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勇者達の翌朝(旧書・回想)  作者: L・ラズライト
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「緑の火、オリーブの瞳」4

融合後、目覚めたホプラスの話です。


本編の「序」とリンクしています。

旧書・回想「緑の火、オリーブの瞳」4(ホプラス)


光の中で意識が戻った。

目の前には、その光よりも儚い色味の、金色に縁取られた、真珠のような顔があり、そこから、見開かれた空色の瞳が、こっちを見ていた。

「まあ、ホプラス。」

感動でそれ以上、なにも言えなくなったディニィが、ベッドの横に座り、僕を見つめている。そして白い毛布の上には、緋色の何かがある。

ああ、エスカーの髪だ。彼は、その緋色の頭を動かし、半分突っ伏していて、一言、「ホプラスさん、よかったあ…」と眠そうに呟くと、そのまま、既に半開きだった、琥珀色の瞳を閉じた。

エスカーとディニィ、二人は僕の看病をしてくれたのだろう。傍らに、魔法動力の浄化装置が見える。

奥からバタバタと音がして、「早く、早く」というかん高い声が響き、サヤンが、部屋に入ってくるなり、ベッドの僕に飛び付いた。ライトブラウンの短い髪が、裸の胸に辺り、見上げる顔から、茶色の瞳が濡れていた。

「ホプラス、良かった、もう、心配で心配で!」

いきおいのため、彼女の体重を支えきれず、起こした上体は再びベッドに沈む。

「サヤン、ホプラスは、病み上がりだから。」

「あ、ごめん」

離れた少女、サヤンの背後、黒い頭が二つ見える。やや明るいほうの頭、キーリが、放心したような笑顔で、静かにこちらを見ている。髪と同色の褐色の瞳から、小麦色の頬には、涙こそなかったが、小さく「よかった」と呟いた言葉が、柔らかく響いた。もう一つ、傍らには、長い黒髪、すらりとした脚、彫刻のように完璧な立ち姿の、ラールがたたずんでいた。

「何よ、無駄足になったじゃないの…」

何時もは冷たいラベンダーブルーの瞳に、暖かい涙を浮かべて。

二人の間から、のっそりと黒い頭が現れ、「もってきたぞ」とどら声で叫びながら飛込んできた。

「兄貴、遅いよ。なおっちゃた。」

サヤンが僕から完全に離れ、黒い頭の持ち主のユッシに言った。彼は、妹とお揃いの目をまるくし、

「火竜炎症が?信じられないが、まあとにかくよかった。」

と、荷物を下に下ろした。

僕は仲間を一通り見回した。ディニィ、エスカー、サヤン、キーリ、ラール、ユッシ。

その時、最後の一人が入ってきた。

ちょうど陽のあたる場所から、静かにこっちを見ている。純金のような髪が煌めいている。ゆっくりベッドに近付くと、足を止めた。何時もはくるくると表情を変える、オリーブグリーンの工芸ガラスのような目は、特に何の表情も浮かべず、僕を見ていた。

「ルーミ。」

僕は彼の名を呼んだ。その途端、僕の意識に、「守護者」の意識が怒涛のようになだれ込む。これが融合か、彼は僕の頭の中で呟いた。僕の意識は事態を把握した。そして、次に絶望的に切ない感情が、怒涛のように溢れてきた。

ルーミ、彼こそは、僕がその全てをかけて、愛しんできた、唯一の存在だった。「守護者」は、世界を救う、勇者パーティのリーダーになる、姫と結婚して王になる、今まで様々な未来を示唆してきた。誰もが焦がれる未来。それらに見向きもせず、たった一つだけ、僕が焦がれたもの。

「起きたか。」

彼は僕を見て、一言いい、僕の返事をまたず、言い放った。

「回復したら直ぐに出発だ。三日もあればいいだろ。」

「ちょっとルーミ、あんたね、ホプラスはあんたの事を。」

サヤンが抗議して口をはさんだが、ルーミは彼女の方をみてから、整然と続けた。

「もう二度とやるな、とか、俺なんかかばうな、なんて言っても、どうせ、こいつ、聞く気なんてないだろ。俺が逆の立場でも、同じことするし。」

心臓が止まるかと思った。その通りだ。

「ああ、そうだね。」

僕は微笑んだ。心からの笑顔で。

「お邪魔みたいだね。」

ラールが先程の涙はどこへやら、からかうように言った。続いてディニィが、

「ユッシさん、エスカーを運んでくれる?」

と言ったのに始まり、

「おお、看病づかれだね。」

「ディニィも休んだ方がいいね。」

「あたし達も休もうよ」

と口々にいい、全員、妙なテンションで部屋を出た。最後に、サヤンがにやにやしながら「お二人さん、ごゆっくり」と言い残して。

「その手の冗談はよせといってるだろ。何だよ、サヤンまで。」

ルーミはふくれつらで、「覚えてろよ、ラール。」と、きっかけを作った彼女に、少し毒付いて付け加えた。いつもなら、そういう冗談はエスカーがいい、みんなは言わないが、彼が寝ているせいか、はたまた僕が助かって浮き上がった空気になっていたからか。

「だいたい、あいつらだって、似たようなもんじゃないか。なあ、ホプラス…え、どうした。」

ルーミが振り向いて僕を見て、驚いて駆け寄り、顔を除きこんだ。僕は彼に何か言ったと思う。開けた口の中に、涙が入ってきたからだ。

これは不味い、「守護者」は考えていた。融合してしまったら、人の遺伝情報が伝えられなくなるから、子供は出来なくなる。これで監視者の計画から、僕は外される。彼の立場では、不味いの一言につきる。

だが、涙は、僕の物だ。融合しようがしまいが、計画が変わろうが変わるまいが、今も昔も、これからも、監視者の計画に、僕とルーミの道はない。覚悟はしていた。だが、変えられない未来として、突きつけられてしまった。恐らくは、僕たちが

「全能の神」と呼んでいる立場の存在から。

「うまく喋れないのか?やっぱり薬いるんじゃないか?ディニィに頼もうか?」

本気で僕を心配し、先程の虚勢はどこへやら、おろおろと、僕の顔を見つめる、ルーミの目。一番、大切な相手を見る目。炎のような熱と共に、燃えるオリーブグリーンの煌めき。だが、それは、「完全で最高の友愛」の炎だ。

そう、道はないのだ。彼を愛する、僕にとっては。


旧書の回想は、ここで一段落です。


ルーミ視点の物語が、少しありますが、途中なので、「新書」の後に掲載します。


※サイトには途中までですが、掲載しています。

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