最強の女騎士は弟のように可愛がっていた魔法士に敗北する。
宜しくお願いします。
「ヴィオーラ・エルメスト!!君に結婚を申し込む!!勝負!!」
数回任務で顔を合わせたことがある男はそう言うと私に木刀を向け切り掛かってきた。
私はそれをため息を吐きながら受け止めると受け流し、一気に詰め寄ると、男の首に木刀を皮膚に触れるか触れないかのギリギリのところで止める。
「ま…参りました。」
その言葉を聞くと私は木刀を下ろしてガクッと膝を落とす男に背を向けて鍛錬場を後にする。
ここ1ヶ月で今のような決闘を申し込まれた数は軽く20を超える。
これは私を気に入ってくれている第二王女の一言から始まった。
今年二十三歳を迎えた私は十八歳が適齢期と呼ばれる歳を越えて行き遅れと呼ばれている。しかし、裏では“筋肉女”やら“男女騎士”と呼ばれる私は騎士の中でも花形と呼ばれる数少ない王族付き宮廷騎士の1人で、どうにかして王族と関わりを持ちたい騎士やら貴族からの求婚が絶えなかった。
元々結婚する気がない私は全てを聞き流していたのだが、私よりも五歳年下で年頃の王女様が1ヶ月前にある発言したことによりもっと面倒くさい事になった。
「ヴィオーラの結婚相手は彼女より強いものでなければ私は認めません」
つまり、私より強ければ王女様が私との結婚を認める…と言う発言をある夜会でしてしまったのだ。王族である王女の発言を無下にするわけにはいかない私は自分に勝った者と必ず結婚しないといけないのだ。
その後事の重大さに気付いた王女は私に泣いて謝ったが、王族の意見を簡単に覆す事はできない。と言っても私が負けなければ良いだけなのだ。これは返って王族を守る騎士の強さを周囲に知らしめて牽制するにも役立つと説得して王女を慰めた。
かと言って、こうも決闘を申し込まれては疲れる。
私は再びため息を吐くと私にとって唯一無二の癒しを求めて王城内の騎士塔の隣にある魔法士塔に向かった。
騎士と魔法士は仲が悪い。騎士は力こそ全てだと語り、魔法士は魔法こそが全てだと語るからだ。お互いを毛嫌いする騎士と魔法士は少なくない。
紅色の長いローブを着た魔法士たちの間をすり抜けてそこそこ豪華なアイツがいる部屋を目指す。
紅色の中で青色の騎士服を身につけた私はとても目立つ。すれ違う魔法士達の「またか…」と言う視線を私は見て見ぬ振りをして足早に進む。
目的の研究室にたどり着いてノックもせず部屋に入る。部屋の主は研究を始めると周りの音が全く聞こえなくなるのでノックしても無駄だと知っているからだ。
部屋は本や魔法石、何かしらの装置で溢れかえっている。奥に進むと机の上の薄紫色の液体が入ったビーカーを観察しながら一生懸命紙に何かを書いている人が見えた。
後ろを向いているその人は他の魔法士とは違い、黒色のローブを着てそのローブについているフードを目深く被っている。こちらから見えるローブの背中にはこの国の上級宮廷魔法士である事を示す王家の紋章が入っている。
私はその者に近づくと我慢ならず後ろからぎゅっと抱きしめる。抱きしめた瞬間黒いローブの人は驚いたのが持っていたペンを落として肩をビクつかせた。
「ヴィ…ヴィオちゃん…?」
驚いたのが少し潤んだ黒色の瞳と目が合う。黒いローブと同じ真っ黒の髪、日焼けを知らない真っ白い陶器のような肌、影を作る睫毛に、小さな整った鼻、薄い唇はルージュを塗っていないのに赤色に湿っている。美少女にも見える美しい容姿をしているが、抱きついている体は筋肉質ではないが少し硬い男のものだとわかる。
「ロイ…ちょっと充電」
私はそう言うとぐりぐりとロイの頭に顔を擦り付ける。その拍子にパサリと落ちたフードに構わずロイのサラサラの黒髪を堪能する。研究好きで始めると食事すら疎かにしがちなロイだが、お風呂にはしっかり入っているらしい。優しい石鹸の匂いがする。
「ちょっ…匂わないでよ」
顔を朱色に染めて恥じらうロイが可愛くて私はロイの頭をよしよしと撫でる。
「うん、いい匂いだ。ちゃんとお風呂に入って偉いぞ」
「こ、子供じゃないんだから…!」
わたわたと慌てるロイを見てクスクスと笑う。そんな私を見て頬を膨らませるロイが可愛くて再び私はロイの頭を撫でた。
