104 謎
潜入調査を開始したリナリーとイヴ。
その目の前に広がっていたのは衝撃の光景だった。
「聖アイレスのエヴァンゲリスタ姉妹……!?」
「ローゼンベルデ一部リーグのチームと契約したってニュースを見た。彼が王位継承戦に出るよう誘ったのだと思われる」
「そう言えば、仲よさそうだったっけ……」
しかも、それだけにとどまらない。
「もう一回挑戦してみようか。さっきのは前より良い感じだったから」
「はい、師匠」
茂みの陰からこっそり観察した結果、アーヴィスは第十七王女を弟子に取って魔術の練習をしているらしい。
「肌綺麗……アルビノかしら」
「資料によると一つ年下。練習態度から真面目で頑張り屋な子だと推測する」
「そんな、またライバルが……」
「しかも慕ってくれる年下弟子。これはポイント高い」
「で、でも、私の方が魔術できるし」
「むしろできない子の方が男的にかわいいってお父様が言ってた」
「うう……」
その上、リナリーに大きなダメージを与えたのは、ある一つの事実だった。
「もしかして、みんなこの洋館に泊まってるんじゃ……」
「泊まる広さは十分にある。それが自然」
「そんな……! 一つ屋根の下で寝泊まりなんてよくないわ! そ、その……過ちとかあるかもしれないし」
「過ち?」
「なんとかして、アーヴィスくんだけ違うところに泊まるよう話を誘導しないと」
「彼は基本妹しか見えてないから大丈夫だと思うけど」
リナリーはアーヴィスだけ別の建物で寝泊まりさせる方法を考える。
「こういうのはどうかしら。銅貨を道に等間隔で落としていくの。アーヴィスくんは絶対につられて拾うじゃない?」
「間違いなくかかる。断言できる」
「そうやって、落とし穴に誘導して捕獲を」
「捕獲してどうするの?」
「どうしよう……? できれば、私も一つ屋根の下で寝泊まりしたいなって」
「過ちが起きても大丈夫?」
「…………」
リナリーは黙り込んで顔を俯ける。
長い沈黙の後、かき消えそうな声で言った。
「………………………………アーヴィスくんなら、いいかなって」
「ごめん、聞こえなかった。もう一回」
「い、いや、とにかく問題ない! 問題ないってこと!」
顔を真っ赤にして両手を振るリナリー。
「待って。誰か来た」
いかめしい門が開く。現れたのは、意外な人物だった。
「フィオナ先輩……?」
クラス対抗戦、代表選手として共に戦った先輩――フィオナ・リート。
「ま、またライバルが……たしかに、クラス対抗戦で良い感じだったけど」
「もう一人いるみたい」
「あれって、フォイエルバッハの副隊長じゃない!」
慌てた様子で入ってきたのは、決勝で戦ったフォイエルバッハの副隊長だった。
メリア・エヴァンゲリスタに何か言われて、顔を真っ赤にして反論している。
「なんで、いつの間にそんなに仲良く……」
「別に彼と仲良いとかじゃない気がするけど」
動揺しつつ、リナリーは状況を把握しようと耳を澄ませる。
さらに、洋館の庭に入ってきたのはさらに思わぬ人物だった。
「オーウェン・キングズベリー!? アーヴィスくん、まさかそっちの趣味が。そう言えば、Fクラスの子たちもそんなことを……」
「落ち着いて。違うと思う」
冷静にイヴは言う。
「大切なのは不確実な情報に踊らされないこと。信頼できる情報を集める必要がある」
「でも、どうやって」
「任せて。良い考えがある」
イヴはきらりと目を輝かせて言った。
「イヴ様とリナリー様がどうしてここに?」
洋館の厨房。魔術光学迷彩を解き、黒仮面を外した二人にエインズワースさんは目を丸くして言った。
「静かに。内緒の話がしたい」
「わかりました」
三人は、屋敷の使用されていない部屋に移動する。
「それで、一体どういったご用件で?」
「リナリーが彼を誰かに取られるかもしれないのに何もせずにいることはできないって言うから」
「い、イヴ。たしかにそうだけど、人に言われるのは恥ずかしいというか」
「あと、わたしが友達と外国に旅行したかったのもある」
「ご旅行楽しまれてますか?」
「すごく」
「何よりです」
