162話 日本での振る舞い③
すみません、流空が地上に出たら物語が加速しますとか以前言ったのに、中々進みません。
ただ次の話は多分進むので、お許し下さい。
それでは本編です。
お楽しみ頂けると幸いです。
「私はこちらに来たばかりですから、最低限の事しか知りません。ですから私がこの話を受けた場合のパーティーメンバーと話をしてから、受けるかどうかを決めさせて頂けませんか」
俺がそう言うと、男の人は少し笑いながら言った。
「勿論だとも。むしろ、ここで何も聞かずにこの話を受ける様なら、こちらからお断りさせて頂く所だったよ。
私は別の部屋で千葉と生酒と30分程話しているので、ゆっくり話すと良い」
男の人はそう言って、千葉さんと生酒さんと一緒に部屋を出ていった。
俺は3人が部屋を出たのを確認すると、気疲れからため息をつき、川白さんと花宮さんの方を見た。
「え〜と、巻き込んでごめん。2人が嫌なら受けないけど、とりあえず現状の確認だけは一緒にしない?」
俺がそう言うと、2人はお互いの顔見たあと「コクリ」と頷いた。
なので、この部屋にある座っても良さそうな椅子やソファーに座り、現状の確認をし始めた。
◇千葉視点
私は隊長と生酒と一緒に部屋を出た後、隊長の執務室の隣りにある部屋に入った。
その部屋の標識は『第4応接室』と書かれているが、普段は使われる事は無い。
なぜなら、この部屋は常に鍵がかかっているだけで無く、その鍵は隊長が所持している一本しか無い為に、掃除等も隊長が自ら行うという、かなり徹底して部屋の中に誰も入れない部屋だからだ。
そんなこの部屋にあるものは、他の部屋に仕掛けてある盗聴器並びに隠しカメラを見る事が出来る機材。
しかも、1つ1つが全て有線で繋がっている特注品なのだそうだ。
この部屋の中を知るのは、隊長と私、生酒にこの建物の中にいる隊長が信頼している数人くらいだろう。
そして、そんな数人しか知らない部屋で私達は横田君達の部屋に仕掛けられている盗聴器が拾う音を聞いていた。
これは必要な事だと分かっていても、苦い顔をしながら隊長に言った。
「隊長、趣味が悪いですよ」
私がそう言うと、隊長はため息をつきながら言った。
「私も基本的にはこんな事はしないし、したくはない。しかし、彼はこちらの世界にも居る為に、ある程度の性格等も調べられると言っても、それは本人の情報であって本人の情報では無いのだ。
それならば実際に本人と話しつつ、本人の性格等に変化が無いかを調べるしかあるまい?」
私が隊長の言葉に理解しつつも、納得出来ないでいると、生酒が私に言って来た。
「しかないだろ?あれだけの戦闘力だ。あいつの戦闘力は各国がどんな戦闘を隠していても確実に世界でも上位に入るし、下手をすれば世界でも1番の戦闘になるかもしれねえ。
つまり日本では1番の実力者だろうから、普通に行けば日本の顔になる。それならどんな性格なのか事前に知っておく必要があるしな」
生酒の言葉に隊長が頷く。
「その通りだ。それと、この部屋で話した方が良いだろう話がある」
隊長の言葉に私と生酒は首を傾げた。
「「この部屋で話した方が良いだろう話?」」
私と生酒のオウム返しに、隊長は頷きながら答えた。
「そうだ。これはまだ世間に公表されていない話だ。公表があるまで漏らすなよ?」
隊長が私と生酒を見ながらそう言った。
私と生酒が頷くと、隊長は話しだした。
「実はフランスのA級ダンジョン内の1つで、手付かずの英雄が見つかった」
隊長の話を理解した私と生酒は息を飲んだ。
その様子を見て、隊長は頷きながら言った。
「その英雄の名は『ジャンヌ・ダルク』。フランスの百年戦争時の英雄だ」
隊長の話を聞いた私は先を急がせる様に隊長に質問した。
「そ、それでジャンヌ・ダルクのカードは!?ジャンヌ・ダルクは善性の英雄の可能性が高いと言う予想がありましたよね!?それならば試練は無い可能性が高い。しかも、A級ダンジョンで見つかったならば、Aランクの英雄カードになる!!
