向かってくる。だんだんと大きくなり俺の視界が光で埋め尽くされた。


「もしもーし、起きろー!」

 何かに頬を叩かれている。ゆっくり目を開けると、自分を覗きこんでいる銀色の髪をした女性を認識した。


「ふう。やっと起きたか」

 安堵して女性は立ち上がり、宝石が装飾されている玉座に座る。肌着を着ていた自分の体が動くことを確認する。

 どこも痛みはない。勢いよく体を起こすと凄まじい頭痛が起こった。


「いきなり起き上がったらダメよ。目覚めたばかりなんだから」


「……ここは何処なんだ。教えてくれ。何がどうなって自分はここにいるんだ」

 頭痛に苦しみながらも言葉を発する。周りを見渡すと玉座以外何もない広々とした部屋にいた。まるで、箱の中にでもいるような感じだ。


「簡単に言うと場所は(かみ)(はこ)。ここにいる理由は、私が蘇生させたから」


「蘇生だと?」


「そそ。あなたは死んだのよ。生存していた年数は28。

 人生まだまだこれからだったのに残念ね」

 自分が死んだ……?何を彼女は世迷言(よまいごと)を言っているんだ。


「……死んだ人間は蘇らない。それを蘇生させることもできない。

 あなたは何者だ」

 純白のドレスを着ている女性に問う。


「私の名はキロ。人間が、神と呼ぶ存在よ」

 自らを神と名乗るやばい奴に出会ってしまった。


「ねね!そんなことよりさ、あなたのことを教えてよ」


「何も覚えていない。名前すら覚えていないし、もちろん死んだこともな。

 だから、蘇生やら死んだとか言われても信じられない」

 そういうとキロは満足したように薄く微笑んだ。


「あーちゃん、やっぱりこの子にしてよかった!」


「キロ様。ちゃんは、おやめ下さい」

 何もなかった空間から修道服を着た一人の青年が現れ、キロが座っている横に立つ。


「この方が度重なる失礼を。代わりに謝罪致します」


「あーちゃん固いねー。そんなに固いと、顔のシワ増えちゃうよー」


「キロ様がもっとしっかりしていれば、増えずに済むのですがね」

 青年は、じろりとキロを睨み皮肉を言う。


「申し遅れました。私の名はアウィーラ。こちらにいるキロ様の秘書を務めております。お見知りおきを」

 アウィーラは、礼儀正しくお辞儀をする。


「誠に残念ではございますがキロ様からお聞きの通り、あなたの魂は失われました。こちらにいる神、キロ様がその魂を元の身体に戻し現在に至るのです」


「俺が死んだということを確証付ける証拠が欲しい」


「もう、しょうがないわね。特別よ。少し前の記録を見せてあげる」

 キロが指を鳴らすと、空間に映像が映し出される。赤茶色の髪の中世的な顔立ちの青年が横たわっていた。青年は片方の腕がなく、呼吸をせずに目を閉じている。

 見たところ死体そのものだな。


「これが俺なのか?」


「ええ、そうよ。自分の顔を確認してみて。あーちゃん、鏡を」

 アウィーラに手鏡を貸してもらい、自分の顔を確認してみると映像と同じ人物が鏡に映し出される。

 再び映像に視線を戻す。映像の中でキロが何かをつぶやくと、青白い小さな炎が青年の体に吸い込まれて輝きを放つ。すると呼吸が戻り、片方の腕も再生していた。


「どう?納得した?」

 本当に俺は、死んでいたらしい。

 信じたくはないが証拠を見せられてしまっては、頷くしかない。


「質問したいことは山ほどあるが……自分を蘇生させた理由を聞きたい」

 蘇生する価値などないだろう。記憶もない、ただの人間を。


「私があなたの生き様に見惚(みほ)れたからよ」

 生前、俺は何をしていたんだ?ある意味不安になってくる。


「神に認められていたとは驚いたな。例えば、どのようなことを俺はしたんだ」


「ごめんねー。生前のことは規則があって教えられないの」

 神にも規則があるのか。それとも教えられない理由が他にあるのか。


「この先、俺はどうしたらいいんだ。正直、混乱していて眠りたい」


「実はそのことについて、ご相談があるのです。……キロ様」


「ねえ、私が選んだ世界で人生の続きをしてみない?」

 キロと呼ばれた神は、とんでもないことを提案してきた。


「意味がわからない。選んだ世界?人生の続き?」

 会ったばかりの奴にそんなことを言われても、信用できるわけがない。


「狙いはなんだ」


「狙い?考えすぎよ。私は人間という存在の輝きが見たいだけ」

 馬鹿馬鹿しい、理由になっていない。


「蘇生させてくれたことには感謝をしている。だが、あなたをまだ信用していない。上手い話には裏があるからな」


「疑り深いわねー。普通の人間なら喜んで受け入れるのに」

 慎重になっているだけだ。


「断ってもいいか?その場合、俺はどうなるんだ。用済みか?」


