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109 王位継承戦3


「全軍、攻撃」


 戦いの火蓋を切ったのは、メリアさんの言葉だった。

 一斉に殺到する魔術砲火。


 三十を超える一線級の魔術師による攻撃は、尋常な生き物が耐えられる域をはるかに超えている。


 視界を焼く閃光。

 土塊が弾け飛び、木々が一瞬で消失する。

 煙が晴れたとき、そこにあったのは隕石が落ちたかのような巨大なクレーターだった。


 えぐり取られた大地。

 しかし、その中心でフィーネ・シルヴァーストーンは立っている。


「嘘……あれだけの魔術砲火を……」


 巨大な結晶の盾。

 その奥で彼女は感情のない瞳で僕らを見つめている。


「残念ながら、それでは『宝石の盾(イージス)』は破れません」


 その体にはかすり傷一つ無い。

 昨シーズン一度も撃破されていないフィーネ・シルヴァーストーンの絶対的な魔術防御力。


 だったら接近戦で――



『九秒を刹那に変える魔術(ストップ・ザ・クロックス)』



 瞬間、爆風で舞い上がった土塊が静止する。


 僕以外のすべてが動きを止める。

 引き延ばされた刹那の中で僕は地面を蹴る。


 近づき、死角から攻撃を加えようとした刹那、フィーネ・シルヴァーストーンの体がかすかに動いた。


 え――?


 次の瞬間、僕は強烈な力によって大地に縫い止められる。


 軋む大地。

 それは――重力。


 フィーネ・シルヴァーストーンが到達した土魔術の神域。

 重力操作。


 頭ではわかっている。

 しかし理解が追いつかない。


 本当に、重力を操作できる相手がいるなんて……!


 九秒が経過する。

 時間が動きだす。


 フィーネ・シルヴァーストーンは銀色の瞳を僕に向ける。


「興味深い。非常に興味深い魔術です。静止した時間の中で貴方だけが動いていた。推測するに時間を操作する魔術というところでしょうか」

「どう、して……」

「『宝石の盾(イージス)』は現存する鉱石の特性を掛け合わせて作った最高強度を誇る宝石の盾と一般に言われています。しかし、その本質は違う。周囲に張り巡らされた不可視の超重力による盾。それこそが『宝石の盾(イージス)』の本質です」


 清流のように澄んだ声で、宣告するようにフィーネ・シルヴァーストーンは言う。


「そして、時間では重力を完全に支配することはできない。強い重力下で計測された時間が相対的にゆっくりと進むように、重力は時間をも歪ませるからです」

「――――!!」


 まさか、時間停止下で動ける相手が……!


「集中砲火! みんな、彼を助け出すわよ!」


 メリアさんの切迫した声。

 放たれる魔術砲火。


「させない」

「アーヴィスくんは私が……!!」


 炸裂した強烈な一撃は、オーウェン先輩と謎の魔術師二人のもの。


 爆風と衝撃は、フィーネ・シルヴァーストーンの集中を途切れさせる。


 よし、抜け出せた――!


 逃げようと僕が地面を蹴ったその刹那、魔術砲火を放つマティウス王子陣営の魔術師たちにフィーネ・シルヴァーストーンの魔術が炸裂した。



絶対神政テオクラティア



 瞬間、巨人に踏み潰されたかのように沈下した大地。

 七人の選手が跡形もなく戦場から消失する。


 それは信じられない光景だった。


 七人の人間に一瞬で致命的なダメージを与えられるだけの重力負荷を……!!


 彼女はゆらりと僕らに振り向く。

 その姿は、絶対的な上位存在のように見えた。


 たった一撃で思い知る。

 数で押したところでどうにかなるような相手じゃない。


 何より、今日のフィーネ・シルヴァーストーンはあまりに調子が良すぎる。


「全軍撤退! バラバラに散開して、とにかくここから離脱! あとのことは考えなくていい! 今生き残ることだけ考えて!」


 メリアさんの指示で、僕らは散り散りになって森を走る。


 散開したのは集まればそれだけ被害が拡大するだけだから。

 この状況で一人でも多く生き残るための判断。


 一瞬で彼我の戦力差を把握し、ためらいなく退避を選択したのはさすがの判断力。


 しかし、逃げ惑う僕らを無慈悲な暴力が襲う。


「――――!!」


 一人、また一人と悲鳴すらあげられず人が消えていく。


 数を減らしていく仲間の選手たち。


 そして困ったことに――


 フィーネ・シルヴァーストーンが追ってきているのは僕らの走る方角だった。


「私が囮になります。姉様とアーヴィスくんは逃げてください」

「ダメよレリア――」

「二人は私よりこの戦いに必要な人ですから」


 レリアさんが微笑み、足を止める。

 振り返る。


 白銀の髪を揺らし追ってくるフィーネ・シルヴァーストーンに向け、魔術を起動する。



高貴で優美な桜の嵐エアリー・リーフ・テンペスト



 決死の思いで立ち向かったその後ろ姿は――



絶対神政テオクラティア



 神の前に一瞬で跡形もなく消える。


「……逃げ切れないわね。一年生策士さん。貴方だけでも逃げなさい」

「でも――」

「いいの。貴方の時魔術はあれに対抗できる可能性がある。そう私は思ってる。だからここでは最善の手を選ぶわ。それは私を切り捨てること」


 メリアさんはにっと目を細めて言う。


「絶対えらぶってる連中をぎゃふんと言わせなさいよ。じゃないと、許さないから」


 時間を稼ごうと足を止めるメリアさん。

 しかし、時間稼ぎにさえならないことはメリアさんもわかっている。

 だからその狙いは、単純に時間を稼ぐことじゃない。


高貴で優美な桜の雨エアリー・リーフ・レイン


 起動する風魔術。視界を覆うように巻き上がる木の葉。


 フィーネ・シルヴァーストーンが、メリアさんを仕留めようとするそのタイミングで時間系魔術を起動し、その情報をなるべく知られることなく離脱する。


 それがメリアさんの本当の狙い。

 今後の戦況を少しでも有利に運ぶための最善の一手。



絶対神政テオクラティア



 僕は魔術を起動する。



時を加速させる魔術(クロック・アクセル)



