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勇者達の翌朝(旧書・回想)  作者: L・ラズライト
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「水の誘惑」2

旧書・回想「水の誘惑」2(ルーミ)


しまった、ドジを踏んだ。自分は平気、なんて、どうして思ったんだ。最初はそう思った。

だが、すぐに、これは俺のミスじゃないな、と考えを変えた。育った俺は対象外、という見方は、現象から見れば、正しい。「言い付け」も守り、ホプラスから離れなかった。(二人で先攻なんだから当たり前だが。)

あの時、蔓がサヤンに伸びて行くように見え、ホプラスが彼女の所に走る。魔法剣で、それらを途中で断ち切った。

先端が俺の近くに落ちた。イボが付いていたが、ガス穴はなく、液体が少し付いて、切った部分だけ、少し気化している。切る端から焼くぞ、と言おうとしたが、何かに脚を掴まれて引きずられ、気がついたら、一人で、壁に貼り付けにされ、腕と胴を締められている。

周囲には人はいない。人の形から、手が蔓のように何本も出た、水の宿主の姿があるだけだった。脚は岩影で見えない。

“まさか君から、俺の所に来てくれるなんて。”

このパターンか。この手の奴って、どいつもこいつも、どうして、こういう発想しかないんだ。

“強くなっただろう、俺。水魔法なんて、回復くらいしか、使えないと思ってた。今は、相手が誰でも勝てる。何だってできる。誰でもタダで手に入る。”

なんで金が前提なんだ。それとも、これは笑う所だろうか。

ある意味、こんな目にあっても、悲愴感もなく、前向きなのは、こいつの長所かもしれないが。

“俺はね、もともと、水魔法はかなり強かったんだ。だけど、お祖父様が、『水魔法なんて、回復以外は使えん。女の子の技だ。』というから、一度、風魔法にさせられた。格闘もそうさ。細身剣の方が得意だったのに、お祖父様が。”

将軍は、要するに、魔法に対する偏見があったんだな。水魔法は回復が優れているのは確かだ。攻撃は、確かに火魔法や風魔法ほど派手な威力はない。だが、例えば火魔法の資質の低い者が、無理して火魔法を使うよりは、水魔法が得意ならそのまま使った方が、遥かに良い。騎士なら基礎の攻撃と回復ができれば、後は魔法剣への転化になるから、早い話が、属性はなんでもいい筈だ。

細身剣はよく知らないけど、実戦用の剣術じゃない、とは聞いてる。

同情はするが、身内の愚痴を俺に言われても。どうしろと。

まあ、このまま話続けてくれれば、そのうち助けはくるだろうが。でも、その前に、自力で蔓から出るくらいはしなきゃ。人質にされたら戦いにくい。

蔓の一本が延びて、俺の顔を撫でた。手足から、蔓はたくさん伸びているが、よく見ると、途中で切れたり、短くなって動かないのが何本もある。回復魔法は自分の傷は直しにくい。水の宿主でも、自己再生能力はないようだ。

“ああ、やっぱり、綺麗だなあ。”

蔓は指のように、首筋をなぞる。嫌な予感がする。

「あんたが好きなのは、小柄な金髪の子供、だろ。俺は育ちすぎじゃないのか。」

“金髪の子は、色白だから、たいていは、そばかすやシミが目立つだろ。子供はそうでもないけど。…君は理想的だよ。奇跡みたいに滑らかで。”

血の気が引く。よりにもよって、それか!

