15 Cクラス戦
翌日、SクラスとDクラスの試合が行われた。
リナリーさんは一人で九人の選手をノックアウトし、学院における一試合最多ノックアウト記録をあっさりと更新した。
しかも、『電磁加速砲』使ってなかったし。
あれでまだ本気を出していないのだから、本当にその強さに感心するしかない。
その一方で、僕は次に控えるCクラスとの試合に向け準備に励んでいた。
Aクラスを倒したとは言え、Cクラスも格上の強敵。
しっかり準備をして臨まなければ苦しい戦いを強いられることになる。
「Cクラスの大将は、ウィルベル・ストロベリー。水属性魔術の使い手だね。成績は優秀で、来年はBクラス入りが噂されている。実家は主として農業を営む田舎貴族。性格はプライドが高く自己中心的。格下相手には舐めてかかる傾向があるから、突くならそこかな」
「……なんで、レオンはうちのクラスにいるの?」
当たり前みたいにいるので、一瞬スルーしてしまいそうになった。
ここFクラスの秘密基地なんだけど。秘密の作戦会議中なんだけど。
「うちに勝ったFクラスが、Cクラスに負けられるとボクも困るからね。それに、今のこのクラスはいろいろ面白そうだし」
「協力してくださるのですか、レオン氏!」
「うん。ボクにできる範囲で、だけど」
「これは心強い! 百人力ですな!」
盛り上がるFクラスの男子たち。
「今見た!? アーヴィスくんとレオン様見つめ合ってた!」
「尊い」
「心のシャッターに全力で保存よ! 保存!」
女子たちも盛り上がっているみたいだった。
レオンが協力してくれるの、心強いもんな。うんうん、わかるわかる。
「よし、じゃあ今回はこういう作戦で行こう」
僕は黒板に書いた演習場の地図に、敵と味方を示すマグネットを置いて作戦を説明する。
こうして、周到な準備の後、僕らは戦場へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
side:Cクラス大将、ウィルベル・ストロベリー
ウィルベル・ストロベリーにとって、Fクラスが勝利したという知らせは福音以外の何物でもなかった。
強豪Aクラスが倒されて、Cクラスの決勝進出は事実上決まったようなもの。
『グランヴァリアの暴風』を倒した『エメリ先生のお気に入り』はそれなりに力があるようだけど、とはいえ所詮Fクラス。
Cクラス史上初の決勝進出という偉業は、もう手を伸ばさずとも掴める位置にある。
(レオン・フィオルダートも大したことなかったってことね。あんな劣等生の掃きだめに負けちゃうなんて)
落とし穴なんて低俗な手段を使わないと勝てないような連中なんて、むしろ負ける方が難しい。
(でも、優秀な私様は手を緩めたりはしないわ! 獅子は兎を倒すのにも全力を尽くすのよ)
Fクラスが罠を張る位置は完璧に頭にたたき込んだ。布陣する位置と作戦も把握してある。
(Aクラスみたいな頭でっかちのバカと私様は違うわ。魔術だけで無く、頭脳も天才的。ああ、自分の才能が恐ろしいわね)
そして、迎えた決戦の日。
事前の予習通り、まったく同じ位置に罠が張られているのを見て、ウィルベルはにやりと笑う。
(予想通りね。Aクラスがかかったなら、私様たちもかかると思ってる。そこが甘いのよ。私様たちはAクラスより聡明なのだから)
「気をつけなさい。ここ、罠が張られているわ」
「はっ! 気づきませんでした。さすが、ウィルベル様」
「ふっ。当然ね。私様は天才だから」
髪をかきあげて、ウィルベルは言う。
「道の端を進みましょう。こうすれば、落とし穴はやり過ごせるはずだから」
森との境目にある罠が張られていないスペースを進むCクラスの生徒たち。
声が響いたのはそのときだった。
「敵襲です! 敵は、森の中! 森の中です!」
「なんですって!?」
想定外の事態に、Cクラス生は激しく混乱することになった。
「後退よ! 後退して、態勢を立て直すの!」
「しかし、ウィルベル様! そこには落とし穴が――」
足場が崩れ、落とし穴の奥粘着性の物体に身体を絡め取られるCクラス生たち。
気づいて、後退しなかった生徒たちも、Fクラスの攻撃により一人、また一人と落とし穴に突き落とされていく。
「ふはははははは、見たか我らFクラスの力!」
「落とし穴の上、奇襲だと!? お前たちに恥はないのかFクラス!」
「恥? いえいえ、劣等生だとバカにしていた相手にひっかけられて、負け惜しみを言うCクラスさんに比べれば恥なんて全然」
「貴様らぁぁああああ!! バカにしやがって!!」
反撃に出るCクラス生。
しかし、怒りに任せた攻撃は入念な準備を行い、結束しているFクラスには通用しない。
「ど、どうします、ウィルベル様」
Cクラス生全員が落とし穴に落ちたのを確認してウィルベルはため息を吐いた。
「敵は、私様たちが思っていたよりもずっと強かったってことね」
「そんな……」
「気を落とすこと無いわ。全員、敵大将に攻撃を集中なさい。少し隙を作ってくれればそれでいい。あとは私様がなんとかする」
ウィルベルは落とし穴からFクラス生を見上げて言った。
凜とした目は、まだまったく死んでいない。
その事実が、彼女を慕うCクラス生を奮起させる。
「全員! 敵大将に攻撃を集中! ウィルベル様に道を作るぞ!」
「「「了解!!」」」
魔術ではAクラスに劣るCクラスだが、その結束力は本物だった。
全員が最も力のあるウィルベル一人のために、全力を尽くす。
しかし、絶望的なまでの地形の差は、着実にCクラス生を追い詰めていった。
一人、また一人と脱落していくCクラス生たち。
(あのFクラスがこんなに強いなんて……)
Aクラスが油断しただけだと思っていた。
自分たちCクラスなら、何の苦もなく勝てる相手だろうと。
しかし、実際に向き合ってみて気づかされる。
洗練された動きから見て取れる事前練習の跡。彼らはこの試合に勝つために、自分たち以上に準備をしてきたのだろう。
(弱者でも効果的な作戦を立て、正しい準備をし、呼吸を合わせて戦えば強者を倒すことができる、か)
隣で戦っていた最後の仲間が撃破される。
これで残るは自分だけ。
身動きが取れない粘性の落とし穴の下、整然と布陣したFクラス生を見上げてウィルベルは深く息を吐く。
「見事ね。喜びなさい。私様が褒めてあげる」
直後、ウィルベルは撃破され、戦いは決着した。






