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23 戦いのあと


「隊長! やりました、勝ちました!」


 控え室に戻ると、ドランが僕に抱きついて言った。


「あのSクラスに俺たちなんかが勝てるなんて!」

「全部隊長のおかげです! 本当にありがとうございます!」


 興奮した声で言うクラスメイトたち。


「ふっふっふ。もっと褒めてくれていいのだよ」


 気持ちよかったので煽ってみると、


「隊長最高です! 一生ついていきます!」

「隊長! 隊長!」

「アーヴィス! アーヴィス!」


 試合直後ということもあって、みんな拳を上げて乗ってくれた。

 なにこれ。めっちゃ気持ちいいんだけど。


「おめでとう! なかなかやるじゃない! さすが私様に勝っただけのことはあるわね!」


 訪ねてきてくれたのは、Cクラス級長ウィルベルさんと、


「うん、見事な戦いだった。感動したよ」


 Aクラスの級長、レオン。

 にっと微笑むその顔は、いつも通り爽やかでかっこいい。


「ううん、二人が協力してくれたおかげだよ」

「わかってるじゃない。しっかり感謝しなさいよね」

「そう言ってくれるとボクも手伝った甲斐があるかな」


 笑みを返してくれる二人に、僕の方もうれしくなる。


「きゃー! 来ましたわ! 濃厚なレオ×アヴィ!」

「最高! 最高ですの!」

「これが見たかったんですのよ!」


 興奮した声で言う女子たちが何を言っているのかよくわからなかったけど、うれしそうだったので良いことなんだろうな。


「Fクラスの大将はいる?」


 鈴のように綺麗な声が響く。

 にぎやかな部屋の中なのに、その小さな声ははっきりと響き渡った。

 さながら一面真っ白の銀世界に一羽だけ暮らす、美しい鳥の声みたいに。


「僕だけど」

「いた。良かった」


 ほっとした様子で微笑んで、小柄な少女は言う。

 銀色の髪を揺らす彼女は、Sクラス最強に位置する一人。

 イヴ・ヴァレンシュタイン。


「すごい魔術だった。あんな魔術が使えるなんて信じられない。感動した」

「ど、どうも」


 直球で褒められて素直にうれしくなってしまう。

 Sクラス最強の彼女にそこまで言ってもらえるとは。


「わたしは、あなたに興味がある」

「僕に?」

「良かったら、嫌じゃなければ……友達になってほしい」


 しばしの間じっと押し黙ってから、伺うように僕を見て言った。


「………………だめ?」


 無表情でクールな『氷雪姫』の瞳は、少しだけ不安げに揺れていた。


「ダメじゃないよ。友達になってくれるなら、大歓迎」

「よかった。うれしい」


 誕生日プレゼントをもらった子供みたいに頬を緩ませて言う。

 その姿は、Sクラス最強の魔術師とは思えないくらいかわいらしかった。






 クラス対抗戦でFクラスが優勝した。

 その事実は、強い衝撃と驚きを持って学院を大きく揺るがすことになった。


 Fクラスを害虫のように忌み嫌っていた学年主任も、こうなった以上、冷遇を続けるわけにもいかない。


 結果、Fクラスには他のクラスと同等の設備が整えられ、雨漏りもしなければ、床が抜けることもない、高級ホテルのような教室で授業が受けられるようになった。


「ふはははははは! 我らの勝利だ!」

「うむ、大勝利!」

「やりましたな!」


 喜びに顔をほころばせるクラスメイトたち。

 みんな本当に僕に感謝してくれてるみたいで、もっと褒めて褒めてって言ったらいっぱい褒めてくれるし。


 甘やかされて、どんどん人間強度が下がってる気がする僕だった。


「期待以上の働きだったよ。既存の魔術体系では劣等生のはずの君が、最優のSクラスを倒す。常識という名の視野狭窄と既得権益で凝り固まってる学院には、良いお灸になったんじゃないかな」


 褒めてくれたのは、エメリ先生も同じだった。


「おかげで、学院の中にも既存の魔術体系に疑問を持つ講師が出てきているみたいだし」


 にっこり微笑むエメリ先生。


「後は今の魔術界を牛耳っている連中がどう出てくるか。また君に何か頼むこともあると思うからそのときはよろしくね」


 こうして、無事目的を達成した僕だけど、しかしそれで全部ハッピー! 解決! とならないのが現実の世知辛いところだ。

 依然として僕には頭を悩ませる問題がある。


 一つは、未だ手術費が足りないエリスのこと。

 もっとも、これに関しては貯金も順調に貯まっているし、悩みとしては昔より随分先行きが明るいものになっている。


 問題は、もう一つの方。


「王女に避けられている?」

「そうなんだよね」


 休み時間、僕はイヴさんにそんな相談をしていた。


「どうしていいかわからなくて。同い年の女子で友達のイヴさんに助けを借りたいなって」

「友達……」


 しばしの間感慨深げに呟いてから言う。


「任せて。友達のわたしがなんとかする……!!」

「うん、頼りにしてる」


 決勝の後、どういうわけかイヴさんは僕を気に入ってくれたらしく、ことあるごとに会いに来ては二人で話すようになっていた。


 話せる話題も魔術のことくらいだし、イヴさんは口数が少ないから二人して黙って好きなことしてる時間も多いのだけど。

 しかし、気を使って話さなくてもいい関係というのはそれはそれで心地よい。


 安心して黙っていられるので、小さな氷の姫と過ごすこの時間を、僕は結構気に入っていた。


「近頃、ますます避けられている感じがするんだよね。僕と顔を合わさないよう計算して行動してる感じがするというか。お弁当も顔を合わさず靴箱に入れるスタイルになってるし」