日本では確保出来ないのですか!?」
私がそう聞くと、隊長は私を落ち着かせる様に言った。
「落ち着け千葉。他国の英雄だぞ?通常なら、そう簡単に手が出せる訳が無いだろう」
私は隊長の言葉を聞いて「その通りだ」と思い、謝罪しようとしたが、私の謝罪よりも先に生酒が隊長に質問した。
「隊長、今通常ならって言ったよな?って事は今回は手を出せるのか?」
私が生酒の質問に「ハッ」として隊長の顔を見ると、「フッ」と笑みを浮かべて言った。
「その通りだ。フランス政府から日本政府に『別世界から来たるリク・ヨコタ』に英雄ジャンヌ・ダルクのカード化に同行して欲しいと要請があったそうだ」
私と生酒は隊長の話を聞いて、フランス政府が何故横田君に要請が来たのか、すぐに理解した。
隊長は私達の理解した顔を、見て頷きながら言った。
「2人が思った通り、恐らくはそういう事だろう。無論、彼が乗り気ならば彼の最初の攻略するダンジョンはフランスのA級ダンジョンになる。
しかし、彼はこちらの世界に来たばかりだ。そこで彼が最初にフランスのA級ダンジョンを攻略する際には、2人に彼に同行してほしい。
もちろん、これは命令では無く、任意だ。しかし、彼程の実力ならばフランスの用意した者を軽く凌駕して、英雄に認められてもおかしくはない。その際に彼を対外的に守れる存在が必要だ。
これは任意だが、お前達は彼に命を救われてるんだ。まさか、行かないとは言うまい?」
私と生酒は隊長の顔を見て、任意と言ってはいるものの、この依頼はほぼ強制である事が理解出来た。
ただ先程の言い方からして、命令の本質は『フランス政府に依頼された事を行いつつ、ジャンヌ・ダルクの英雄カードを正規の方法で獲得して来い』という事だろう。
私は限りなく命令に近い任意の任務と隊長に対するせめてもの抵抗として、隊長に言った。
「行くこと自体は拒否しませんが、彼が私達に協力してくれるか分かりませんよ」
私がそう言うと、隊長はニヤリと笑いながら言った。
「確かに確定はしていない。しかし、彼はこの世界での生活基盤が何も無い状態だ。その状態で唯一頼れるかもしれない物が出来れば、人は自然とそれに頼ってしまう前提で物事を考えるものだよ。
それに君達2人がフランスに行く事自体は確定しているからね。彼がこの自衛隊ダンジョン部隊の保護が必要無いと言っても、2人が助けてくれと泣きつけば着いて来てくれるかもしれないぞ?」
私と生酒は隊長の言葉を聞いて、「横田君が無意識下で断りづらい状況を作りつつ、断られた時の保険として、ほんの少しだけ彼と交流がある私達2人がジャンヌ・ダルク獲得だけは協力して貰える様にしろ」という意味の話だと理解し、若干引きながら隊長を見ていた。
そんな私達を見た隊長は『理解して貰えなくて残念だ』といった感じで肩を竦めてから言った。
「それでは千葉 瑞希並びに岩壁 生酒の両名に、横田 流空の探索者パーティーへの一時加入並びにフランス政府の要請への対応、ジャンヌ・ダルクの英雄カード獲得の為の任務を言い渡す」
私と生酒は隊長の命令に敬礼で応えた。
◇流空視点 (160話中盤)
俺は今、自衛隊ダンジョン部隊の荒川区基地の応接室に千葉さんや生酒さん、川白さんと一緒に座って、ダンジョン部隊の隊長(2回目に部屋に入って来た時に教えて貰った)と対面していた。
俺はなんでこんな状況になってるんだと遠い目をして、こうなった訳を思い出すのを終えるとの同時に、隊長さんが俺に聞いて来た。
「それで決まったかな?」
隊長さんにそう聞かれた俺は少し緊張しながら答えた。
「はい、川白さんも花宮さんの話を聞き、自衛隊ダンジョン部隊に保護して頂けるならば、この話は受けるべきだと思いました」
俺がそう言うと、千葉さんと生酒さんが何故か「ほっ」とした雰囲気を出していた。
