表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
80/107

食材の調達

広いベランダに置いてある椅子に、ダニエルと二人で座り朝の海を眺めていると、ゆったりと満ち足りた気分になれる。


眩しい光をかき分けるようにして船が何艘も漁に出ていくのが見える。

カモメたちが空を浮遊しながら、クァークァーと泣き声を交わし始めた。


鳥たちも朝ご飯の時間なのかしら?


港に停泊している大きな船からは、荷物が次々に降ろされているようだ。

船員たちの威勢のいいかけ声が、こちらにまで聞こえてくるような気がする。



「移動しないでゆっくりできるのはいいわね」


「そうだな、しかし腹が減ったな。朝からひと運動したからな」


「もう、そんなこと……」


ダニエルは、旅行に出てから恥ずかしげもなくこんなことを口にするようになってきた。

シータやタンジェントに聞こえはしないかとハラハラする。


顔が赤くなるじゃないの。



トントン


そんなことを言っていたら食事が来たようだ。


「お食事をお持ちしました」


「どうぞ」


ドアが開いて、キムがカートに乗せた朝食を持って来てくれた。


ここのホテルには人力の料理用のエレベーターがあるそうで、食事が部屋で食べられるようになっている。

これもゆったりとできる要因だ。


部屋も今までの宿の中で一番広く、応接室に食事ができるダイニングがついている。

そしてこの最上階は、浮遊魔法が使える貴族専用の部屋のつくりになっているらしく、ここまで階段を使わずにスッと登れたのも良かった。



朝食は、海の幸をふんだんに使ったものだった。


ワカメのスープや白身魚のカルパッチョなどの料理には、ダニエルも慣れていないようだ。

セリカは奏子の記憶があるからか、どれも違和感なく美味しくいただけた。


「日本という国では海から獲れる食材も多かったのか?」


「そうね、むしろ海の魚を食べることの方が多かったみたい。ご飯と魚と野菜の煮物、そしてワカメなんかを入れた汁物っていうのが日本の朝食らしいわ」


「ご飯?」


「ファジャンシル王国でいうパンやパスタの位置を占めるものかな。一度カツドンを出したことがあったでしょ。ピラフの上にキャベツや豚肉を揚げたものをのせたもの」


「ああ」


「あれと似ている穀類で、もっと白くてふわっとしたものよ。昨日、シータたちに聞いたけど、オディエ国ではお米を炊いて主食にしてるみたい」


セリカが説明すると、ダニエルはすぐに理解したようだった。


「ああー、わかった。シオン第二王妃がたまに食べていた白い穀類だな」


「そう、たぶんそれね。調味料を買いに行く店にお米もあったら買いたいな。いい?」


「私はここでは出資者の財布役だからな。セリカが買いたいものを必要なだけ手に入れるといい」


「おおー、太っ腹!」



これがウェディングドレスを買い渋ってた人の言葉とは思えないね。


― ダニエルもセリカにメロメロだね。


へへ、そうなのかな?




◇◇◇




午前中は部屋でゆっくりと過ごした。午後になり、シータが知っている調味料や食材を扱う店に連れて来てもらった。


その店は海からも近く、潮風にさらされた看板からもわかるが老舗の食材店らしい。

奥に倉庫が並んでいるようなので、問屋のような業務もしているのだろう。


店内に入ると、いたるところに食材が並べられていた。壁際の棚には見たことがないような調味料がたくさん陳列されているし、倉庫の隅には大きな樽がいくつも置いてある。


嬉々として棚の品物を物色するセリカをダニエルが笑いながら見ている。


「そう焦らなくても、時間はたっぷりある」


「うう、なんだか目移りしちゃって。食材と調味料を見ながら、料理の映像が頭の中を駆け巡ってるの」


― これは、なんでも作れそうね。

  セリカ、香辛料がこんなに一杯!

  もしかしてカレーを作れるかも。


カレー?

日本の国民食の?


― うーん、そうなのかな?

  インドの食べ物って、イメージだけど。


あ、奏子!

この壺に入ってるのが味噌じゃない?


― そうそう。

  醤油もみりんも米酢もあるよっ!

  うわー、テンションあがるぅ~


片っ端から買い込んでいくセリカに、側についていた店員は目を白黒させていた。



「やっぱり荷物用の馬車を用意していて正解だったな」


「ごめんなさい。こんなにたくさんの食材があるとは思わなくて」


日持ちがするものや、軽いもの、すぐに料理を作って試してみたいものを中心に持って帰ることにした。

後のものは、追々こちらの店から送ってくれると言っていた。

どうやら大口の顧客認定をしてくれたようだ。



ウキウキとホテルに帰って来たら、またもやアナベルが待ち構えていた。


アナベルって、まだダニエルのことを諦めてないのかな?


― でも結婚式の時には、気持ちを切り替えてたみたいだったけど。


そういえば、あの時には王子様にまとわりついてたね。



「もう旅の疲れもとれたでしょ。ディロン伯爵やブラマー伯爵にダニエルを紹介するって言っちゃったのよ。今夜は晩餐会に出てくださるでしょ?」


なかなかの押しの強さだ。

さすがにエクスムア公爵の第二夫人である、あのハリエットの娘だけある。


ダニエルも困ってこちらを見ているので、セリカも頷いた。


「それでは、今夜はお邪魔しよう。ブラマー伯爵邸に行けばいいのか?」


「わぁ、嬉しい! 早速、あちらへも連絡をしておくわね」



やれやれ。

今夜は、セリカにとって身内以外で初めて出席する貴族の晩餐会になりそうだ。


親戚づきあいも大切だものね。


― ……新婚旅行だけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