ロイと私は同じ孤児院出身で、私が十歳、ロイが五歳の時に初めて会った。この国では黒に近い色を持つものほど魔力量が高いと言われている。そんな中、真っ黒な髪と瞳を持ったロイを家族は恐れて孤児院に預けたと言う。
初めてロイを見た時に私が感じたのは嫌悪でも、畏怖でもなくただ単に綺麗だと思った。なんだったら美しく、儚いその容姿に「天使か…」と言葉をこぼした程だった。
夜色の髪は艶やかで黒色の瞳も見たことがなくとても引き込まれた。酷い目にあっていたからか人を避けようとするロイに私はついて回った。そして構いに構いまくり、少しずつ、ほんの少しずつ私に心を開いていくロイに嬉しく感じながらロイの事を化け物だと言う大人や子供から私はロイを守ろうと心に決めた。
見るからに魔力の強く、少し肉がついて美しい少年へと変わっていくロイを連れ去ろうとする者が多くいる中私は剣を持ち、彼等から必死にロイを守った。
そしてロイが魔力の使い方を学ぶ為宮廷魔法士になる事が決まると私はロイが心配で同じく騎士となった。元々鍛えていたこともあり、今では騎士としての実力から、上位二十人にしか与えられない上級騎士である宮廷騎士となった。
「そ、そう言えばヴィオちゃん…」
ちょっと戸惑いながらもロイは頭を撫でていた私の手を頭から離すと私の手をきゅっと握る。
「ん?」
その仕草が可愛くて悶える心を落ち着かせる。なんなんだこの可愛い生き物は。このロイを化け物だと言う者は目が腐っているに違いない。
「あの…王女様が言ってた事なんだけど、ヴィオちゃんに決闘で勝ったら…」
ロイがそこまで言った所でバタバタと足音が聞こえて扉が勢いよく開かれる。
「ヴィオーラさん!!又こんなところにいた!!」
肩で息をしながら私が教育係をしている見習い騎士の少年が入ってきた。
「…チッ」
「…ロイ?」
ロイから想像も付かない舌打ちが聞こえた気がしてそちらを見るが少し困ったように笑う天使は私に変わらない笑顔を向けていた。
「お迎えが来ちゃったね…」
「あぁ…うん。また来るよ」
私はそう言うとロイの頭をぽんぽんと撫でて見習い騎士の元へと向かう。ロイの方を見ていた見習い騎士が「ヒィッ」と声を上げて顔を青くしていたことに私は気づかなかった。
「ヴィオーラ!!待っていたぞ!!」
魔法士塔を出るとそのまま広場へと連れて来られ、そこには熊のように大柄な男が腕を組んで立っていた。
「ジーク…君も飽きないね」
熊のように大柄な男が私の身長ほどある大剣を私に向ける。
「俺はお前を嫁にもらう」
ジークは私が宮廷騎士だからという理由で結婚を申し込んで来ているのではなく、単純に私を好いてくれているらしい。私に決闘を申し込む中にいる数少ない物好きのうちの1人だ。
「物好きもいるもんだな」
「…ヴィオーラさんのそれって本気なんですか?」
私を呼びに来た見習い騎士は私に何か疑いの目を向けていたがなぜ疑われるかわからない。
「何がだ?」
「ナンデモナイデス」
見習い騎士はそう言うとプイッと顔を背けた。首を傾げるヴィオーラの前に大剣が振りかざされる。
咄嗟に隣にいた見習い騎士を抱き寄せて抱えると後方に飛んで相手と距離を取った。
距離を取ってから抱えていた見習い騎士をドサリと下ろすと「離れていろ」と声を掛けた。抱き寄せた時に鼻を打ったのか鼻血を出していた見習い騎士に少し申し訳ないと思うと剣を向ける騎士に向かい合う。
「おい、そこの見習い騎士。俺の花嫁の胸に顔を埋めるなんて…ただで済むと思うなよ」
「ふ、不可抗力です!!」
見習い騎士はブンブンと青い顔を横に振る。
「胸がなんだ。そんなものただの脂肪だろう」
「男にとってはロマンだ」
「馬鹿なのか?」
普通の女性よりも少し大きな胸を持ったヴィオーラにとって胸は騎士にとって邪魔なものという意識以外持っていなかった。これでもサラシを巻きつけて少し小さく動きやすくしている。
5度目になるジークからの決闘に5度目の勝利を収めると私は大人しく騎士寮へと戻った。
いつもであれば城下にある大浴場に向かうのだが、なぜか今日は少し火照ったままの体が気持ち悪くて自室に戻るとそのままベッドにダイブした。
