魔法と入団試験
俺やホープが入団を目指す魔聖騎士団の入団試験にはいくつかの項目があった。己が持っている魔力量を検査する魔力試験。魔力をどれだけ自在に扱えるかを検査する魔力技能試験。そして、最後に行われるのは実際に戦闘を行い臨機応変の対応力を図る模擬戦闘試験である。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は叫び魔法を使う体勢になる。しかし魔法は発生しなかった。俺がどれだけ叫ぼうが気合いを入れようが何も出ない。まさに全くの無だった。こうして俺の魔力技能試験は終了した。
最初の試験として行った魔力試験では【火・水・風・地】の四大属性を核に造られた魔力探知機を使用する。試験受験者の魔力の優位性質と魔力量を測ることが出来る。この四大属性が数多に絡み合い、様々な魔法へと変化させることが出来る。
もちろん俺の結果は“魔力該当無し”。それは前代未聞の結果らしく周囲の人々が騒ついているのを俺は感じていた。ちなみに次の魔力技能試験も俺は散々だった。
「大丈夫。俺は出来る。いつまで焦らすんだよ俺の魔力!」
「アル……」
俺の隣にいたホープは何とも言えない表情で俺を見ている。ごめんな、俺は親友の表情に胸が痛んだ。
「それでは最終試験【模擬戦闘試験】を行います!名前を呼ばれたものから前に出てくるように!」
試験を取り仕切る騎士から最終試験の号令が出された。試験受験者は会場の端まで移動するように伝えられたため、俺達は入団希望者は言われた通りに移動した。
そして、みんなが移動した後にいつの間にか中央に騎士が一人立っていた。その騎士は掌を地面向ける。
「これより模擬戦闘試験の準備に入る!魔唱=鋼武場!」
この世界では魔法を唱えることを魔唱と言った。この言葉がトリガーとなって魔法が発動される。魔唱を行うと、術者の身体を特殊な文字が包み込むのも特徴的だ。
号令を下した騎士が魔唱を行うと俺達が踏みしめている大地が揺れた。すると下から盛り上がるように騎士がいる場所を中心にして正方形の演武場のような物が創られる。
「会場の準備は出来た。それでは早速模擬戦闘試験の初戦を開始する!」
騎士の言葉を聞き、会場にいる受験者の表情が一変した。期待と不安が入り乱れた表情になっている。もちろん俺もその一人だ。模擬戦闘試験は一人対一人の戦闘試験でルールは至ってシンプルだ。対戦者のどちらかが降参か戦闘不能になるまで戦う試験。
「いよいよだなホープ。俺は絶対に魔聖騎士団になって、きっと……」
「アル。そうだな。でもまずはこの勝負は絶対に勝たないとだぞ」
「分かってる! 今のままじゃ見向きもされない!」
俺は拳を強く握る。このままじゃ魔聖騎士団に入団なんて夢のまた夢。ここで挽回しないと俺の夢はいつまでも叶わない。
これまでのことを思い出し、自分を奮い立たせていた。そうこうしていると、試験が始まる。次々に受験者が戦闘を始める。戦いは意地と意地のぶつかり合いであり、騎士ではないと言えど見所のある戦闘が繰り広げられていた。俺はその様子を必死で目で追う。
「受験者アーロン、受験者ゴリアテ前へ!」
「はい!!」
「はいはい」
いよいよ俺の出番となる。俺は元気に返事をする。俺の対戦相手のゴリアテはやる気が無さそうな返事をする。ちなみに、アルは略称であり名前はアーロンである。ホープや村の皆が愛称として俺をアルと呼んでいる。俺とゴリアテは演武場の真ん中に移動して向かい合う。
「俺はアーロン。よろしく!」
「あぁ、そういうのいらないから。さっさと始めて終わらせよう。早く帰りたいんだよ俺」
「なんだと! 失礼だぞ!」
「うるさいんだよお前。さっきから全然魔唱も出来てないじゃん。まぁ早く終わられるのは有り難いけどな」
俺は込み上げてくる怒りを必死に抑える。どんなに馬鹿にされようがずっと心待ちにしていた大事な試験だ。ここで冷静を保たなければならないと自分に言い聞かせる。
「二人とも準備はいいな? それではさっそく試験を開始する! 始め!」
騎士の合図と同時に俺は瞬時に後ろに下がる。もちろん相手との距離を取って間を測るためである。
しかし、対戦相手のゴリアテはやる気が無さそうに首を左右に振る。
「無意味だって……瞬殺なんだからよ。魔唱=雷狼の牙」
ゴリアテが魔唱をする。ゴリアテの身体を特殊な文字が包み込んだ後、足元から雷属性で創られた1匹の狼が召喚される。そして雷狼は俺に向かって襲いかかってくる。
俺はその狼の軌道を予想して回避行動をとった。しかし、ゴリアテが放った雷狼は簡単には終わらない。
「甘いよ! 雑魚が!」
「くっ! ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」
一度は避けることが出来た雷狼は俺の後ろで急旋回し、再び俺に牙を向けてきた。毎日の訓練で動体視力は鍛えてきたつもりだ。だから真正面に来る攻撃は避けられる。でも、さすがに背後からの突然の攻撃は避けられなかった。
雷狼の攻撃は痛かった。身体中に電撃が襲いかかり、意識が飛びそうになる。
これが魔法。これが戦闘。
俺は演武場で倒れ込んでしまった。立ち上がりたいけど、身体中が痛くて辛い。その痛みが俺の身体を無意識に抑制しているのか、立ち上がろうとしても身体に力が入らない。
「おいおい。別に早く終わるのは良いけどよ。余りにも早く終わり過ぎると俺の評価が上がらないだろ」
ゴリアテは口角を上げ、嫌味が溢れる笑みを浮かべて俺を見ている。
俺は力が入らない拳を懸命に握る。ここまでやってきたことがこんな一瞬で終わるなんて絶対に認めたくない。
「まぁいいか、もう決めるわ。せっかくだし最後はアピールしとくか!」
ゴリアテはまた魔唱をする。唱えた魔法はさっきと同じ雷狼の牙だった。しかし、違う箇所が一つあった。魔法によって創られた雷狼が複数体存在していた。