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時使い魔術師の転生無双 ~魔術学院の劣等生、実は最強の時間系魔術師でした~  作者: 葉月秋水
第二章 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト)
39/129

39 密かに進行する事態 2


「進捗はどうだ、006(シックス)」


 旧校舎の空き教室で、黒いマントに仮面を被ったドランは言った。


「すべて順調です、001(ファースト)。地下秘密基地は内装以外の工程がすべて終了。来週には、拠点を移すことが可能かと思います。手配していた武器と装備は既に搬入済み。戦闘用スーツは、ストロベリーフィールズ魔術研究所にも協力してもらって試作品に比べて170パーセント性能が向上したものになる見込みです」

「対悪魔用新型兵器はどうだ?」

「最終段階です。こちらも当初想定していたものに比べてはるかに高性能なものになるとの報告を受けています」

「当然よ。私様が協力してるんだもの」


 部屋に入ってきたのはウィルベルだった。

 ロールした髪を自慢げに揺らして言う。


「お父様とおじいさまもすごく乗り気になってくれてるから。私様が002(セカンド)に選ばれたって言ったら、二人ともすごくうらやましそうな顔をするのよ。秘密結社ごっこなんてずるい。俺もやりたいって」

「ほう。002(セカンド)の父上と祖父君は、こういう嗜好にも理解があるのだな」

「二人とも、永遠の十四歳って言ってるからね。お母様とお祖母様はよくあきれてるけど」

「とても魅力的な御仁のようだ。よければ、黒の機関に外部特別顧問として加わってもらいたいがどうだろう」

「ほんと!? ありがとう! 二人ともすっごく喜ぶと思うわ! 帰ったらすぐ伝えるわね!」


 こうして、ストロベリーフィールズ財閥の社長と会長が黒の機関の外部特別顧問になった。

 もちろん世界は知らない。


「チャンスがあると判断すれば、躊躇なく勧誘して仲間に加えるとは。さすが001(ファースト)」

「褒めるな。運が良いだけだ」

「良い仕事をして、そのお姿もいつも以上に輝いて見えます。特に前頭部の辺りが」

「やめろ。前頭部はやめろ」

「失礼しました」


 006(シックス)は頭を下げる。


「それで、活動の方はどうだ」


 ドランが言う。


「魔術光学迷彩の試験運用も兼ねて、試作スーツを着た007(セブン)と020(トゥエンティ)、031(サーティワン)にアーヴィス氏、いや000(ゼロ)様の護衛をお願いしたはずだが」

「魔術光学迷彩は問題なく機能しました。おそらく、誰に悟られることもなかったと思われます。ただ一度、ラル×アヴィでの限界化をなんとか堪えた031(サーティワン)が、続くレオ×アヴィに耐えきれず声を出してしまったことはありましたが」

「馬鹿者……!! 事前に薄い本を読んで心を落ち着けておけとあれほど……!!」

「しかし、007(セブン)が制止してくれました。彼女は夢女子です。腐の誘惑には抵抗がある」

「さすが007(セブン)だ。我がクラスで唯一『腐の道』を選ばなかった孤高の魂」

「テストの裏にまで夢小説書いてますからね。教師に読まれることを恐れない。そう簡単にできることではありません」


 うなずきあう二人。


「腐の道? 夢女子?」


 ウィルベルは首をかしげる。


「002(セカンド)は知らなくて良い」

「ええ。そのままの貴方でいてください」


 慌てて言う二人に、


「わ、わかったわ。よくわからないけど」


 ウィルベルは言った。


「それでは、計画を次の段階へ進めよう」

「はい、001(ファースト)」

「ええ、いきましょう」






 ◇◇◇◇◇◇◇


 side:零細出版社、社長ブルーノ・タウンゼント


「終わった……か」


 ブルーノは小さな事務所の中で肩を落とした。


 資料と本で埋め尽くされた事務所はブルーノの秘密基地だった。

 ここで、どんな権力にも屈しない真のジャーナリズムを全うする会社を作る。

 そんな夢は今、儚く潰えようとしている。


「ちくしょう……なんで、なんでだよ……」


 机の上の不渡り手形を前にブルーノは顔を覆う。

 銀行に通告された支払期限は今日まで。

 今日中に支払えなければ二度目の不渡りとなり、銀行取引停止処分。

 事実上の倒産になる。


 貧しい家に育ったブルーノは権力が大嫌いだった。

 どうして金持ちは悪さしても許され、貧しい人々は悪いことをしていないのに苦しい生活を余儀なくされるのか。


 少しでも、社会を良い方向に変えていきたい。

 富裕層も貧しい人々も関係なく、悪いことが適切に罰せられる社会になるように。

 彼らの牛耳る既得権益と多額の財が、少しでも下層の人々に届くように。


 しかし、特待生として大学を卒業し、大手新聞社に就職したブルーノを待っていたのは、腐敗に満ちた社会の現実だった。


 権力を監視しなければならないはずの新聞社は、権力者たちに牛耳られていた。

 伝えなければならないはずの真実は、簡単に握り潰されていく。


(間違っている……こんなの絶対、間違っている……!!)


