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67 地下奴隷闇市場


 世界はあまりに眩しすぎて、エリスの目がそれに慣れるまでには少し時間がかかった。


 だけどそれも二時間おきに点眼する薬の効果で、次第にエリスの目も光に強くなった。

 一週間もすると周囲のものをある程度普通に見ることができるようになった。


「本当にありがとうございました、先生」

「ボクはボクにできることをしただけですから」


 ギュンター先生は微笑む。


 病院の帰り道、外は雨だった。

 だけど、それは僕らにとってはうれしい雨。

 光に弱い今のエリスの目には、雨降りの方がずっと過ごしやすいから。


「兄様、あれすごく綺麗!」

「ほんとだ。綺麗な花壇だね」

「お花ってこんな風に見えるものなんだ」


 目を輝かせるエリス。

 そっとお花に触れてその感触を確かめる。


「お花だ! 兄様これほんとにお花だよ!」

「そう言ってるだろ」


 弾んだ声で言うエリスがおかしくて笑ってしまう。

 普段年の割に大人で落ち着いているエリスの子供らしい姿は、僕をどうしようもなく幸せにしてくれた。


「これは何のお花なの?」

「何だろう……? チューリップとかかな?」

「兄様、絶対チューリップでは無いと思う」


 全否定されてしまった。


「それは、アナベルですね。夏に咲く美しい花です」

「アナベルって言うんだ。綺麗……」


 エインズワースさんの言葉に、陶然と桃色の花を見つめるエリス。


「家でも何か育ててみる?」

「いいの!?」

「うん。兄様高収入だからそれくらいの余裕はあるよ。大丈夫」


 本当は、手術と術後の治療費で財布の中はほとんど残ってないのだけど。

 でも、僕の食費を削ればそのくらいのお金は捻出できるはず。


 何せ僕は状況によって何のストレスも無く生活レベルを最底辺まで下げられる異能の持ち主だ。


 ああ、ただいまもやし!

 僕、帰ってきたよ!

 いざ、夢の週七もやし生活!


 来たるべきもやしとの幸せな生活に心躍らせつつ、僕はエリスを花屋に連れて行った。


 鉢植えに肥料に土。

 動物を模したかわいいスコップとジョウロ。

 予想以上にお金はかかったけど、世界トップクラスの貧乏耐性を持つ僕にはまったく問題ない。


 一番お金無かった頃に比べたら、これくらいお金無い内に入らないからね!


 ふふふ、いいんだよ。何だって買ってあげるよ、エリス。


 喜ぶエリスに僕は頬を緩ませまくる。


 大丈夫。

 エリスの身体は、絶対僕が治すから。

 そう、僕は心に決めている。






 幸せな時間をたっぷり堪能してから、僕はストロベリーフィールズ家の私設図書館に向かう。

 エレベーターの隠しボタンで地下秘密基地へ。


 円卓の会議室で、仮面をつけて僕は言った。


「時は来た。黒の機関は悪魔に対し侵攻を開始する」


 瞬間、上がったのはどよめきと歓声だった。


「なんと! 我々の方が悪魔に対して侵攻を!」

「素晴らしい! 素晴らしいお考えです、000(ゼロ)様!」

「自ら悪へ侵攻する正義の秘密結社! なんてかっこいいんだ、俺たち……!!」

「やるしかない! やるしかありませんよ、これは!」


 興奮した様子の黒仮面たちに僕はうなずく。


「巨悪を前にしてなお、素晴らしく高い士気。君たちを誇りに思う。私は、本当に素晴らしい仲間たちに恵まれている」

「いえ、すべては000(ゼロ)様が我々に自信と勇気をくれたがゆえのこと。恵まれているのは我々の方です」


 ドランの言葉にうなずく黒仮面たち。


「強大な敵を倒すには力がいる。007(セブン)、『チルドレン計画』の進捗は」

「順調です、000(ゼロ)様。子供たちは素晴らしい成長速度で、黒の機関構成員としての技能を身につけています」

「ちゃんとおやつの時間とお昼寝の時間。それから、組織内の友達と遊ぶ時間も設けているだろうな」

「もちろんです。国の初等教育プログラムを参考に、子供たちが活き活きと生活できる環境を整えてあります。皆、豊かな生活をさせてくれる我々にとても感謝しているようです」

「素晴らしい。引き続きその調子で頼む。他に、誰か我々の仲間になってくれるものに心当たりは無いか?」

「辺境都市、リヴァーランでは影で国際法に反した奴隷売買が盛んに行われているようです。奴隷たちは劣悪で非人道的な生活を余儀なくされているとか。彼らに不自由なく暮らせる環境を提供すれば、仲間になってくれる可能性は高いかと」

