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時使い魔術師の転生無双 ~魔術学院の劣等生、実は最強の時間系魔術師でした~  作者: 葉月秋水
第二章 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト)
50/129

50 準決勝翌日


 準決勝の後の学校は、とんでもない盛り上がりだった。

 グランヴァリア王立、七年ぶりの決勝進出は、それだけ大きな出来事だったらしい。


 よく知らないOBに声をかけられて、「今年の君たちはやると思ってたよ」とか、「俺は信じてたから」とか言われたけど、ほんとにそうならチームがどん底だったときに言って欲しかったと思う。


 もしそうだったら、フィオナ先輩もあそこまで追い詰められずに済んでいただろうに。


 もっとも、みんな勝ち馬に乗りたがるものだから、ダメなときに応援してくれる人なんてほんの一握りなんだけどさ。


 とはいえ、褒めてもらえるのは素直にうれしい。

 折角なので思い切りちやほやされておくことにした。


「頼むぜスーパーエース!」

「ありがとうございます。えへへ」


 ジュース七本も奢ってもらったし。

 持って帰ってエリスに飲ませなきゃ。


「期待してるから。決勝も頼むぞ」

「はい、がんばります!」


 いっぱい褒められて頬を緩めつつ、OBらしき人と別れた僕の耳に届いたのは意外な人の声だった。


「あら、一年生策士さん。人気者ね。楽しそうで何よりだわ」


 メリア・エヴァンゲリスタ。

 準決勝の相手、聖アイレスの大将として僕らを苦しめた相手。

 少し後ろでレリアさんが、所在なさそうにぺこりと頭を下げる。


「どうしてお二人がここに?」

「言ったでしょ? またお話ししに行くから、そのときはお相手してねって」

「いや、でも昨日の今日というのはさすがに」

「思い立ったら即行動、が私の信条だから」


 メリアさんはすまし顔で言ってから、紙とペンを取り出して言う。


「じゃあ、早速この紙にサインしてもらえる? 大丈夫。全然変な話じゃないから」

「何の紙なんですか?」

「転校手続きの書類」

「お断りします」

「むー」


 頬を膨らませるメリアさんに、


「姉様、さすがに無茶を言いすぎです」


 レリアさんが困った顔で言った。


「もっと言ってください、レリアさん」

「すみません、姉様も悪い人ではないんですけど……」


 同じ顔なのに、なぜか幸薄そうな感じがするレリアさんだった。

 いっぱい振り回されて苦労してるんだろうなぁ。


「まあ、本当は別件のついでに会いに来ただけなんだけどね」

「別件?」

「フィオナさんに病院を紹介したの。連れて行ってあげようと思って」

「ありがとうございます」


 他校の選手なのに、そこまでしてくれるなんて。

 先輩のことは僕も心配だったので、素直に感謝しか無い。


「いいのよ。フィオナさんのことは、私も好きだから」


 世代別代表でチームメイトのメリアさんは、フィオナ先輩ともそれなりに親しい仲なのだろう。

 穏やかに微笑んでから続ける。


「それと、もう一つ。貴方にも用事があってね」

「僕に?」

「ええ。これを渡したかったの」


 渡されたのは三冊のノートだった。

 使い古されたノートには、『邪知暴虐のフォイエルバッハを絶対潰す本』と書かれている。


「これは?」

「私が、強すぎてムカつくフォイエルバッハを倒すために作った対策ノート」

「タイトルに作者の思いが出まくってますね」

「貴方も映像を見ればわかると思うわ。ほんとありえないから。私の方が絶対良い戦略と戦術で優位を作ってるのに、それでも個人技でひっくり返されるの。もう思いだしただけで怒りが……」

「すみません、姉様は熱心なフォイエルバッハアンチでして……」


 申し訳なさそうに頭を下げるレリアさん。


「あんなチームの関係者はみんな前世のカルマが祟ってるのよ! 信じられない! 特に、主将のオーウェン・キングズベリー! あいつは、一年の時から本当にいつも私の戦術を……!!」

「そんなにすごいんですか? メリアさんの戦術を一人で突破するなんて信じられないですけど」

「すごいわよ。認めたくないけど本当にすごい。フォイエルバッハでも一つ次元が違う化物。私たちの世代の絶対的王者。それが『フォイエルバッハの皇帝』、オーウェン・キングズベリー」


 メリアさんは心底嫌そうな顔で言う。


「間違いなく今年の大会、最強の選手よ」

「最強……」


 劣等生で、底辺を這いずっていた僕には関係ない。

 そう思って見ないようにしていた存在が気がつくと目の前にいた。


 全国ナンバーワンの選手。

 簡単に勝てる相手では無いだろうけど、でも僕にも戦う理由がある。


 エリスの目を一日でも早く治すために。

 寄り道なんてしてるわけにはいかないから。


「良い目ね。やっぱり面白いわ、貴方」


 メリアさんは目を細めてから言う。


「そのノートには、私がこの三年間考え続けたフォイエルバッハ対策のすべてが書いてある。それを読めば何も無いよりずっと精度の高い作戦が立てられるはずよ。つまり、『聖アイレスの策士』と一年生策士さんの共同戦線ってわけね」