 ブルーノの胸を焼いたのは怒りだった。

 絶対にこんな世界、変えてやる。


 だからブルーノは五年経験を積んでから、新聞社を辞め、自分の会社を立ち上げた。


 あらゆる権力を監視し、悪が悪として裁かれるよう真実を白日の下にさらす。


 どこにも忖度しない、刺激的で攻めた記事が並ぶブルーノの作った雑誌は、読者たちに好意的に受け止められた。

 権力にはそっぽを向かれたが、それでも資金繰りは順調だった。

 小さなところから、しかし着実に世界を変えていけるはずだと信じていた。


 あの日、政界を牛耳る大物貴族と大手建設会社の収賄事件を記事に載せるまでは。


 おそらく、それは絶対に触れてはならない龍の鱗だったのだろう。

 大手新聞社と出版社は一斉にブルーノの記事が間違ったものであると報道した。


『零細出版社の正義を勘違いした暴走と捏造』


 握っていた証拠も、彼らが作り出した風評を覆すには至らなかった。

 ブルーノの雑誌は、権力とみればなんでも噛みつく三流記者の妄想の産物と見なされるようになり、売れ行きはあっという間に悪くなった。


 融資してくれるはずだった銀行は、途端にそっぽを向いた。

 それもおそらく、権力者による圧力なのだろう。


「やっぱり俺なんかが戦って良い相手じゃ無かったってことか……」


 悔しさは涙となって頬を流れた。


「違うな。間違っているぞ、ブルーノ・タウンゼント」


 ブルーノは驚く。

 そこには誰もいなかったはずだからだ。

 しかし、顔を上げたとき、そこには見知らぬ者の姿があった。


 闇に溶ける全身黒尽くめの姿。素顔を覆う仮面。


「何者だ……?」

「世界の闇に敵対する者、と言っておこう」


 仮面の男は、机の上にアタッシュケースを置く。


「中を見ろ」


 言われるがまま、アタッシュケースを開けるブルーノ。


「な、なんでこんな……」


 アイオライト紙幣の束が、隙間なくぎっしりと詰められていた。


「それだけあれば当面経営を続けることもできるだろう」

「いや、だが、受け取れない。賄賂を受け取れば、あいつらと同じ事をしていることに」

「賄賂では無いさ。我々は、例の収賄事件の関係者と何の利害関係も無い。ただ、同じ世界の闇に敵対する者として、君の活動を支援したい。それだけなのでね」

「俺は、こんなものをもらっても、君たちが悪を成していると知れば、真実を記事にするぞ」

「構わない。それでいい」


 仮面の男はうなずいて、魔術式ICレコーダーを机に置く。


「それから、もう一つ。君にプレゼントだ」

「プレゼント……?」


 怪訝な顔をしつつ、イヤホンを耳に入れるブルーノ。

 聞こえてきたのは、収賄事件が真実であることを示す決定的な証拠だった。


「こ、これを一体どこで……!?」

「我々は、世界を隅々まで見通せる優れた目を持っているのでね」

「ありがとう! これがあれば、勝てる! 絶望的な状況をひっくり返せる!」

「感謝する必要は無い。我々は、我々の正義のために行動しているだけだ」


 仮面の男はマントを翻して、背を向ける。


「ま、待ってくれ! 君たちは! 君たちは一体何者なんだ!」


 仮面の男は足を止めた。

 横顔を向けて言った。


「――黒の機関」


 次の瞬間、男の姿は消えている。

 まるで最初から誰もいなかったみたいに。


「き、消えた……?」


 白昼夢でも見ていたのだろうか、とブルーノは思う。

 しかし、残されたアタッシュケースとICレコーダーが、その出来事がたしかに現実であることを示していた。


「黒の機関……一体、何者なんだ……」


 ブルーノはふるえる声で言った。


 とんでもない何かが世界の裏側で動き始めている。

 正義か悪かはわからない。

 しかし、間違いなく世界を大きく作りかえてしまいかねないほど強大な力を持った何かが。


「だが、助けられたのは事実だ。感謝しないといけない。これで……これでやつらの悪事を世間に証明できる……!!」


 ブルーノの瞳には、数分前のそれとはまったく違う強い光が戻っていた。


 事態は、密かに進行している。



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― 新着の感想 ―
[一言] こーゆーのが後々(敵に)効いてくる展開、好き。
[良い点] 厨二感満載の黒の機関、ここまでくると好きになるしかない
[一言] こいつらすげぇ。 それしかいえねぇ。 とにかくすんげぇ。 もうもはや怖。
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