「王女は怒ってる?」

「かもしれない。顔真っ赤なときあるし」


 ふむ、と思案げに口元に手をやるイヴさん。


「わかった。謎はすべて解けた」

「おお! さすが学院一の秀才!」

「任せて。名探偵のわたしにはまるっとお見通し」


 金色の瞳を自信ありげにきらりと光らせてイヴさんは言う。


「王女は怒ってる。間違いない」

「どうして怒ってるんだろう」

「それはわからない」

「…………」


 いや、知りたいのはむしろそっちなんだけどな。


「でも、対処法はわかる」

「おお! さすが名探偵!」

「もっと褒めて」

「天才! 頭良い! 憧れる!」

「ふふふふ」


 うれしそうだった。

 意外と単純なのかもしれない。


「怒ってる相手には謝るのが一番」

「おお、たしかに!」

「でも、手紙や通信魔術ではダメ。直接伝えるのが大切」

「なるほど、直接伝える、と」

「真心を込めて謝れば、必ずわかってもらえるはず」


 イヴさんの意見は納得できるだけの説得力を持っていたように思う。


「複雑に絡み合った因果の糸もこうも簡単に解いてしまうなんて」

「わたしが真実を見つけるんじゃない。真実の方がわたしを見つけるだけ。あと、もっと褒めて」

「かっこいい! 最強! スーパー名探偵!」

「ふふふふふ」


 やっぱり、うれしそうなイヴさんだった。


「今日リナリーさんは病院に行ってから来るんですよね、たしか」

「そう。ちょうどいい。そろそろ登校してくる時間のはず」

「それじゃ、先生。早速事件を解決しに行きましょうか」

「うん」


 こうして、僕とイヴさんは登校してくるリナリーさんを待ち受けた。






 ◇◇◇◇◇◇◇


 side:体調不良? リナリー・エリザベート・アイオライト


(一体どうしちゃったんだろ、私……)


 リナリーは頭を抱えていた。

 楽しみにしていたクラス対抗戦の決勝。その結果は、完璧主義者のリナリーには到底受け入れられないものだった。


 生まれて初めて道に迷い、落とし穴にはまり……。

 深い森の中で誰にも見られてはいなかったとはいえ、ありえないミスを繰り返した。そんな自分を、何よりリナリー自身が許せない。


(もしかしたら精神性の疾患かも知れない。診てもらわないと)


 王家御用達の名医の元へ訪ねた。

 しかし、その診断結果は、彼女を大きく失望させるものだった。


「検査の結果、異常は見られません。至って健康で正常な状態かと」

「そうですか……」


 やっぱり、未知の精神疾患なのだろうか、とリナリーは不安になる。

 ただでさえ、簡単じゃない道を進もうとしているのに。そんなハンデを背負うことになるなんて……。


「何か……何か、類似する症例はありませんか。少しでもヒントが欲しいんです。この症状とこれから付き合っていくために」

「ヒント……」


 難しい顔で白いローブを着た名医は言う。


「王女様にこのようなことを申し上げるのは出過ぎた行いかも知れませんが」

「構いません。許します。今は、少しでも情報が欲しいんです」


 リナリーは前のめりになって言う。


「お願いします。教えてください」

「そこまでおっしゃるなら……」


 ためらいがちにしばし押し黙ってから、名医は言った。


「もしかすると、それは精神疾患ではなく恋なのではないかと」

「恋?」


 リナリーはきょとんとした顔で言ってから、


「ありえません。恋愛にうつつを抜かしている時間など私には」

「しかし、ある特定の男子生徒を見ると動悸がするんですよね」

「そうですね」

「顔が熱くなって、恥ずかしくて、普段の自分ではいられないと」

「そ、その通りです……」


 改めて言われるとすごく恥ずかしかった。

 自然と彼のことが頭の中に浮かんで、さらに顔が熱くなる。


「間違いありません。それは恋です」


 真っ赤になったリナリーに、名医ははっきりとそう言った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 圧倒的に強い事がエリート生と戦う対抗戦でアピールされますが同時にもやしが好きな(というかあまりお金がないから)素朴な所が主人公のギャップとして良いと思います。破竹の勝ちぶり、リナリーとの恋…
[良い点] テンポが良い [一言] 恋愛描写はスキップしてます
[一言] イヴはポンの者だった…?
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