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30 代表選手


 そんな感じで、リナリーさん誘拐事件は決着した。


 僕らはまず集団で学校を抜け出し授業をサボったことを、学年主任にネチネチと叱られることになった。

 学年主任は僕らが、王女を救出していたことを知らなかったのだ。


 その一報が、学院に入るや否や、学年主任の態度は一変した。


「いやいや、君たちはこういう大きな事ができる生徒たちだと、私は最初からわかっていました」


 何でも、王女を無事救出したことで、王家からの寄付金が増額されることに決まったらしい。

 国の歴史上最高額の身代金誘拐事件を、大きな騒ぎにすることなく解決できて、王家はとても喜んでいるとか。


 評価も高くなって、今年度はこの国最高の魔術学校、フォイエルバッハ魔術学園にも匹敵する額がもらえることが決まったと言う。


 あっという間に手のひらを返した学年主任に、大人って汚いと思いつつも、日常に戻った僕ら。


 危険な目に遭ったことでリナリーさんはまた親もとい王家と揉めたみたいだけど、絶対に揺るがない鋼の意志で、数日後には学校に復帰していたし。


 全部これで一件落着、と思っていた僕に声をかけたのはエメリ先生だった。


「よくやってくれた。おかげで禁忌書庫の魔導書を守ることができたよ。アイオライト王家もすごく喜んでいた」

「ギリギリでしたけどね。二度とこういうことがないよう、警備を強化するよう言っといてください」

「やさしいね、君は」

「普通です。先生にとっては魔導書の方が大事なのかも知れませんけど」

「うん、君は私のことをよくわかっている」


 先生は満足げに微笑んでから、続ける。


「敵は、人魔大戦で生き残っていた悪魔か」

「取り調べはどうなりました?」

「残念ながら、牢獄の中で全員死んでいたよ」

「え……」


 僕は言葉を失う。


「死んでいたんですか」

「うん」

「どうして」

「おそらく、口封じのためだろうね。彼らは全員コップ一杯の水で溺死させられていた。見張りの看守も、百人以上いた守衛たちも誰一人として犯行には気づけなかった」

「なんですか、その全力で関わりたくない化物」

「あのお方――彼らがそう呼んでいた存在だろう。おそらく、大魔術師、クラウゼヴィッツが倒した魔王に類する存在だね」


 エメリさんは口元に手をやって言う。


「彼らは人に化けることができる。おそらく、世界の中枢を影から掌握し、魔術を良くない方向に導こうとしているんだろう」

「既にそういう深い領域まで掌握されている可能性が高い、と」

「そして、大精霊の言葉を信じるなら、その目的は魔術師を根絶やしにすることだろう。なるべく早い内に取り除く必要がある。手遅れになる前に」


 あのお方と呼ばれる悪魔の王。


 世界の中枢を影から掌握し、魔術師を根絶やしにし、人類を支配しようと目論む怪物。


 それが、僕らが倒さなければならない相手らしい。


「そのためには、我々もより中枢に近づく必要があるね」

「僕としては危ない橋はできる限り避けて生きていきたいんですけど」

「報酬は弾むよ」

「任せてください。最強無敵天才優等生の僕が、先生の期待に完璧に応えて見せましょう」

「うん、よろしく」


 よし、これでまたエリスの目を治すのに一歩近づいたぞ!

 拳を握った僕は、ふと疑問に思って先生に言う。


「でも、中枢に近づくってどうするつもりですか」

全国魔術大会ヴァルプルギスナハトって知ってる?」

「国中の魔術学院が出場する魔術戦の大会ですよね。選りすぐりの優秀な代表選手同士が、学校の威信を賭けて戦うっていう」

「アーヴィスくんをその学院代表選手に推薦しておいたから。あれは魔術協会が運営している大会だからね。決勝は、協会のトップである六賢人も観覧する」

「なるほど、勝ち進めば関係者として自然に懐に潜り込むことができると」

「その通り」


 エメリ先生はうなずく。


「君ならうちの学院を優勝させられるよね?」

「待ってください。それは結構無茶ぶりのような」


 たしか、全国魔術大会ヴァルプルギスナハトって唯一のSランク校であるフォイエルバッハ魔術学園が九連覇中だったはず。


 Aランク校の中でも、今年のグランヴァリア王立はちょっと苦戦してるみたいな噂も聞くし、優勝なんて現実的に不可能――


「一勝ごとに十万アイオライト。ベスト8以降は二十万アイオライト」

「任せてください。僕がこの学院を優勝させてみせましょう」


 こうして、代表選手に選ばれた僕。

 驚くべきことに、選ばれた二十人の代表選手は、その半分近くが一年生だった。


「友達が一緒でうれしい」


 イヴさんが入ってるのは半ば当然のことではあるけれど、


「良かった、アーヴィスも選ばれたんだ。楽しみだよ、一緒に戦えるの」


 レオンが入ってるのはうれしかった。

 Aクラスの級長を務める彼は、それだけ教師たちから高く評価されているということだろう。


 人見知りなところがちょっとある僕としては、気軽に話せる男がいるというのはマジで安心感すごいからな。


「私様も来てあげたわよ! 当然よね! だって私様だもの!」

「ウィルベルさんも選ばれたんだ」

「ううん、選ばれてはないけど」

「え?」

「でも、学院の代表選手に私様が選ばれないわけないでしょ? 多分手違いがあったんだなって。仕方ないから来てあげたの。私様、そういう気遣いはできる方だから」

「…………」


 数分後、ウィルベルさんは教師に見つかって、つまみ出されていた。

 すごい人だ。


 他に一年からメンバー入りしたのはSクラスの優秀な生徒が六人。

 その中にはもちろん、彼女も含まれている。


全国魔術大会ヴァルプルギスナハト……ここで結果を出せば、一気に全国区。誰もが知るような将来が期待される魔術学院生になれる。何にも縛られない特別な魔術師への道も見えてくる……!!」


