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時使い魔術師の転生無双 ~魔術学院の劣等生、実は最強の時間系魔術師でした~  作者: 葉月秋水
第二章 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト)
37/129

37 一回戦 2


 side:ローザンヌ大付属主将、ルクレール・ド・ソシュール


(なぜだ……なぜこんなことになっている……!!)


 ルクレールは、本隊の一番奥で頭をかきむしっていた。


 違う。

 何もかもが想定と違う。

 違いすぎる。


 グランヴァリア王立はフィオナ・リートのワンマンチームだったはずだ。

 フィオナは強いが、それさえ潰せばあとはどうにでもなる。

 そのはずだった。


(おかしい。ありえない。あるわけない。こんな異常事態、過去のデータには一度も――)


「隊長! こちらチームベータ! 一年に化物がいます! 劣勢です! 指示を! 指示をください!」

「隊長! チームアルファ! こちらの一年も怪物です! もう持ちません! 一時撤退の許可を!」


 しかし、勝負の流れは混乱するルクレールを待ってはくれない。


 早く決断しなければ。

 戦場において、判断の遅れは致命的な結果に繋がる。それはデータにもはっきりと表れている。


(こうなったら、仕方ない。一度本陣まで全軍を撤退させ、戦況を立て直す)


「全チーム本陣まで一時退避! 陣地を再構築し、攻撃を受け止め長期戦に持ち込む!」


 ルクレールの判断は、決して間違ったものではない。

 敵の戦力がわからない以上、効果的な手を打つのは困難を極める。

 データを使わない戦いをした経験が乏しい、ローザンヌ大付属の選手なら尚更だ。


 だったら、戦力を集中して長期戦に持ち込み、データを集積して対処の仕方を考える。


 しかし、耳に届いたのはまったく想定していない報告だった。


「チームベータダメです! 退避できません! 壊滅します!」

「チームアルファ! 追いつかれます! しまっ――」


 通信が途切れる。


(何が……何が起きているんだ……)


 正しかったはずのデータを手に、ルクレールは呆然と立ち尽くした。






 ◇◇◇◇◇◇◇


 side:試合会場、観客席


 会場の空気が変わったのは、ローザンヌ大付属の攻撃部隊とグランヴァリア王立の小隊が衝突した直後のことだった。


 前評判は圧倒的にローザンヌ有利。

 グランヴァリアは、戦力が無い中で少しでも勝率を上げるべく自陣近くに布陣し、ローザンヌは獲物を着実に押しつぶそうと包囲する。


 春の大会のリプレイを見ているような試合展開。

 個の力で劣るグランヴァリアは、じわりじわりと押しつぶされて良いところなく敗北するだろう。


 しかし、そんな誰もが思っていた予想は裏切られることになる。


「え――?」


 最初に響いたのはあっけにとられた声。

 皆、目の前の事態が飲み込めない。

 理解できない。


 どうして、グランヴァリアがローザンヌの攻撃部隊をあんなに簡単に押し返せるんだ……?


 目を見張る観客たち。

 最初に気づいたのは、一人の男だった。


「一年だ! グランヴァリアの一年に一人化物がいる!」


 視界を焼く閃光に遅れて会場が振動する。

 その雷は、フィールドの木々を粉々にし、ローザンヌの前線に穴を開けていた。


「なんて威力だ……第五位階級でもあそこまでは」

「下手したら第六位階級まであるぞ……!!」


 しかし、衝撃はそれだけに留まらなかった。


「違う! 一人じゃ無い! もう一人化物がいる!」


 そこに広がっていたのはすべてが凍りついた銀の世界。

 森林フィールドの一部が、極北のように銀色に変わっている。


「す、すげえ……」

「ほんとに一年なのか……?」


 だが、そんな驚きもまだ序章に過ぎなかった。


 彼らをさらに驚かせたのは、一人の少年の魔術。


「おい、あいつ一人だけおかしな速さで動いてないか……?」

「何なんだあれ、あんな動き見たことねえ……」

「補助魔術じゃあそこまでの速さはあり得ないはず……」


 そして膨らんだ驚きの感情が、期待に変わるのに時間はかからなかった。


「おい、ローザンヌが! あのローザンヌが押されているぞ!」

「あの三人だ! あいつら、たった三人でローザンヌの攻撃部隊を圧倒してる!」


 しかし、ローザンヌ大付属の対応も的確だった。


 小隊長と隊員の練度が高いのだろう。

 データに無い強敵の存在に素早く反応し、人数をかけ数的有利を作って対処しようとする。


 そして、強力な個への対策を彼らは事前に用意していた。


「ダブルチーム……!!」

「さすが、ローザンヌ。一年相手でも容赦が無い」


 魔術戦において、人数をかければかけるほど局地的な優位は作りやすくなる。

 中でも、ダブルチームは力が図抜けたエースを止めるために使われる戦術。

 春の大会で、フィオナ・リートを完璧に押さえ込んだのもこの戦術だった。


 フィオナ対策に準備してきた戦術だ。

 さすがにこれではあの一年たちも止まってしまう。


 しかし、そんな予測はまたしても裏切られることになる。


「おい、……あれ押してねえか」

「押さえ込めてないぞ! 完璧なはずのローザンヌの包囲戦術に穴がある!」

「そうか! フィオナ・リートと違ってあの一年のデータは無いから――」


 春の大会。

 エース、フィオナをダブルチームで完璧に押さえ込んで完勝したローザンヌだが、その結果に大きく貢献したのが得意とするデータ戦術だった。


 対外試合の映像を何度も確認し、最善の作戦を立てる。

 敵の些細なくせを見抜き、行動パターンまで高い精度で予測して未来を見ているかのごとく押さえ込むのがローザンヌのデータ戦術。


 しかし、それは同時に初見の相手には通用しない作戦でもある。


「隊列が崩れ始めたぞ! おい、まさか……」

「あいつら、あの包囲を突破するんじゃ……!!」


 懸命に押さえ込もうとするローザンヌ大付属の選手たち。

 しかし、この日勝利の女神が微笑んだのはグランヴァリア王立だった。


 包囲に穴が開く。

 隊列が崩れる。


 連携が取れなくなったローザンヌに、圧倒的な個を止める術はなかった。


「突破した! 突破しちまった!」

「止まらねえ! あいつら止まらねえっ!」


 歓声が爆発する。


「行けっ! そのまま行っちまえ!」


 それは狂乱のような熱狂だった。

 皆、本能のままに拳を上げ、喉が枯れんばかりに叫んでいる。


 逃げ惑うローザンヌの生徒たち。

 しかし、逃げ切れない。

 次々と撃破され脱落していく。


 そのたびに、観客たちのボルテージはさらに上がる。


 一気に敵陣になだれ込む、グランヴァリア王立の選手たち。

 会場と流れを完全に味方にした彼らを止める力は、もうローザンヌには無かった。


『決まりました! グランヴァリア王立の勝利です!』


 すべてをかき消すような熱狂の中、試合は決着した。



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