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飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
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試食会

エクスムア公爵家に泊ることをダニエルが嫌がったので、夕刻にはラザフォード侯爵邸へと帰って来た。


馬車の中で話を聞いたが、スパイの一人は王家から送られてきていた人だったらしい。

この人のことは、公爵も把握していて、スパイ活動を黙認していたそうだ。


もう一人のことはまだ調べている最中だが、国王の第一夫人の実家であるビショップ公爵の手の者である確率が高いと、ダニエルが言っていた。


「こちらも送り込んでいるのだ、相手もそうしているだろう」


そう言われた時には驚いた。


貴族の世界って、怖いねぇ。




◇◇◇




セリカは政治のことには全く興味がなかったので、そちらの方はダニエルにお任せして、ピザを作ることにした。


翌日、料理長のディクソンに時間を取ってもらい、最初の試食会をすることになった。


前日の夕方に、強力粉、塩、砂糖、牛乳、水、オリーブオイル、イースト菌などの分量は伝えてある。パンを作るようにこねて、生地の塊を密封し冷蔵庫に入れてもらっている。もう第一次発酵はできているはずだ。


「こんにちはー」


厨房の扉を開けると、そこには前回と同じく三人の料理人がいた。

料理長のディクソン、四角い顔の副料理長のルーカス、ひょろりとした若手主任のニックだ。


「あら、ルーカスとニックも付き合ってくれるのね」


「セリカ様、他にも参加したいものは大勢いたんですが、まずはこの三人で習って他の者に伝えることにしたんです」


ディクソンの言葉に、あとの二人も頷いた。


みんな研究熱心だなー


「それじゃあ、クリスピーピザの生地も作っちゃいましょうか」


「え? まだピザ生地を作るんですか?」


「ええ、昨日作ってもらったのは、パンのようなもっちりしたピザ生地なの。これから作るのはお酒のつまみにいいのよ」


セリカがそう言うと、ディクソンとルーカスがニヤリとした。

二人ともいける口のようだ。



「まずは大理石のパンこね台に強力粉を山にして、そして真ん中に穴を開けて噴火口を作るの」


「できました」


「穴の中にイースト菌を入れて、塩はイースト菌から離しておいてね。ぬるま湯を穴に注いで、イーストを発酵させながら溶かして、周りの強力粉と一緒にこねてちょうだい」


さすがに三人ともパン作りに慣れている料理人だ。

手際がいい。


「ある程度まとまったらオリーブオイルを練り込みながらまとめるの。これでしっとりパリッとすると思うわ」


丸くつるりとできあがったピザ生地を大きなボールに入れて、濡れ布巾をかけておく。

これで1時間ぐらい発酵させればできあがりだ。


その発酵を待つ間に、ピザにのせる具材を用意する。


「もっちりとしたパンピザの方は、フレッシュトマトソースとベーコン、モッツァレラチーズ、マッシュルーム、バジルの具にしてみるわね」


まずは、トマトソースから作ろう。


オリーブオイルで炒めた玉ねぎとニンジンとニンニクのみじん切りの中に、トマトの水煮を入れて塩と砂糖で味を調える。

新鮮なトマトの繊維を残しつつ水分を飛ばすと、フレッシュトマトソースの完成だ。


もう一つのトマトソースには香辛料やローリエも入れてコンソメブイヨンも少し加えて煮つめていく。

こちらの複雑な味の方は、クリスピーピザの方に使う予定だ。


そっちにのせる具材は、玉ねぎとピーマンのスライス、サラミ、それに熟成度の低いナチュラルチーズだ。


「黒オリーブのスライスをのせてもいいわよ」


そうセリカが言うと、ニックが切ってくれた。



「窯のオーブンは使えるかしら?」


「はい、用意しておきました」


「じゃあ、手で生地を伸ばしていきましょう」


最初に、昨日から弱く発酵させておいたパン生地を丸く伸ばして広げると、フォークで空気穴を開けてやる。

その上にトマトソースや具材をのせていく。


「ああ、こうして平たくすると上の具材が焦げる前にパンが焼けるんですね。」


「そうなの。そしてチーズが溶けて少し焼き色が付いた頃が食べごろよ。モッツァレラチーズはあまり焦がさないほうがいいかもね」


「わかります」


プロの料理人ばかりなので、話が早い。

一人がピザの焼け具合を見ているうちに、後の二人が発酵の終わったもう一つのピザ生地を使って、クリスピーピザを作ってくれた。



二種類のピザが焼き上がったので、皆で試食会だ。

パン切り包丁で切って、皆でひと切れずつ皿に取る。


「うわっ、これは美味い」

「とろけるチーズをこういう風に使うんだ」


「これはのせる具材によって味が変わりそうですな」

「そうね、いろいろ試してみると面白いと思う」


「これはいかにも庶民の料理だな」

「確かに。貴族が食べるコース料理では、まず出てきませんね」


「そうねー、だからジュリアン王子も食べたがってたみたい」


「「「はぁ?!」」」


「ジュリアン王子って、王族の第一王子殿下のことですか?」


「ええ。ダニエルが食べてるのを念話器で見てよだれを垂らしてたわ。いつか作ってあげてちょうだい。こちらにも来られるんでしょ?」


「いえ、まだここにはお出でになったことがありません。そうか、これは味を極めてみないといけませんね。結婚式までに間に合えばいいが……」


そういえば私たちの結婚式には、ジュリアン王子もここにいらっしゃるわね。


ディクソンたちは、やる気になったようだ。


とりあえず、ダニエルの昼食にピザを一枚出してもらうことにして、最初の試食会を終えた。



この試食会はこれからも続くことになり、ここから生み出された料理が王国の食生活を豊かにしていくことになるのだった。


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