 リナリーさんは瞳を輝かせて言う。


「勝つわよ、アーヴィスくん」






 ◇◇◇◇◇◇◇


 side:Fクラス級長、ドラン・クメール


 旧校舎三階にある秘密基地に、ドランたちFクラス生は集まっていた。

 皆、顔がわからないよう黒のローブに身を包んでいる。傍から見れば邪教の集会にしか見えないのだが、いつも通り彼らは本気だった。


「今回集まってもらったのは他でもない。我々が今後何を目指し、どのように行動するのか決断するためだが、まずは良いニュースを皆に伝えたい。アーヴィス氏が代表選手に選ばれた」

「アーヴィス氏がか!」

「まさかFクラスから代表選手が出るとは!」

「さすが我らがアーヴィス氏! これはクラス皆で総力を挙げて応援せねば!」


 歓声が部屋を包む。


「その通りだ。総力を挙げて応援する必要がある。アーヴィス氏は我々の恩人だからな」


 ドランは厳かに言う。


「しかし、ただ応援するだけで本当に良いのだろうか」

「どういうことだ、議長」

「もっとできることがあるのではないか。そう私は思うのだ」


 ドランは黒ローブのクラスメイトを見回す。


「ただ励ます。そんなことは誰でもできる。しかし、氏に多大なる恩がある我々がそれでいいだろうか」

「ふむ」

「一理あるな」

「もっと力になりたいところではある」


 うなずく黒ローブたち。


「そこで、私は考えた。どうすれば、アーヴィス氏の力になれるだろう。役に立てるだろう、と。そして先の王女誘拐事件に思い当たったわけだ」

「誘拐事件? あの事件に何の関係があるのだ?」

「あの事件で我々は人ならざる化物と戦うことになった。覚えているか?」

「そうだったな……」


 戦場にいた議員たちがうなずく。

 王女が囚われた廃工場地帯で、彼らが目撃したのは人ではない化物の姿だった。

 集まった生徒で取り囲んで倒すことはできたが、その姿は彼らの脳裏に焼き付いている。


「おそらく、アーヴィス氏は影であの化物たちと戦って世界の平和を守っているのだろう」

「なんだと!?」

「アーヴィス氏があの化物と戦っている!?」


 驚愕するFクラス生たち。

 ドランは続ける。


「事件が終わった後、王立警備隊は化物については誰にも言わないよう我々に言った。おそらく、我々が知らないこの国の裏側で化物たちとの戦いが行われているのだろう」

「秘密裏に行われている化物たちとの戦い……」

「なんだそのかっこいい戦いは」

「決めた。俺、そいつら探して倒してくる」


 興奮するFクラス生たちを、


「落ち着け」


 ドランが諫める。


「敵は強大だ。我々のような名門校の劣等生なんて中途半端な立ち位置の存在が少数で立ち向かえる相手ではない」

「たしかに……」

「あれだけの人数で押してなんとか勝てた相手だからな……」

「ぐ……俺は主人公になれないのか……」


 肩を落とす黒ローブたち。


「しかし、皆で力を合わせれば話は別だ」


 ドランは、はっきりとした口調でそう言った。


「クラス対抗戦。我々は力を合わせ、格上の強敵たちを打ち破った。皆で力を合わせれば、想像もできないようなことだってできる。我々はそう知っている」

「できるのか、俺たちに……」

「できる。我々ならできる」


 ドランは教壇を叩いて言った。


「皆で、アーヴィス氏と共に世界を守ろう」


 歓声が爆発した。


「我々が世界を影から守る……」

「なんてかっこいいんだ、我々……」

「やろう! こんな面白そうなことやるしかない!」


 議会は熱狂する。精神年齢が低く欲望に忠実なFクラス生を止められる者は、既にどこにもいなかった。


 もっとも、これがただの学生たちなら小学生のごっこ遊びのように何もできずに終わることだろう。


 しかし、彼らは名門魔術学院の生徒であり、貴族の御曹司たちだった。


「では、実家の武器工場から最新の武器を調達してこよう」

「うちは魔術繊維の研究をしてる。戦闘用スーツ作りなら任せてくれ」

「建設部に言えば、地下秘密基地も作ってもらえるかも」


 ああしよう、こうしようと議論は白熱する。


 世界も、そしてアーヴィスも知らないところで、何かが動き始めようとしていた。



というわけで第一章完結です!

好きなものを全力で詰め込んで、作者的には大好きな一章なのですが、いかがでしたでしょうか。

楽しんでいただけてたらすごくうれしいです。


明日からは二章を投稿していきます!


二章では、高校野球の甲子園的な全国魔術大会に、アーヴィスたちが出ます。

その昔、パワプロが好きすぎて野球部に入った作者は、毎晩枕元でスーパー一年生として甲子園で大活躍する妄想をしていました(もちろん叶いませんでした)。


毎晩積み重ね続けた妄想力をフルに使ってがんばりたいと思います。


あと、バカが集まってバカなこと始めた結果、なぜか世界の闇と戦う秘密結社ができます。

なぜかどんどん大きくなります。

なぜかアーヴィスくんがそのトップになります。


よかったら、引き続き読んでいただけるとうれしいです!

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[良い点] 面白い!! スカッとしますし、みんなで力を合わせていくのも嬉しい。 そして前向きな姿勢に、私も頑張ろう と元気が出ます。 [一言] ブラック魔道具師ギルド、、、を読んで、痛快に面白く、ルー…
[良い点] 金の話すると自信満々でやる気でる主人公好きw
[一言] クラスメイト最高です
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