「良い考えだ。それでいこう。001(ファースト)、部隊の編成を頼む」

「承知しました、000(ゼロ)様」


 こうして、僕らは辺境都市リヴァーランに向かった。






 奴隷商たちが利用する地下奴隷闇市場を見つけるのは、決して難しいことでは無かった。

 彼らは巧妙に、王立警備隊や自警団の目をかいくぐっていたが、戦闘用スーツの光学迷彩が使える僕らは、悟られること無く彼らを尾行することができる。


「はぁ、はぁ……最高です短パンショタ奴隷! 安心して暮らせる環境をくれた黒の機関男子への感謝の気持ちがいつしか恋に変わりそして! ああ、たまりませんっ!」


 クドリャフカさんは、尾行はせず僕と一緒に待機。


 ただのクラスメイトだった頃はやばい人だなぁ、と思っていたけれど、より近い同じ組織の仲間になってみるともっとやばい人だなぁ、と思う。


 こんな感じでも、身体能力が高く戦闘面では強いから戦力としては頼りになるんだけどね。


 狂犬だけど。

 最近のドランは彼女が動くたび、びくってちょっと怯えた顔してるけど。


『こちら006(シックス)。地下奴隷市場に続く隠し扉を発見しました。ご褒美に奴隷幼女に一時間勉強を教える権利をいただきたいのですが』

「こちら000(ゼロ)。褒美は別の形で払う。子供たちには指一本触れさせない」

『そんな……そんな……』


 006(シックス)は涙声だったけど、僕も子供たちの未来を守る義務がある。

 組織のリーダーは時に、非情になる必要があるのだ。

 ごめんな、006(シックス)。


 ともあれ、006(シックス)のおかげで、奴隷市場に潜入する経路を発見した僕ら。

 次の問題は、興奮するとつい声が出てしまうクドリャフカさんをどう押さえ込むかということだった。

 奴隷市場には幼い男の子の奴隷も多い。

 クドリャフカさんの興奮値はいつに増して高くなっている。


「031(サーティワン)は私が押さえ込むわ。外で私と逃げてきた奴隷商を確保してもらう。クドわかった?」


 言ったのは007(セブン)だった。


「ダメです奴隷ショタが! 奴隷ショタがわたしを待ってるんですよ!」

「002(セカンド)も手伝ってください。私一人では抑えきれない可能性があるので」

「わかったけど、奴隷ショタって何?」

「002(セカンド)は知らなくて良いです」


 三人を残し、僕らは奴隷市場に潜入した。

 まずは情報収集。

 警備をしている用心棒の位置と人数を確認。


 地形を把握しながら、逃げられないよう最も効果的に無力化する作戦を考える。


 まず制圧すべきは、北側と南側にある二つの通用口と三つの緊急脱出路。

 そこさえ抑えてしまえば、あとはどうにでもなる。


 問題は、通用口には有事の時に備え複数の用心棒が常に待機していること。


 特に南側の通用口にいるのは、素人の僕でも一目で凄腕とわかるプロフェッショナルたちだった。


 奴隷売買の利益は、それだけお金をかけて警戒態勢を整えられるほど大きなものだということだろう。


 許せねえな!

 僕の知らないところで悪いことしてお金儲けしてたなんて!


 こっちはずっと貧しい生活してきたというのに!

 ちくしょう、悪い金持ち許すまじ!


 完全なる私怨による高いモチベーションで、僕は制圧作戦を開始した。


「――状況開始」


 指示を伝えると同時に地面を蹴る。


 物陰から飛びだしてきた僕に、一番近くにいた用心棒は反応することさえできなかった。


 魔術光学迷彩と強化スーツによる人間離れした身体能力。

 一息で間合いを詰め、首筋に手刀を叩き込んで意識を刈り取る。

 失神して崩れ落ちた男に構うこと無く、次の一人へ。


「な、なんだ!?」

「何かいる! 何かいるぞ!」


 まだ用心棒たちは僕の動きに対応できていない。

 すかさず間合いを詰める。

 二人目、三人目、と反撃する態勢を整える前に意識を刈り取って無力化する。


「落ち着け! 何だろうが殺しちまえば同じことだ!」


 しかし、そこはさすが凄腕。

 残っていた四人は魔術小銃を取り出し、突然現れた化け物に対して反撃しようとする。

 だけど、迎撃態勢を整えたところで僕にとっては同じ事だった。



時を加速させる魔術(クロック・アクセル)



 二倍速。

 彼らの反撃は僕には遅すぎる。


 スローモーションのように見える攻撃を苦もなくかわす。

 踏み込んだその一歩に、彼らの身体はまったく追いつけない。


 目にも止まらぬ速さで背後に回り込む。

 何が起きたのかさえ彼らにはわからなかっただろう。


 次の瞬間には、四人の用心棒は失神し、力無く倒れ込んでいた。


「さすがです、000(ゼロ)様」

「褒める必要は無い。君たちでもできたことだ」


 突然の事態に、呆然とする奴隷商たち。

 威嚇のために魔術光学迷彩を解除すると、ひどく怯えた様子で腰を抜かした。


「黒の機関だ! 黒の機関が現れた!」

「逃げろ! 北の出口だ! 敵う相手じゃねえ! 早く逃げないと全員やられちまう!」


 おお、知っている様子。

 順調に知名度も上がっているらしい。


「ダメだ! 北の出口も緊急脱出路も制圧されている!」

「嘘だろ、どうしてあの偽装が――」


 残念。悪いけど君たちはここで終わりなんだな。

 今までしてきた悪いことを、しっかり刑務所で償うように。


 こうして、リヴァーランの地下奴隷闇市場はそのすべての関係者が刑務所の前に簀巻きにされ並べられる形で終わりの日を迎えたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 腐男子より [気になる点] 腐ってる趣味を見せないでよー [一言] なんでドストライクなんだよー
[一言] いつも楽しく拝見させていただいております!シスコンもやし好きはただのシスコンじゃなかった!w (失礼いたしましたー!!((((;゜Д゜)))))))
[一言] いやこれパクリか?指摘されてる作品全部見たことあるけど全然違うと思うんだけど…… コードギアスとか影の実力者と被ってるのなんて秘密結社作ってるかどうかだし秘密結社とか反抗組織作ってる作品なん…
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