「何もしないから安心しなさい。

 ただ、あなたの記憶を呼び起こす助けにもなるかなぁって思ったんだけどね」

 記憶を……。


「ここでの安全は保障するわ。ここで私の仕事の手伝いをして貰うけどね。

 暮らしの方も不便が無い様にするわ。そうよね。あーちゃん」

 こくりとアウィーラが頷く。


「どちらを選択しても、我々は反対致しません。あなたの考えを尊重しますよ」


「選択する前に、一つ質問がある」


「どうぞ。聞いてあげる」


「あなたが提言する世界とは、生前、俺が存在していた世界なのか?」

 新しい人生など俺にはどうでもいいが、自分にはやり残したことがある。絶対に成し遂げなければならないと心が叫んでいた。そのために、まずは自分の記憶を取り戻さないといけない。だが、知らない世界に辿り着いて旅をしたところで記憶を取り戻せる可能性は無に等しい。


「違うわよ」

 別の意味で頭痛がしてきた。


「せめて俺が存在していた場所に戻らしてくれ」

 俺は頭を抱えて強めの口調で反抗した。神に反感を買うのは賢い選択とは言えないのだがこれだけは言いたい。異世界に記憶を探しにいく旅なんて正気を疑う。


「考えてあげてもいいけど、条件があるわ。んー、そうね。異世界で記憶を完全に取り戻すことができたら、希望通りにしてあげる」


「勘弁してくれ……。難題すぎる。何故そんな苦行を()いる」


「だって、簡単に思い出せたら面白くないじゃない」


「……お前」

 こいつ、やはり性格悪いな。人で楽しんでやがる。


「大丈夫よ。きっかけさえあれば異世界でも思い出せるわ。

 それに私は、あなたなら可能だと確信している」

 真剣な眼差しをこちらに向けてくる。彼女から目を逸らすことができない。


「さあ、答えを聞かせて」


「結論を急がせてしまい申し訳ありません。

 キロ様はせっかちで気まぐれな神ですのでご容赦下さい」


「あーちゃん、ひどいー!」

 この選択で俺の人生が再び動き出す。ここで暮らして、神の仕事の手伝いをするか、もしくは異世界で記憶を探す旅に出る。

 あまりにも急展開すぎて考えがまとまらない。悩む時間くらいほしいものだが、この神が気まぐれな性格だとすると、ここで答えを出さなければ次はなさそうだ。


「さっき言ったこと、嘘ではないんだな」


「それは、あなたが判断することよ」


「……わかった。俺は、異世界に行くことを選ぶ」

 そう答えるとキロは満足したように頷く。

 うまく異世界の方へ誘導された気がするが、自分が出した答えだ。後悔はない。


「オッケー。あーちゃん例の物を」

 アウィーラは何もない空間に手を伸ばし服と刀を持ってくる。


「肌着のままではこの先、何かと不便でしょう。こちらをお使いください。

 そしてこちらは、あなたが持っていた刀です」

 渡された黒色の服を着込み、刀を受け取る。


「後は、特別な力が欲しいなら一つだけ与えるわ。最強の力とか、金が欲しいとか俗っぽい願いは断るけど」


「その世界には人がいるのか?」


「ええ。大勢いるわ」


「なら、その世界の言語を話す力がほしい」


「そんなことでいいの?」


「ああ。異世界で人に会っても何も通じないのは厳しい」

 それで住人に異星人扱いされ、迫害を受けてしまったら旅どころではない。


「ふふ。了解したわ。それくらいなら平気よ」

 その場から動かないでと神に言われ微動だにしないでいると、自分の体が光につつまれる。ほどなくして光が消えていった。


「これで普通に会話をしても向こうの住人に通じるわ」

 何も感じられないが、信じていいのか?


「さあ、そろそろ転移をしましょうか。善は急げってね」

 彼女が再び指を鳴らすと、地面に六芒星の文様が浮かび上がる。


「辿り着いた世界であなたが死んでも、もう一度蘇生はしないからね。それと、記憶を完全に思い出したら一度こちらに戻ってきてもらうわ」


「戻るにはどうしたらいい」


「空に向かって、キロちゃん、思い出したから戻してーって叫んで」

 それしか方法ないのか?恥ずかしすぎるぞ。


「その文様の上に乗ってじっとしていてね」

 不思議な文様の上に立つ。


「では、また会えることを心待ちにしているわ。……あ、そうだ。

 あなたの名前を伝えるの忘れてた。生前の名前はマグナスと呼ばれていたわ」

 おい、規則はどうなった。生前のことは教えられないんじゃなかったのか。

 取り付く暇もなく文様が反応するかのように地面が輝きだす。足元に吸い込まれる感覚が襲い、そのまま意識が途切れた。

投稿される時間は夜10時と考えています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