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飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
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思いがけない衝撃

セリカが屋敷に入っていくと、走ってどこかに行こうとしていた女中頭のランドリーさんに飛びつかれた。


「奥様! 良かったっ、探しに行くところだったんですよ!」


「まぁ、どうしたの? ランドリーさんが走ってるなんて」


普通は若い者を連絡に走らせるだろう。

ちょっと太っ…ゴホン、丸いランドリーさんが走ってるなんてよほどのことだ。



「そんなのん気な顔をしてる場合じゃありませんっ! 旦那様が、ダニエル様がいなくなったんです!」


「は?!」


これは本当に、大事みたいだ……

いなくなったって、どういう意味?


「コールは? 従者のコールはどこにいるの?」


「それが、血まみれになって道のほとりに倒れてるところを発見されたんです」


血?!

血まみれですって?!


ランドリーさんの言葉を聞いて、セリカは頭の中の血が一気に抜けていくような気がした。

身体がかしいでいくのを止められず、ふらりと倒れそうになる。


後ろに付いていたシータが慌ててセリカを支えてくれた。


ランドリーさんも自分の言い方があからさま過ぎたと思ったのだろう、おろおろしながらセリカの背中に手を当ててくれた。


「す、すみません、セリカ様」


「奥様、ゆっくりと息をしてください。必ず私たちが閣下を探し出します。大丈夫ですから!」


シータが繰り返し叫んでいるのがやっと耳に入って、セリカは震える息を吐き出した。


「いえ……私がしっかりしなくちゃ。はぁ~ ちょ、ちょっと待って」



セリカ、頑張れ。

大丈夫、ダニエルは大丈夫。


― そうよっ。

  しっかり!

  私たちの魔法量が、国でもダントツでトップなのよ。


そうよね、奏子。

私が、ダニエルを助けないと!



「もう、大丈夫です。ランドリーさん、タンジェントはどこにいるの? 」


「皆、書斎に集まっています」


「そう、ありがとう。シータ、私たちも行こう」 


ランドリーとシータは、セリカの様子を心配そうに見ていたが、こんな大変な時にショックで寝込んでなんていられない。




書斎にはタンジェントだけでなく、執事のバトラーや領地管理人のヒップスも集まっていた。


「ヒップス……その血……」


ヒップスの手や服が血まみれになっている。


「奥様、すみません。私が、コールをここまで運んできたんです」


「いえ……ありがとう、義弟を助けてくださって。それで、コールの様子はどうなの? お医者様は?」


それにはバトラーが勢い込んで応えてくれた。


「医者は、呼びました。今のところは命に別状はないと思われます」


セリカがバトラーに頷く。

よかった、ひとつ安心ね。


しかし、すぐに震える声でヒップスが続けた。


「まだコールの意識が戻ってないので、なにが起ったのかが全然わからないんです。侯爵閣下がお昼ご飯を食べに屋敷に戻られて、しばらくして、私もお昼を食べに屋敷に帰ろうとしたんです。そうしたら、研究所から屋敷まで歩いてくる途中に、人が倒れてて。駆け寄ってみたら、それがコールだったんですよ!」


ヒップスはあまりのことに、まだ気持ちが動転しているようだ。


「侯爵閣下はまだこちらに戻られていない。状況をみると、捕らわれたと考えて対策を立てたほうがいいと思います」


タンジェントの冷静な言葉に、セリカの頭もしだいに落ち着いてきた。



ヒップスに付いた血がまだ乾いてない。

どうやら事件が起きてすぐのようね。



「バトラー、元気のいい男の人を三人組にして、研究所や屋敷の周りにダニエルが倒れていないか、探させてちょうだい。危ないからずっと三人で行動するように言ってね」


「は、はいっ!」


執事のバトラーが出ていくと、セリカは今度はタンジェントとヒップスに告げる。


「二人ともコールが倒れた所に戻って、何か手掛かりがないか調べてみて。手掛かりがあっても無くても、調べた後は一旦、屋敷に戻ってきて」


「「わかりました」」


二人が足早に出ていくと、セリカはランドリーさんに聞いた。


「ランドリーさん、コールには誰かが付いてるのよね」


「はい、キムをつけております」


「それならいいわ。これから厨房へ行って、皆がお腹が空いた時につまめるようなものを用意しておくように言ってくれる? その後はここに戻っておいてね。ここの書斎を作戦本部にするから。ランドリーさんかバトラーが連絡係として、常時ここにいるようにしてください」


「奥様はどうされるんですか?」


「私とシータはタンジェントに協力して、ダニエルを助けに行くのよ」


「ですが、奥様……」


ランドリーさんは、先程のことがあったからか心配そうにセリカを見つめている。


しかし、こういう事件では初動捜査が一番大切だと日本の本にも書いてあった。


セリカはランドリーさんだけではなく自分自身にも言い聞かせるように強く言い切った。


「この無駄に多い魔法量を使うのは、今でしょ!」


そう、ここは一番の踏ん張りどころだ。



「シータ、着替えに行くからついて来てくれる」


「はいっ」


セリカは足早に階段を上がっていった。




◇◇◇




エレナは、セリカが考えることがわかっていたのだろう。

乗馬服を用意して、部屋で待っていてくれた。


着替えて書斎に戻ってみると、執事のバトラーも女中頭のランドリーも本部に戻ってきていた。


「奥様、5チーム作って、棒などの武器を持たせて送り出しました」


「ありがとう、バトラー。もし誘拐犯が何か言ってくることがあっても、すぐに応じないで状況を引き延ばしてちょうだい」


「は? ……は、い」



そこへ、副料理長のルーカスがサンドイッチやパンを山盛りにしたトレーを持って、顔をのぞかせた。


「うちの料理長は血の気が多いから、ダニエル様を探しに若いもんを連れて飛び出して行っちゃったんですよ」


「おいおい、他の者が行くからいいと言ったのに……」


バトラーが副料理長のルーカスと顔を見合わせて、ため息をついている。


ディクソン……



「まぁいいわ。誘拐犯がまだこの辺りにいる可能性は少ないと思うの。魔法科学研究所とここの屋敷はセキュリティ対策がしてあるでしょ? その間を襲撃場所に狙ったとなると、ずっとこちらの様子をうかがってたんじゃないかしら。 私に護衛が付いていることを知って、狙いをダニエルに変えたんじゃないかと思うの。ということは、事前に馬車か何かを用意して、逃走経路も考えていたんじゃないかしら」


「そうですね。奥様の言われることは的を射てます」


シータが同意してくれたので、セリカは続けた。


「タンジェントたちが帰って来たら、空からの捜索をしてみるわ。バトラー、ポチはどこにいるのかしら?」


「それが……たぶん湖の中の小島にいると思うんですが、いつもダニエル様が指笛で呼んでいらしたもんですから……」


「ちょっと呼びに行ってみるわ。シータ、飛べる?」


「はい、そのくらいの距離でしたら」


「バトラー、私たちが帰って来るまでにタンジェントたちが戻って来たら、二人に食事をさせておいて。腹が減っては戦はできないでしょ。何が起こるかわからないこんな時だからこそ、無理矢理にでも食べさせといて」


「わかりました!」



セリカはシータの手を引くと、書斎の窓を開けて飛び出した。


書斎の窓からは、皆が祈る思いでセリカたちを見ていた。


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