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懸念

魔法量検査室の、薄暗くてどこか肌寒いところは変わっていなかった。


しかし機械は魔法科学研究所からの寄贈で新しくなっていたし、セリカがいる場所も地下の検査室ではなく、左側のドアを開けて入った中にあるオペレーションルームだった。


検査を受けるウィルとケリーは、さっきシータに付き添われて下に降りて行った。



今日はセリカの苦手なお喋りクルトンは、お休みだったらしい。

どこにも姿が見えなかった。


下の部屋に案内して行ったのは朗らかな女性の係員だったので、緊張していたケリーも少しは安心したのではないだろうか。


検査技師が部屋にある機械を動かしながら、下にいる係員と音声管を通して連絡を取り始めた。


「チェック、オッケー。ウィルが先に入ります」


「了解。モニターチェック、良好。始めて下さい」


ウィーンという機械の音が近づいてきて、ウィルを乗せてきた装置が一瞬止まったかと思うと、今度はグーンという音と共に一気に下がっていく。


すると目の前のいくつものモニターの針が大きく振れるのがわかった。



「「おおーーーっ!」」


室内に驚きの声がこだまする。


「どうしたの?」


セリカにはどういうことなのかさっぱりわからない。


「ウィルの魔法量が上級クラスだったんだよ」


「へぇー 珍しいの?」


セリカのその質問には、ダニエルではなく検査技師が答えてくれた。



「侯爵夫人、伯爵レベルはありますよ! 平民とは思えないっ。どこで探してこられたんですか?」


セリカとダニエルはお互いをチラリと見た。


「田舎町でね、たまたま出会ったんだ。さっきピザを食べたのが良かったんじゃないか?」


ダニエルはそんな冗談を言って笑ったが、その話を聞いた検査技師は本気にしたらしい。



それから魔法量検査の前にはピザを食べるといいらしい、というジンクスが流行ることになる。



ケリーの魔法量は、中級の上クラスだった。


「これは……おかしな結果だな、タンジェント」


「はい、詳しく調べさせてみます」


そんなダニエルとタンジェントの会話で、セリカが二人の容姿から考えていた懸念が再び頭をかすめた。


やっぱり何か訳ありな感じがするわね。




◇◇◇




レイトの街からランデスの屋敷に向かう道筋では、ウィルもケリーもはしゃいでいた。


ダニエルがそう怖くないということが、わかったというのもあるのだろうが、魔法量検査が無事に終わってホッとしたのが大きいのだろう。


ケリーはコールに何度も絡んでまた叱られていたが、ランデスの街に着くころには、二人ともはしゃぎ疲れて眠っていた。



「こうして寝てるところを見れば、まだ子どもなのよね~」


「二人とも顔立ちは綺麗だな。私はオディエ国の貴族が父親なのではないかと思ってるんだが」


「私もそれは思った! ケリーの顔にどこか気品があるのよね」


ダニエルとセリカはそんなことを話していたが、コールは猛反論した。

 

「お二人とも何を仰ってるんですかっ。こんな言葉の悪い貴族がどこにいます? ったく、しつけも何もあったもんじゃない。平民でもこんなにガラの悪い奴はいませんよ」



確かに。

でも母親に力がなくて、村人に(うと)まれていたとしたら? 外の世界に対して、虚勢を張らざるを得なかったんじゃないかな。

ケリーの男言葉や、言われる前に喧嘩を吹っ掛ける姿勢は、母親と弟を守ろうとしてきて習慣になったもののように思える。



丘の上にラザフォード侯爵邸のお城が見えて来た時には、家に帰って来たんだなと嬉しくなった。


何か月か前には、あまりの大きさに恐れおののいた屋敷だったが、今ではセリカの家になっていた。


魔導車は坂道を軽々と駆け上がって行く。

そして侯爵邸の玄関前に、ゆっくりと止まった。



「侯爵閣下、奥様、お帰りなさいませ。ご無事でなによりです」


執事のバトラーが満面の笑みで出迎えてくれる。

女中頭のランドリーさんと、侍女のエレナも出迎えてくれていた。


「ただいま~ 皆、元気そうね。あなたたちの顔を見たら安心したわ。バトラー、ランドリーさん、もう聞いてると思うけどケリーとウィルをよろしくね」


「はい、どうやら稀なる縁があったようですな」


「ジェーンから話は聞いてますよ、私にお任せください」


二人に任せられると本当に一安心だ。



そして領地管理人のヒップスの代わりをしていたのだろう、ダニエルの秘書のワットが書類の束を持ってここまで来ていた。


「ワット、旦那様を待ってたのはわかるけど、仕事はお茶を一杯飲ませてからにしてあげてね」


「はい、奥様。閣下、お疲れのところ申し訳ありませんが、今日中に裁定の必要な案件がどうしても二つございまして……」


「ああ、ラニア邸でヒップスからも聞いている」


二人がなにやら話しながら足早に執務室に歩いて行くのを見て、セリカは苦笑しながら首を振った。



「エレナ、ただいま」


「お帰りなさいませ、奥様。キムは役に立ちましたでしょうか?」


「ええ、頑張ってくれたわ。それはそうと、エレナとアリソンのおかげで、助かっちゃった」


「アリソンというとドレスですね。それは良かったです」


心得顔のエレナにシーカの街での出来事を話しながら、セリカは懐かしい我が家に入って行った。

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