169話 ジャンヌ・ダルク⑦
俺は倒れたジャンヌ・ダルクを眺め、すぐには起き上がらないのを確認した所で、息を吐き緊張を解した。
「はぁ、いつっ!!」
しかし、緊張を解した所で、右腕に痛みが走った。
俺が痛みから右腕を見ると、岩の礫を殴った時の代償なのか右手から骨が飛び出していた。
俺はそれを見て顔を顰めつつ、アイテムボックスから包帯を出して応急措置をした。
その後、即効性の回復薬を右手にかけた。
回復薬をかけたところで、包帯からしない方が良かったと思ったが、面倒くさくなったので、そのままにしてジャンヌ・ダルクに意識を向けながら『アスレイア』を探した。
『アスレイア』を探していると、ルームの壁際に『アスレイア』が落ちているのが見えた。
それを見て結果的にはとはいえ『アスレイア』を雑に扱ってしまったと思った俺は、ウェストに悪いと思いながらも『アスレイア』を取りに行った。
『アスレイア』は、と言うか俺達の武具の殆どは、俺達よりも前に【ナンバーズ】と戦っていた人達の武具を回収し、それからの武具で【ナンバーズ】を倒そうとしていたウェストから譲り受けた物だ。
そんな物を他に方法が無かったとはいえ、爆撃してしまったのは、とても申し訳無い。
そんな事を歩きながら考えていると音がした。
俺がそちらを見ると、ジャンヌ・ダルクがなんとか起き上がろうとしていた。
ジャンヌ・ダルクは立ち上がろうとしているが、その度に地面に倒れている。
俺は『ジャンヌ・ダルクにも意識を向けていた筈なのに、起き上がろうとしているのが分からなかった』と思いなから、素手では確実に決定打に欠けると考え『アスレイア』の元に急いだ。
俺は『アスレイア』の元に急いでいる間に、先程自覚した右手の痛みと今までの痛みで意識や体の動き、索敵能力等が鈍っているのを理解した。
それを理解した時、俺は走って『アスレイア』を取りに行った。
俺が『アスレイア』を取ったときには、ジャンヌ・ダルクも立ち上がり、武器である旗を持っていた。
ただジャンヌ・ダルクはかなり息が上がっていた。
それにジャンヌ・ダルクは血こそ流していないが、顔色がだいぶ悪い。
俺はそのジャンヌ・ダルクの顔を見て、『俺がやられるにしろ、俺が倒すにしろ、次の一撃で決まりそうだな』と考えて、集中力を高めていると、ジャンヌ・ダルクが俺に話しかけてきた。
「まったく、何故自滅覚悟であんな攻撃が出来るのですか?普通なら躊躇するでしょう?」
ジャンヌ・ダルクはそう言って俺に聞いてきた。
俺はその質問の意図が分からずに黙っていると、ジャンヌ・ダルクは口元に笑みを浮かべた。
「そう警戒しないでください。少し話をしようと言っているだけでしょう?
それでどうして自滅覚悟で攻撃して来たのですか?」
ジャンヌ・ダルクがそう言ったので、俺は警戒を緩めずに言った。
「自滅覚悟で攻撃したのは、後が無かったからだ。
このダンジョンに入る前に調べたが、公表されている限りだと、どれだけアイテムでステータスを上乗せしようと、MAXは6万が限界らしいからな。
それならば、俺がやられた場合で、運良く俺が生きていたと仮定して、救助隊が来たとしても、瀕死意外ならむしろ足手まといになると判断した。
つまり、どんな状況でも俺が行動不能になったら、助けを期待出来無い。よしんば助けが来ても、どんなに足掻いても詰みだったからだ」
俺がそう言うと、ジャンヌ・ダルクは自嘲気味に笑った。
「なるほど、自滅覚悟での攻撃は後が無かったからですか。それならば納得出来ますね」
俺が何故ジャンヌ・ダルクは自嘲気味に笑ったのかと不思議に思っていると、ジャンヌ・ダルクは自嘲気味な笑みを浮かべたままで、俺に言った。
「貴方が自滅覚悟でした攻撃。あれならば、このダンジョンの一番下にいるモンスターを一撃で屠れるでしょう。ですが、それはしない方、が良い。
ダンジョンコアまで一緒に壊れる、でしょうから」
ジャンヌ・ダルクは話している内にもどんどん顔色が悪くなっていった。
そして、顔色が悪くなるほど、言葉が途切れる事も多くなった。
俺がその事に驚いている間にも、ジャンヌ・ダルクは言葉を続けた。
「ダンジョンコアは壊した者に強力、なスキルを授ける、事があります。条件は色々とありますが、貴方のスキル、の歪みなら、ここのダンジョン、コアを壊せば治る、はずです。
私の体、も貴方に、預け、ますから、がんー」
そこまで言った所でジャンヌ・ダルクが旗を手放し、地面に倒れた。
俺はジャンヌ・ダルクが倒れた事に驚いたものの、何かの罠かと考えて近づかずジャンヌ・ダルクを観察していた。
俺がジャンヌ・ダルクを観察していると、ジャンヌ・ダルクが光だし、光が消える頃にはジャンヌ・ダルクは何処にも居なかった。
それに驚き、ジャンヌ・ダルクが倒れていた所を注視してみると、1枚の紙がある事に気が付いた。
俺はそれに気が付くと、警戒しつつもジャンヌ・ダルクが倒れていた場所に行き、紙を手に取った。
紙を手に取り、その紙を読んだ所で力が抜けて、その場でへたり込んでしまった。
俺が見た紙、それはジャンヌ・ダルクの『複製カード』を作った時に現れる様なカードだったからだ。
ただ、そのカードにはステータス等が書いておらず、『再生中:167時間58分32秒』と書いてあり、今も一秒ずつ秒数が減っている。
その表示を見て、俺は未だに回らない頭を回した。
(なんで『再生中』になったのかは分からないが、今回のジャンヌ・ダルクの件は片が付いたと思って良いよな?