俺はその事を不思議に思いながらも、話を続けた。
「しかし、それは労力と対価が釣り合っている時だけです」
俺がそう続けて言うと、隊長さんと千葉さん、生酒さんの周りの空気が「ピシ!!」という音を経てて凍った気がした。
俺はそんな空気を気にせずに続けた。
「俺は川白さんと『東京ダンジョン』の50層で『ゴールドゴーレム』や『シルバーゴーレム』をかなりの数を倒し、ドロップもかなり出ましたし、お金の心配ならありませんからね。
身分証の心配はありますけど、最悪の場合は川白さんに売ってもらい、川白さん名義で部屋を2つ借りてから、ゆっくり発行して貰えるまで待てば問題は無いでしょう。それに50層の『アダマンタイトゴーレム』も倒しましたし」
俺がそう言うと、隊長さんは目を見開き、千葉さんと生酒さんは急に「なに!?」と言いながら立ち上がり、花宮さんは俺の突然の『アダマンタイトゴーレム』撃破の報告にフリーズしていた。
俺はそんな様子を無視して、隊長さんを見ながら話を続けた。
「それでは私と私の仲間が自衛隊ダンジョン部隊に保護して貰う時の条件や詳しい内容を教えてもらいましょうか」
俺がそう言うと、隊長は「フッ」と声を出した笑みを浮かべてから一息に言った。
「君と君の仲間には半年以内に名実共に日本のトップパーティーになってもらう。次にこちらの命令、これはお願いと言っても構わない。そのお願いを出来るだけ聞いて欲しい。無論、無理なら無理だとはっきり言ってもらって構わないし、気分が乗らない等の理由でも良い。もちろん、無茶なお願いはしないが、最低でも10個に1つは聞いて貰う。
後は君達が得た物の販売の際に優先的に買わせて欲しい。こちらは適正価格で買わせてもらう予定だが、状況によっては支払いを数回に分けたり、現物支給やそちらがして欲しい事を金銭の代わりに行う事で許して欲しい。ただ、これも無理なら無理だとはっきり言ってもらって構わない。
それと半年に1つはC級ダンジョンをクリアして欲しい。これは元勇者パーティーも行っていたので、強制とさせて貰う。
保護の内容は衣食住や情報の提供。それと住に関しては、流石に勝手に引っ越しをする等は認められないが、事前に相談してくれれば、許可出来るだろう。
また日本国内のダンジョンを優先的に潜れる様にしよう。それに加えて、君と君の仲間がダンジョンに潜る際には全面的に協力しよう。海外のダンジョンに潜りたい時などは、潜る時に申請がある国だろうと、ない国だろうと現地に1番近い自衛隊が協力する。ただ海外に行く時はダンジョンに潜る時だろうと、旅行だろうと、こちらの監視役を2名はつけさせて欲しい。ああ、この監視役はダンジョンの外で待機しているし、プライバシーは考慮するので安心してくれ。
この他には日本での君と君の仲間の自由もある。歌姫ならばテレビでアイドル活動を続けるも良し、元自衛隊ダンジョン部隊の人間なら元の部隊に臨時で加勢するも良しだ。
一応、監視や護衛を付ける事はあるかもしれないが、買い物や外出は自由にしていい。ただ県を跨ぐ旅行や外泊をする時は申請をしてからにしてくれ。ああ、申請はダンジョン発生に巻き込まれた際には、後から出してくれるだけで構わない。それから監視や護衛については女性にするので安心するといい。
最後に君と君の仲間のお願いは極力聞けるだろう。このダンジョン部隊は急造とはいえ自衛隊だ。お願いに日本政府のお願いも入るだろうから、相当無茶な要求でなければ、簡単にかなう筈だ。
他にもあるが、後の事は契約書を持って来てからの方が分かりやすい為、契約書を持って来てからにしよう」
隊長はそう言って席を立ち、俺との契約書を取りに退出した。
どうでしたか?
『英雄カード』という以下にも流空が関係していそうな物が出て来ましたが、それの説明は次話かその次の話に入れる予定なので、お待ち下さい。