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飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
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手芸で模様替え

晴れた日には屋敷中の部屋をチェックして歩いているらしい。

そんな女中頭のランドリーさんを、セリカはたまに手伝っている。


ある日、古い家具を運んで行った屋根裏部屋で、宝の山を発見した。


「ここステキね! まるで宝物で溢れた洞窟みたいじゃない? うわぁ、何でもある」


「そうですか? まぁ、何でもあるというのは確かですが。このサイドテーブルみたいに、古くなった家具や絨毯、それに細々した飾り物や絵などもここに置いてあります」


「なんかもったいないな。これなんか綺麗にすれば使えそう」


セリカが見つけたのは、曲線のある足を持ったテーブルだった。

可愛らしい布張りの椅子も2脚付いている。


奥の方には子どものおもちゃとして使っていたのか、妖精が住んでいるような小さな家もあった。


「この家、いいなぁ。小さいのにこんな精巧な家具や料理道具までついてる!」


「そんなに気に入られたのなら、お部屋に持って帰られますか?」


「え、いいの?」


「もちろんです。ここにあるものはすべて奥様の物なんですから」


ランドリーさんの言葉を聞いて、セリカは大金持ちになった気がした。



まずは、二つの掘り出し物を裁縫室に運んでもらい、雑巾で綺麗に拭いていった。

そして風魔法で乾かしていく。


手伝ってくれたのは、セリカより年下だというキムという女中だった。

キムは赤い髪を後ろで一本の三つ編みにしていて、顔中にソバカスがあるキュートな女の子だ。


ニコニコしながら、セリカがやっていることを面白そうに見ている。


「これ、どこに置こうかなぁ。私の部屋のあの大きな壺をどかしてもいいかしら?」


「でも奥様、ランドリーさんがあの壺は値打ちものだと言っておられましたよ」


「値打ちものなら、私の部屋よりお客様の部屋に置いた方がいいんじゃない? あれ、壊しそうで怖いのよね」


「ふふ、わかります。私も毎日、掃除する時にドキドキしてるんですよ」



ドールハウスの掃除が終わったので、古くなっていた布団やクッションなどを作り替えることにした。


ここの裁縫室にある手芸品は、ダレーナのスミスのおばさんが、びっくり仰天するような品揃えだ。

最初にここにある布や糸を見た時には、セリカも奏子もワクワクした。


屋敷に来てからの慌ただしかった日々が少し落ち着いてきていたので、これからはこんな風に手芸や刺繍をするのもいいかもしれない。


セリカはキムに感心されながら、親指ぐらいの大きさのクッションに刺繍を終えた。そして二人でドールハウスを抱えて、セリカの部屋へ運んでいった。

運ぶ途中でランドリーさんに会ったので、この小さな家の置き場所について相談すると、すぐに例の壺を客間に移動してくれた。



壺があった厳めしい一角に、テーブルにのせられた可愛いミニチュアの家が収まった。部屋の重厚な雰囲気が少しは和らいだような気がする。


セリカは勉強の合間についついドールハウスの方を見てしまい、一人でニヤニヤしていた。


― ねぇセリカ、これのクッションを作ったように、

  手芸小物で客室を飾ったりしたらどう?

  おもてなしのインテリアにならないかしら?


あ、それいいかも。

奏子の記憶にあるペンションみたいな感じにするのね。

貴族は重厚な部屋がいいんだろうけど、うちの家族が泊る部屋だけでも模様替えしようかな。




◇◇◇




結局、セリカの家族が泊る部屋だけではなく、ダレニアン伯爵夫妻とクリストフ様が泊る部屋も教えてもらった。


ダレニアン伯爵家の人たちの部屋には、セリカのリボン刺繍が入った小物を置いて歓迎の印にした。

トレントの家族の部屋には、パッチワークのクッションや小物入れなども作ることにした。



ある日、廊下を通りかかったダニエルが、セリカが何をしているのか覗きに来た。


「最近、裁縫部屋にいることが多いね。何を作ってるんだい?」


「これはクッションカバーにするつもりなんです」


「薔薇の……これは、パッチワークかい?」


「よくご存じですね。うちの母は薔薇の花が好きなので、この柄にしました。ベッツィーはヒマワリがいいかなと思ってるんですよ」


「お父さんたちには作らないのか?」


「父には薪柄のものをもう作っています。カールは星にしたんですよ~」


「私には?」


「は?」


「私にも作って欲しい」


「は……い」



なんと、ダニエルとパッチワークのクッションって、あんまり似合わないかも。


― でも羨ましそうだったよ。


うーん、どんな柄にしよう。


― クレイジーキルトは?

  ダニエルの部屋のインテリアに合わせて、深い緑色を基調にして……


ふんふん、緑のバリエーションは目に優しくていいかもね。

その上に光沢のある茶色や金糸で刺繍を入れていったら豪華になるし。



ダニエルに出来あがったクッションを渡したら、顔をうずめて喜んでいた。


……そんなに欲しかったのね。


そしてなぜか、セリカの柄のクッションを作って側に置くようにと言われた。

萌黄色の布にマーガレットの花を刺繍して作ったセリカのクッションを、ダニエルのクッションの隣に寄せて置くと、どうやら満足したらしい。



夜にダニエルの部屋に行くと、セリカはソファに置いてある2つのクッションを確認してしまう。


仲良く並んでいるクッション。


私たちも少しは、仲のいい夫婦になってきているのかしら?

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