「ありがとうございます。すごく助かります」

「いいの。私は、フォイエルバッハが負けるところを見たいだけだから。それに、貴方ならもしかしたら、って少し期待してるの。入学以来一度も撃破されたことが無い『フォイエルバッハの皇帝』を倒すことができるんじゃないかって」


 メリアさんは、にっこり笑って言った。


「良い試合が見られるのを楽しみにしてるわ」






 ◇◇◇◇◇◇◇


 side:診療後、フィオナ・リート


「ありがとう。おかげでお医者さんに診てもらうことができた」


 エヴァンゲリスタ姉妹に付き添われて行った病院での診療後、フィオナは言った。


「いいの。私は選手としても、人間としても貴方のことが好きだから」


 メリアは微笑んで言う。


「それで、診断結果は?」

「骨には異常はないって。本来は絶対安静だけど、試合までの三日しっかり休めばある程度動くことはできるだろうって」

「その場合のリスクは?」

「……もし、もう一度膝に大きなダメージを負えば、二度とプレーすることができなくなるかもしれないって」

「でしょうね。深刻だと思ったからこそ、フィオナさんも病院に行かなかったんだろうし」


 知っていた、という風に息を吐くメリア。


「止めても無駄なんでしょう?」

「そうだね。ずっとこの日のためにやって来たから。わたしは出るよ」


 たしかな決意を込めて言ったフィオナは、それからふっと表情を緩める。


「決勝進出決まってからお父さんも大喜びでさ。仕事休んで駆けつけてくれるって。わたしも、今まで育ててくれた恩返ししないと」

「娘が無理して、選手生命が終わる姿は、お父さんが一番見たくないものだと思うけど」

「それは……」

「一つだけ言わせて。今の貴方は、周りが見えてなさすぎる。たしかに、貴方の人生だから決めるのは貴方よ。でも、周囲にいる貴方のことを大切に思ってる人。その人たちを悲しませることになるかもしれないの、貴方の決断は」


 フィオナは驚いた顔をしてから、顔を俯けた。


「……その通りだね」

「別に責めてるわけじゃ無いわ。誰が反対しても、誰を裏切ることになったとしても、叶えたい願いなんでしょう。だったら、全力でつかみにいけば良い。ただ、最後のところでちゃんと自分を守ることも忘れないで欲しい。私が言いたいのはそれだけ」


 それから、紅茶を飲みながらそっぽを向いて言った。


「私は、貴方のことが気に入ってるんだから。代表合宿で会えなくなるのは寂しいわ」


 すねたみたいなその言い方が可笑しくて、思わずフィオナは口元を抑える。


「それが本音?」

「違うわよ! まあ、そういう部分も無きにしも無いわけでは無いというか」

「姉様は、フィオナさんをとても心配していますよ。今日のこの診察も、予約がいっぱいで無理って言われたところを一時間交渉して、休憩時間に診てもらってて」

「ちょっと! 言わないで、レリア!」


 慌てるメリアと、零れそうになる紅茶のカップ。

 そっくりな姉妹のもみ合いがおかしくて、フィオナは笑った。






「決勝、どうなると思う?」


 帰り際、フィオナはメリアに言った。


「厳しい戦いになるでしょうね」

「実は迷ってるんだ。みんなに、フォイエルバッハの映像を見せるかどうか」

「たしかに、難しいわね。下手に見せると、試合前に心が折れてしまう子も出かねない」

「そう。そうなんだ」


 うなずくフィオナ。

 それが、フィオナが危惧していることだった。

 戦う前に気持ちで負けてしまうのは絶対に避けたい。

 だとすれば、見せずに戦った方がいいのではないか。


「まあ、私もう一年生策士さんに敵戦力書いたノート渡したけどね」

「え」

「大丈夫。あの子は、そんなに柔じゃないから。それに、貴方のチームの子たちは、苦境に慣れっこでしょ。ずっともっとつらい状況で戦ってきたんだから」

「……信じてみても、いいのかな」

「良いんじゃないかしら。特に、あの一年生二人は面白いと思うわよ」

「二人?」

「そう、二人」


 自信ありげにうなずいて、メリアは言った。






 ◇◇◇◇◇◇◇


「アーヴィスくん、ちょっと」


 練習後、帰ろうとした僕をリナリーさんが呼び止めた。


「ん? どうかした?」


 その隣では、イヴさんが僕を見上げている。

 この二人が一緒って珍しいような、と思っているとイヴさんが言った。


「協力してほしい」

「協力?」


 首をかしげる僕に、リナリーさんは言った。


「特訓しようと思うの。決勝で、聖アイレス戦みたいな思いはしたくないから」



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