「暑い…なんだこれ…」
ジャケットを脱いで着ていたブラウスのボタンを少し外してから下に器用に手を入れて胸を締め付けていたサラシを抜き取る。
ベッドに横になっていても冷めることのない暑さに夜風に当たろうと徐ろに外に出た。
心地の良い夜風を感じながら騎士寮の裏庭のベンチで休んでいると誰かが近づいてくる気配を感じた。
「ヴィオちゃん?」
魔法士寮へと帰る途中なのか鞄を持ったロイがそこに立っていた。
「ロイ?」
「ちょっと心配だったから騎士寮に寄ってみたけどやっぱり薬に当てられてしまったみたいだね…」
「…くすり?」
ロイは私の額に手を当てる。
少し冷たく大きな手は心地よい。
「…実は今日作っていたのは陛下から秘密裏に依頼された媚薬なんだ」
言われてから今日ロイの机に置いてあった薄紫色の液体を思い出す。
「び、媚薬…?」
ナイショだよ。と言うようにロイは人させ指を唇に当てる。それがとても色っぽく感じて弟のように感じていたロイが男の人に見えてドキッとする。
「最近、王妃様とご無沙汰みたいで」
ロイはやれやれと言うように肩を上げた。
「び、媚薬なんて…ロイに何で物を…」
少し衝撃を受ける。私の可愛いロイにそんなものを作らせるなんてあの色ボケ爺ィめ…。
「耐性の無い人には匂いを嗅いだだけでも当てられてしまう物だったから様子を見に来たんだ」
耐性の無い人?私が首を傾げるとロイは少し困ったように眉を下げた。
「“未経験”って事だよ」
「…」
私は少しぼーっとする頭を抱えた。可愛いロイの口からそんな下世話な話なんて聞きたくなかった。でも風邪など引いたことのない私は今の体の異常に納得した。ロイに言われた通り私はそっちの経験はない。
「どうすればこの熱は治る?」
「…うーん。欲求を発散させるのが一番だけど」
「…無理言うな。相手がいない」
「じゃあ、僕が相手してあげようか?」
にっこりと笑うロイにいつも感じる愛らしさはなく、背中に冷や汗が流れる。
「は?」
「だから僕がヴィオちゃんの相手をしてあげるよ。僕下手ではないと思うよ」
下手じゃないって…ロイは経験豊富なのか!?私の可愛いロイが!?いや、ロイももう十八歳…可愛い顔をしていても身長は数年前には抜かされている…って、今はそう言うことじゃなくて…。ベンチに私を押し倒したロイは私が逃げられないように私の足の間にスラリとした足を捻じ込ませた。
「ば…馬鹿!何言って…!!」
押し返そうとしても、火照った体は上手く力が入ってくれない。
「そう言えばヴィオちゃんに勝ったらお嫁さんにできるって聞いたんだけど、これも勝負に入るかな?」
悪戯に笑う私が大好きな黒色の瞳は、私が知らない獲物を捕らえた雄の目をしていた。
「何が…あっ…」
私の耳をぺろりと舐めたロイは耳元でクスリと笑った。
「凄いでしょ僕の薬。これはいくらヴィオちゃんでも勝てないよ」
「い、いや…」
「大丈夫…優しくしてあげる」
ロイはそう耳元で囁くと深夜の裏庭のベンチで私を底無しの快楽の沼へと引き摺り込んで行った。
その翌年、最強と言われながらも金髪に青目の誰もが振り返る美しい女騎士と、最高と言われる頭脳と魔力を持ち黒髪に黒い瞳の美しい青年魔法士の間に黒髪、青目の美しい男児が生まれた。
少し鈍感な女騎士は自分が愛でていた魔法士に気付かない間に逆に甘々に愛されて幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ヴィオーラ
超絶鈍感。自分の容姿が優れている事に気付いていない。皆自分に求婚するのも王族との繋がりが目当てだと思っているが、実際はヴィオーラ目当て。結婚しなくてもロイの子供を抱っこできればそれで良いと思っていた。なんだかんだでロイの事を愛している。巨乳美女。
ロイズ
人間不信だったが、ヴィオーラのおかげで立ち直れた。昔からヴィオーラが好きだが弟としかみられていない事をわかっていた。可愛い顔のロイを放っておかなかったお姉様方に襲われてからヴィオーラ以外の女を性欲処理の道具としか思っていない。ヴィオーラ以外には笑わない。国王陛下ですらロイには頭が上がらない。裏の権力者となる。