 風に吹き飛ばされた木の葉の動きがゆっくりになる。。


 二人が僕のためにしてくれたこと。

 絶対に無駄にしませんから。


 僕は決意を胸に走る。






 ◇◇◇◇◇◇◇


「……逃げられましたか」


 フィーネ・シルヴァーストーンはつぶやく。

 追っていたはずの少年は、一瞬視界を覆われた隙に姿を消していた。

 追う対象を見失って足を止め、目の前の出来事をもう一度整理する。


 時間稼ぎにさえならないことはわかっていて、それでも風魔術を放ったのは何故か。

 彼女は集団を指揮する位置にいたはずだ。

 集団の動きからそう判断し、だからこそ彼女と時間操作魔術の少年を追った。


 一瞬で退避を選択するその判断力からも、彼女が優れた頭脳を持った選手であることは見て取れる。


 その彼女が木の葉を巻き上げてフィーネの視界を遮ろうとしたのは何故か。


(おそらく狙いは時間を稼ぐことではなく、彼の持つ何かを私に見せないこと)


 フィーネはそう結論を出す。


(時間停止以外にも何かある、ということですか)


 彼が見せた時間を止める魔術は、フィーネにとっても決して看過できないものだった。


 未知の魔術による、今までのセオリーが通用しない相手。


 おそらく、この戦いで最も警戒しなければならない相手の一人。


 間違いなく彼にはそれだけの価値がある。


 引き返すフィーネ。

 最初に交戦した木々が消し飛びクレーターが空いた戦場跡では、所属する第一王子陣営が点検をしていた。


「また派手にやりましたね」


 言ったのは第一王子ベルクロードだった。

 針金細工のように細身の長身な彼は、片眼鏡の位置を指で整える。


「敵が多かったので、指示通り生け捕りにはできませんでしたが」

「いえ、構いません。十分です。既に人形は十分な数確保できているので」


 森の奥から現れたのは、白目を剥き近づいてくる人形のような人間の姿。

 頭に刺さった針が電気を放つ。

 人形たちは血管と筋肉の筋を浮き上がらせ、びくびくと痙攣する。

 第六王女陣営と第十四王子陣営に所属していたことを示す紋章が揺れている。


「それに、もう何人か捕まえられましたから」


 人形たちに拘束され、連れてこられたのは三名の男。

 力任せに拘束され、痣だらけで組み伏せられた彼らの内の一人――ゼブルス執事長に言う。


「さあ、教えてください。どうして貴方たちは協力して戦っていたのか」

「何をしようと無駄です。私は何も話しません」

「ご立派な決意です。では、貴方の体に直接聞くことにしましょう」


 第一王子ベルクロードは、電気で作った針をゼブルスの頭に刺す。



人形製作ニューラル・マリオネット



 瞬間、ゼブルスの体が激しく痙攣した。


「何も、何も、ななななななななな」

「どうして協力して戦ってたんです?」


 冷たい声で問うベルクロード。

 ゼブルスは機械のようにぎこちない口調で言う。


「……秘密……未公開株」

「なるほど。そんなことが」


 ベルクロードはうなずく。


「では、もう一つ。散開した貴方達は合流する場所を決めていたはずです。どこに集まるのか。それを教えてください」

「……廃市街地……ポイントR9」

「追撃し、強襲します」


 ベルクロードは兵を進める。






(さすがはベルクロード様)


 第一王子の護衛兼執事長を務める老執事、シュテーゲンはその素早い判断に改めて感心する。


 戦場においても国を治める上でも重要なのは、意志決定の速度。

 決断の遅れは、それ自体が最大の悪手となることも多い。


(第六王女陣営、第十四王子陣営を人形化し手駒に加えた。その上、共闘しようとしていた三陣営を一気に叩こうとしている。さらなる戦力の増加。こうなればもう第二王子もベルクロード様を止められない)


 散開し逃走したマティウス、ルナ、ニナ三陣営が集合場所に選んだ廃市街地ポイントR9。

 第一王子陣営は最短の時間で到着した。

 人形たちが廃墟を取り囲む。


『話し声が複数。連中はまだ気づいていません』


 攻撃部隊からの報告にシュテーゲンは口角を上げる。


(ベルクロード様の勝ちだ)


「さすがです、ベルクロード様」


 命からがら逃げ帰ったばかりの彼らは、想定外の強襲に為す術無く拘束され、人形に変えられることだろう。


 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。


「そうでもありませんよ。彼らもやるようですから」

「え――」


 瞬間、炸裂したのはすさまじい閃光。

 太陽よりさらに明るく世界を染め上げたそれは、急激に燃焼し轟音と共に廃墟を跡形もなく吹き飛ばした。


「そん、な……」


 呆然とするシュテーゲン。

 ベルクロード様が居場所を聞き出し、追ってくることまで見越して罠を張っていたのか……!?


「見事な判断です。面白くなってきましたね」


 ベルクロードは淡々とした声で言う。


「人形作りを続けましょう」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 重力。そうか、天体規模の土魔法…えぇっ!?カッコ良いな!?
[一言] なるほど重力で時間を歪ませるかぁ…… つまり、めっちゃクソ速いやつだったらそれでも?
[一言] 1日に5話更新でも良いのよ?(鬼畜
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