少し高さがある上、右手は胴と一緒に縛られているので、躊躇していたが、俺は火魔法を放った。服と体が焼ける。それでも、蔓が焼ききれて、離れてくれる事を願った。だが、蔓は、じゅっといっただけでダメージもほとんどない。

“効果ないよ、火魔法は。”

これがエレメントの補強。奴の水魔法が、俺の傷を、跡形もなく治す。

“他にも怪我はないか、見てあげるよ。“

「よせ、やめろ。離せ。お前なんか…」

“ああ、それでもいいよ。俺は、君を好きなのと同じくらい、ネレディウスが嫌いなんだ。あいつの『宝物』、横取りも悪くない。”

それじゃ、これはホプラスのせいだな。そもそも離れるな、と言っといて、俺の側から離れた。だから…。

「早く、助けに、来い!」

鍾乳洞の中に、声がこだまする。返事はない。

返事はないが、悲鳴が聞こえる。蔓が急に緩んだ。と言うより、外れた。

キーシェインズの体が、ごく薄い霧に包まれている。ガスだ。そのガスの霧のむこうから、ホプラスが、現れた。

俺は、壁に添って滑り落ちる所を、ホプラスに支えられた。が、その前に、壁にぶつけた腕の、感覚が鈍い。蔓から、僅かにマヒ攻撃を受けたらしい。

「剣は…持てそうにないな。魔法で補助してくれ。」

ホプラスは、俺を支えて立たせた。足もきついが、腕よりはましだ。

「お前、ガスは…。」

「あれくらいじゃ、効かない。…エスカー達が、足の方の…『水源』に『根』を下ろしてる部分を切って、魔法をうちこんだ。たぶん、手の蔓から、『吸収』しようとするから、熱水作戦で行こう。前に一度、やってるよね。」

俺は、さっき、火魔法がほとんど効果のなかった事を伝えた。ホプラスは、

「今なら、高確率で、充分効く。」

と言った。言われてみれば、ガスが出ているのに、俺たちに効果の気配はない。弱っている、という意味だろうか。重ねて尋ねたかったが、蔓が飛んできた。

“返せ、返せよ!”

真っ直ぐ俺たちを狙ってくる。蔓に吸収機能があるかどうか謎だが、岩影から、見えなかった根の部分、切り口がこっちに伸びてくる。どうやら、根には再生機能があるらしい。

俺たちは、魔法を合わせて、熱水を作った。思いきり吸収した本体は、物凄い悲鳴とともに、「溶けた」。

だが、それで終わらなかった。何かの形、固まりのような不定形を取りながら、再生しようとする。蔓のみ切った時はなかった自己再生能力が、宿主の体をなくすかもという間際に、追加増幅されたようだ。蘇生を司ると言われる土属性に、こういう例があるのは知っていたが、水属性でも、起こる事があるのか。

当然、俺たちは反撃し続けた。だが、決定打が入らず、徐々に弱まっている事は確かだが、切りがなく、長引いた。ディニィ達の姿は見えないが、「根」のある辺りでも、似たような状況なんだろう。激しい物音だけは聞こえる。

何度目かの攻撃で、とうとう、肉体の再生部分はなくなった。だが、薄い気体のようになった姿が、霊のように浮かんで、生前の姿に近い影となり、中に浮いていた。

「これを消さないと、時間経過で復活してしまう。」

と、ホプラスが呟いた。

“何でだ。強くなったのに。勝てるのに!君はこっちに来ない!”

キーシェインズの声が轟く。

ああ、そうか。こいつが再生する、原動力が見えた。それなら、ここは絶望の深き淵、最後の手がある。

ごめん、ホプラス、こういうのは俺も嫌だが、いちかばちかだ。

俺は、ホプラスの顔を両手で捉え、寄せた。

偽りを誓うために。

「強かろうが、弱かろうが、俺が選ぶのは、こいつ一人だ。」

キーシェインズは、俺の言葉に、一瞬、白く輝きを増し、四散して、消滅した。

俺は、恐る恐る、ホプラスの顔を見て、適当に、明るく、「最後は簡単だったな。」と、言おうとした。

だが、俺は声を出すことが出来なくなった。

耳元で、「ルーミ、僕も…」と、嬉しそうな声。そして、包み込まれる。

「今も、昔も、これから先も、ずっと、君を―――」

柔らかな声が、優しく囁いた。


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