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7 大精霊エインズワース


「再びお仕えできること、心よりうれしく存じます。私はエインズワース。クラウゼヴィッツ様の忠実なる右腕です」


 いきなり、とんでもない美少女が目の前に現れて、僕は激しく混乱することになった。

 凜とした瞳に薄紫のロングヘアー。高めの身長は人間のそれとまったく変わらない。すらりと長い手足は黒と白を基調としたゴシック風のメイド服に包まれている。

 人間ではなく精霊だからだろう、その姿は人間離れした美しさと幻想的な雰囲気を纏っていた。


「あの、僕はクラウゼヴィッツさんではないんだけど」

「しかし、魂は同様の形をしていると私は確認しています」

「多分その生まれ変わりなんじゃないかって感じなんだよね。だからそう呼ばれるのはしっくりこないというか、びっくりしちゃうというか」

「では、何とお呼びいたしましょう」

「世界で一番かっこよく頭が良いアーヴィス様で」

「はい、承知しました。世界で一番かっこよく頭が良いアーヴィス様」

「…………」


 僕はいたたまれない気持ちになった。


「……ごめんなさい、普通にアーヴィスでお願いします」


 エインズワースさんはよくわからない様子で小首をかしげてから言う。


「承知しました。では、そのようにいたします」

「うん、お願い」


 話を聞くと、彼女は前世の僕に仕えて身の回りのお世話をしてくれていたらしい。戦闘能力も高く、それで魔導書の守人を任されることになったとか。


「なるほど、だからメイド服なんだ」

「いえ、これはご主人がこの衣服を着てほしいとご用意くださったものです。『クールで無表情なできる系女子にメイド姿でご奉仕されたい』とのことで」

「…………」


 大魔術師の知りたくなかった一面だった。

 自分で作った精霊にメイド服着せてご奉仕させるとか。

 とんだ変態だよ、前世の僕。

 しかも、その好み僕の性癖にもぶっささってるし。開けてなかった禁断の扉、勝手に開けないでくれない? ねえ。


「どうかなさいましたか、アーヴィス様?」

「気にしないで。前世の僕の変態ぶりに胸が痛んでるだけだから」

「いえ、ご主人は変態ではありません。絶対に私たちに手を出したりはしませんでしたから」

「良かった。そこは自重できてたんだ」

「この歳までそういうことせずに生きてきたから、今さらそういうのするのは怖いとおっしゃってました」

「高齢童貞か……」


 もっと知りたくなかった一面だった。

 すごい魔術師だったはずなのにそれって、どれだけへたれだったんだ前世の僕。

 とはいえ、その傾向は僕にもある。

 女友達全然いないし、女の子はどちらかと言えば苦手な方。自分からぐいぐいいったり、リードするなんてできないし。


 そもそも、エリスの病気と目が治せるまで、付き合うとかそういうのは考えられないとも思ってるからな。

 こういうとこ変に真面目で潔癖なのも、高齢童貞まっしぐらな気はしないでもない。

 ともあれ、翌朝。迎えに来たエメリさんはエインズワースさんを見てぽかんと口を開けた。


「き、君はあの魔導書の暗号を一日で解いたというのか……?」

「まだ入り口だけですけどね。でも、基本的な構造はわかったかな、と」

「……やはり、君は私の想像以上の逸材らしい」


 虚を突かれた様子で言うエメリさん。

 やった! なんか高評価っぽい。


「となると、彼女が資料に名が残る大精霊ということか」

「知ってたんですか?」

「うん。クラウゼヴィッツは魔術以外一切何も出来ない社会不適合者で、身の回りの世話は全部自分が生み出した魔術精霊にやってもらってたらしいから」

「…………」


 やっぱり大分特殊なやつだな、前世の僕。


「とはいえ、その資料というのは私が世界中隈無く探し回って見つけたものなんだけどね。正史とされている資料にはクラウゼヴィッツ同様彼女の名は一切出てこない。存在自体抹消されている。実体化し、自立行動する魔術精霊なんて、それだけでも大変な偉業のはずなのに」


 エメリさんは身を乗り出して続けた。


「教えて欲しい、大精霊エインズワース。人魔大戦で魔王を倒した最強の魔術師であるはずのクラウゼヴィッツがなぜ、この世界の記録から抹消されているのか。なぜ彼はある時期から唐突に姿を消したのか。いや、もっと踏み込んで言えば――」


 声が一段と低くなる。


「彼は誰に殺されたのか」


 エインズワースさんは何も答えなかった。

 じっと押し黙ってから言った。


「申し訳ありません。記憶に欠落があると確認されました。その問いに対する答えを私は持ちません。ただ、一つだけ申し上げられる情報があります」


 その声はやけにはっきりと部屋の中に響いた。


「敵の目的は、魔術が使える人間をこの世界から根絶やしにすることです」






「なるほど。どうやらわかりあえる相手ではないらしい」

「むしろ全力で距離を置きたいところですね。僕、世界の平和より自分と妹の方が大事なので」

「はっきり言うね」

「ヒーローになれるような器も優しさも持ってませんから」


 知らない誰かを守るために、身を危険にさらせるような正義感は生憎持ち合わせていない。

 僕にとって一番大切なのはエリスだから。他の物事はすべて二の次だ。


「ところで、そんな君にお願いしたいことがあるんだけど」

「……あの、昨日からお願い多くありません?」


 前世の夢を見たことを隠すこと。

 時間系魔術を使って、魔術界の常識を揺るがすこと。

『クラウゼヴィッツの未踏魔術書』の解読とそれによる自身の強化。

 既に三つもお願いされているわけで。

 さすがに頼みすぎと言わざるを得ないような。


「うん、そう思ってこれは頼まずにいたんだけどね。でも、いろいろなことが見えてきて、私ももっと調査に集中したくなってきたからさ。もういいや。ついでにお願いしとこうって」

「断ります。僕にも僕の考えがあるので」

「報酬は弾むつもりだけど」

「誠心誠意やらせていただきます、依頼主様」


 金のために躊躇いなく自分の意志をぶん投げた僕に、エメリ先生はうなずいてから言う。


「学院に通う君の同級生の護衛をお願いしたいんだよね。少し周囲に怪しい動きが見られるから」

「その同級生っていうのは、やっぱり財閥のご子息的なやつですか?」


 名門魔術学院ともなると、通っているのはエリートばかり。

 どうせそういうところだろうと思って聞くと、


「そうだね。系統的には似たようなところかも」


 エメリ先生はうなずいて続けた。


「リナリー・エリザベート・アイオライト。この国――アイオライト王国の第二王女だよ」



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