微笑むエインズワースさん。
「それで本題。今彼がしていることとその目的について聞きたい」
エインズワースさんは、二人にローゼンベルデに来てからのことを教えてくれた。
「今は王位継承戦の選手集めと、エリス様、ニナ様への魔術の指導。それから、他勢力に対する調査と工作を行っておられます」
「なるほど。たしかに彼ならそうするのが自然」
「一つ問題なのは、私の活躍が少ないことですね。遂に同行を許されこれは目立つチャンスと張り切って家事に警備にがんばっているのですが、今ひとつ目立ててない印象でして。もちろんプロフェッショナルとして、対価を求めず完璧な仕事をするべきなのはわかっています。しかしやっぱりがんばったからには結果がほしくなってしまうものですし、屋敷の警備なんて、羽虫一匹通さない完璧な魔術式を構築して、さあどこからでも来い! 私に活躍シーンを! と思っているのですが、なかなか皆様攻めてきてくれず」
「わたしは応援してる。がんばって」
それから、イヴはリナリーに向き直って言う。
「状況はわかった。わたしに妙案がある」
「妙案?」
イヴはリナリーに自身の案を話す。
その案に、リナリーは青い瞳を瞬かせた。
「たしかに、それなら一つ屋根の下でお泊まりできる……!」
「そこなんだ」
そんな二人に、エインズワースさんは言う。
「しかし、私はアーヴィス様にお仕えする身です。アーヴィス様に隠し事をするわけにはいきません」
「それは困る。彼には内緒で来てるから」
「いえ、お二人のことも報告させてもらわないと」
「待って。他のみんなが知らない秘密をあなただけが知っている。この立ち位置、目立てるとわたしは思う」
「…………」
エインズワースさんはしばしの間押し黙ってから言った。
「お任せください。私がすべてを知る唯一のメイドとして、お二人の秘密は完璧に守り抜いてみせます……!!」
こうして、共犯関係になった三人は行動を開始する。
◇◇◇◇◇◇◇
王位継承戦に向け、準備は順調に進んでいた。
先輩たちも来てくれて、戦いに向けての準備も本格化。
ニナ王女が持つ十五の推薦枠を使い切れないのは、残念ではあるけれど、数の上で不利でも優位を築けるよう工作を行っている。
「うちの陣営の選手として出たいと言ってる人がいる?」
エインズワースさんが言ったのはそんなときだった。
「はい。是非私たちと戦いたいということで」
「信用できないな。どこかの陣営が工作しようとしてる線をまず疑いたいけど」
「いえ、その点は大丈夫です。信用できる人物であることを確認しています」
「エインズワースさんの知り合いなの?」
「知り合い……そうですね、知り合いです」
「どういう関係?」
「関係……寮のご近所付き合いをしてるときに知り合ったと言いますか」
「ご近所の人なの? どうしてローゼンベルデに?」
「いや、その、たまたまご旅行に来てたみたいで」
視線を彷徨わせて言うエインズワースさん。
わかりやすいなぁ、この人。
「そっか、たまたまか。たまたまなら仕方ないよね」
「そうなんです! 仕方ないんです!」
「とにかく、一度会わせてもらえる?」
エインズワースさんが信用できると言ってるし、敵の息がかかっている相手ではないだろうけど。
でも、僕に隠し事してるみたいだし。
一体どういう相手なんだろう?
「はい! 既にこちらに着いておられますので」
「え、着いてるの? 話早すぎじゃない?」
「大丈夫です。心配することはありませんから。早速お通しします」
そして現れたのは、仮面をかぶった二人組だった。
「わたしたちは世界を股にかけて活躍する謎の仮面魔術師。あなたを助けるために来た」
「すみません、成り行きでご近所付き合いをしているという設定に」
「ご近所付き合いをしている世界を股にかけて活躍する謎の仮面魔術師。わたしたちに任せて」
銀色の髪の、小柄な仮面魔術師だった。
「が、がんばるわ」
金色のロングヘアーを揺らして、隣に立つ仮面魔術師が言った。
僕は二人をじっと見つめて思う。
……面白いから、このままにしておこう。






