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飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
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小人の村

セリカたちに時間をとらせたので、昼食はロナルドが(おご)ると言い出した。


店の人が計算に手間取っていたため、セリカが合計額を言ってあげたのだが、こちらのことを信用できないのか、チマチマと足し算を繰り返して計算を続けている。

結局、合計額はセリカが最初に言った金額だったので、ロナルドはますますセリカに尊敬の念を(いだ)いたらしい。


目を輝かせてセリカを(あが)めているロナルドのお尻には、ワンコの尻尾が勢いよく振られているかのようだ。



「すごいなぁ、師匠は」


「お前も初級コースだけでなく、せめて中級コースにも行けば良かったんだ」


どうもロナルドは、12歳で卒業する貴族学院の初級コースだけに行ったらしい。


領地を治める貴族や王族などは14歳で卒業する中級コースまで行く人が多いと聞くので、ロナルドのような人は珍しいのかもしれない。



けれどそんなダニエルの言葉などどこ吹く風で、ロナルドはセリカの方に聞いてきた。


「セリカさんだって貴族学院へ行ってないでしょ。どうやってそんなに早く計算してるの?」


セリカとしては、その質問にはまともに答えられない。


こればかりは、すぐに説明できることでもないからなぁ。


「独学かしら。料理と一緒にそれも勉強しましょうね」


「はいっ!」


おー、いいお返事ができました。



ロナルドと別れて皆で馬車に乗り込むと、ダニエルは足を投げ出して、身体を背もたれにぐったりと預けた。


どうもロナルドへの対応には疲れが溜まるらしい。


「やれやれ。とんだお邪魔虫だ」


「ふふ、でも領地改革に前向きなのはいいことじゃない?」


「……まあな。しかしあいつは一旦心を許すと、遠慮会釈なくグイグイ攻めて来るぞ。めんどくさい男なんだ」


「ダニエルが本当は優しいのもバレてるみたいね」


セリカがそう言うと、コールが口元をゆがめて笑いをこらえていた。




◇◇◇




バール男爵領を出てしばらくすると、馬車が小さな湖の側に止まった。


「ここで、休憩?」


「馬やコールたちは、休憩だ。私たちはタンジェントと一緒に、これから小人の村に行く」


「小人の?! こんなところに村があるの?」


ダニエルがラザフォード侯爵家専属の郵便配達人を調達しようとしていたのは知っていたが、こんな近いところに小人の村があるのだとは知らなかった。


「馬車で行くと山の中をぐるぐる回って今日中には着けないが、空から行くと近いんだ。小人たちは飛び竜を飼ってるから、道をつくる気がないんだよ」



セリカとダニエルはタンジェントを従えて、空高く登っていった。


今日は暑い日だったが、上空では少し気温が下がり涼しくなってきた。


山の近くまで飛んで来ると、下から吹き上げるような空気の流れがあり、気流が不安定になった。


ダニエルとタンジェントがすぐに両側から腕を掴んでくれたので、セリカはなんとかふらつかずに飛ぶことが出来た。



山のてっぺんの高原に、チラチラと建物の形が見えてきた。


「あそこだ!」


ダニエルがセリカに場所を教えてくれようとした時のことだ。真っ青な飛び竜がその集落から飛び立つのが見えた。

山の樹々を背景にしていた時には、その姿を追うことができたが、空に舞い上がるとどこに行ったのかわからなくなった。



「うわー! 空から飛び竜を見たのって初めて!」


「みごとだな。すぐに空に溶け込んでいる」


「侯爵閣下、我々は見つかったようですよ」


タンジェントが指す方を見ると、空に向かって鏡の光がチラチラと反射している。


「あそこに降りて来いというわけか」


わわ、なんだかワクワクする。


小人の村ってどんなところなんだろう。



三人が光を目標に徐々に高度を下げていくと、村の全容が見えてきた。


「アン叔母さんの家が、いっぱいある………」


セリカにとっては、小さい頃から親しんだ懐かしい風景だった。


ダレーナの街の外れのビューレ山脈の裾野に住んでいるアン叔母さんの木の家を、一回り小さくしたような家がたくさん並んでいる。


木に囲まれてひっそりと建っている家々の庭には、ハーブの花が咲き乱れていた。



「お出迎えだ」


下を見ると、白い髭をふさふさと生やしたおじいさんと若い女の子、二人の小人がセリカたちを見上げていた。


三人が地面に降り立つと、セリカの腿の辺りぐらいの身長の小人のおじいさんが、甲高い声で話しかけてきた。


「遠いところをよく来られた『大きい魔法使い』たち。コクルの村は歓迎する」


「こんにちは。突然訪ねてきて、すみません。私はダニエル・ラザフォードと申します。今日は、我が家専属の郵便配達人を一人、お願いしたくてこちらにうかがいました」


おじいさんはダニエルを見上げながら、鷹揚(おうよう)に頷いている。



「報酬は?」


「宮殿の配達人と同じ月々の給料と、この宝玉の剣をこの村に捧げます」


ダニエルが懐から小さな懐剣とお金の入った包みを取り出すと、おじいさんは顔色も変えずにそれを受け取った。



「了承した。ミコトをその任務につける」


「ミコトですね。打ち合わせをしたいので、ラザフォード侯爵家に一度来てほしいと伝えてください」


「フム、伝える」



これで用件は済んだと思ったようで、隣にいた女の子の方がセリカたちを手招きした。


「こっちへ来て、お茶を飲め」


若い女の子に案内されて木陰の切り株に座ると、小人にとっては大きな木のコップに入れたハーブティーを持って来てくれた。


暑い夏の日中なのに、そのお茶はよく冷えていて、セリカたちの乾いていた喉を潤してくれた。



「美味しい! どうしてこんなに冷たいお茶があるんですか?」


セリカがした質問は、その女の子にとっては意外だったようだ。


こんな当たり前のことを知らないのか? とでも言いたいような呆れた顔をして、竜の氷室(ひむろ)からお茶を持って来たことを教えてくれた。


「飛び竜は氷室で眠る。そこはどんな季節でも冷たい。氷室で眠る飛び竜は歳をとらない。何千年も前から生きている」


「へぇ~、知らなかった」


― 竜は長生きするって物語でも読んだことがあったけど、本当だったんだ。


専属の郵便配達の人が来てくれると、これからはいつも身近で竜を眺められるね。



セリカは、屋敷に飛んでくる飛び竜のことを思って、口元が緩むのを抑えきれなかった。

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