後はある程度回復するまで、このルームで休憩しつつ、煙が晴れた事で何処にあるのか分かる様になったドロップアイテムを回収すれば、帰れる。
とりあえず、回復からしよう)
俺がそう思い、アイテムボックスから回復系アイテムを取り出し、回復を始めた。
◇千葉視点
私達は唐突に始まったスタンピードに対応する為の防衛戦線に加わっていた。
今はそのスタンピードの第ニ陣の25層のモンスター達の始末が終わり、少しだけ休憩する事が出来る時間が出来たので、いつ第三陣が来ても対応しやすい様に、パーティー単位で集まり休憩している。
普通なら前衛と中衛は集まって休み、後衛も後衛で集まって休むのがセオリーなのだが、20層以降のモンスター相手には、パーティー単位で対応した方が死者が少くなるので、この様に集まっている。
因みに次の第三陣からは35層以上のモンスターも出現するだろうと予測されているので、この休憩時間が終わると、最悪の場合はスタンピードが終了するまでは休めないかもしれない。
普通ならスタンピードでも休憩くらいは、防衛戦の指揮官(協会が各ダンジョンに置いている、ダンジョンからスタンピードが発生した時の現場責任者)が上手く回して時間を作ってくれるが、この場にいる上位パーティー(30層を単独パーティーで攻略出来るパーティー)は3組。
しかも、その内の一組は私達な上に、他のパーティーは34層のモンスター相手でも手一杯になると言うので、指揮官も私達には休憩時間を回せないだろう。
私達は恐らく40層までのモンスター、最低でも34層のモンスターならば対応出来るので、今回の防衛戦の要は私達になる。
私達は横田くんは居ないが、私と生酒の前衛(個人なら34層のモンスターを複数相手に出来る)に後衛に聖女と歌姫が居るので、後衛の攻撃こそ期待出来ないが、援護系魔法で前衛の私達はかなり強化されるので、希望的観測も入って40層のモンスターも倒せると言えるけど。
問題は出現する層が30層を超えるモンスターを後ろに通してしまったら、この防衛戦は簡単に終わると言った所だろうか。
その理由はモンスターに銃が効かなくなるからだ。
基本的にモンスターは29層以下のモンスターまでなら、牽制目的でなら銃が効く。
ただし、それ以上の層のモンスターには毛ほども効かなくなるだけでなく、発泡した人は殺される。
その為に防衛戦は30層以上のモンスターは防衛戦線の後ろに通した場合は、民間人にかなりの被害が出てしまうのだ。
その理由から防衛戦は30層以上のモンスター相手に戦える上位パーティーを5組以上の用意し、3組以上は前で殲滅、その3組以上が漏らしたモンスターを残り2組以上で倒すのがセオリー。
そのセオリーにより上位パーティーは3組ではなく、最低でも5組は居なければ防衛戦線の後ろに30層のモンスターを通してしまう危険が、かなり高くなる。
この様な事が無い様に通常ならスタンピードの際には協会が上位パーティーを手配するようになっているのだが、第ニ陣を終えても、上位パーティーの増援が来る気配が無い。
それを不安に思うけど、私達が不安を顔に出したら士気が下がる可能があるので、下手に顔に出せない。
出来れば、横田君が戻ってくるか上位パーティーが来てほしいが、恐らく横田君は無理、上位パーティーも30層のモンスターが出て来た時点で到着してなければ、来ないと思った方が良いだろう。
私がそんな事を考えていると、ダンジョンから斥候が帰還した。
それを見た私達は即座に武器を抜き戦闘準備を整える。
防衛戦において、ダンジョンから斥候が帰還するのは、1層よりも下の層のモンスター達がダンジョンの1層に登ってきた事を指す。
たまにダンジョンから出て来ないモンスターも居るがそんなのは稀なので、モンスターが出て来ると思っていた方が良い。
私がそう思っていると、案の定モンスター達が出て来た。
それを確認した所で、この防衛戦の指揮官が拡声器か何かで、この場に居る全員に指示を出した。
『スタンピードの第三陣がダンジョンから出て来た!!一番前は26、27層のモンスター達だ!!お互いに援護出来るギリギリの距離を取りつつ、殲滅!!』
私や生酒、歌姫の花見は何を言っているか分からないが、聖女の川白が翻訳してくれたので、理解出来た。
それを聞いた私が迫って来ているモンスターを見ながら、パーティーの全員に聞いた。
「全員準備は良いな。私と生酒は極力魔力温存。花宮と川白は基本的には魔力を温存して、必要な時は遠慮なく魔力を使え。自己判断に任せるが、こちらが欲しいと言った時は使うか、使わないかは叫んで教えてくれ」
私はそう言って、パーティー全員を見た。
私が見ると全員が頷いたので、私は武器を抜きながら叫んだ。
「よろしい、それでは行くぞ!!」
どうでしたか?
今後の展開をどうするのかを悩んでギリギリまで悩んだ結果、決まらずに時間が来てしまったので、ちょとスタンピードで時間稼ぎする事にしました。
最長でも次の次の次の投稿時には決まっていると思うので、お楽しみ。
申し訳ありません、木曜日から熱が出ており各余裕がありませんでした。
次の投稿は次の木曜日とさせて下さい。