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飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
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エクスムア公爵家での顔合わせ

5月の半ばになろうとしている()曜日に、ダニエルが苦々(にがにが)し気にセリカに切り出した。


「明日、エクスムア公爵家の会食に招待された。ずっと断っていたが、そろそろ行かねばなるまい」


「まあ、やっとダニエルのご両親に挨拶ができるのね!」


「君は嬉しそうだな」


「ダレーナの街では、結婚が決まったらお互いの家に挨拶に行くんです」


「そうか……」




◇◇◇




馬車は今回も快調に街並みを走り抜けていく。


今日は護衛のタンジェントとシータも馬車に乗っている。

タンジェントは御者と一緒に御者台に座っているが、シータはセリカの隣に座っている。

シータとエレナに挟まれて、セリカは小さくなって座っていた。 


先日レイトの街に行った半分の時間で、エクスムア公爵家の屋敷が見えてきた時には、セリカはホッと息をついた。


屋敷は正面を街のメイン通りに向けていて、背後には瑞々しい緑の林が広がっている。

高い鉄製の柵の扉を馬車が通り抜けると、噴水が点在する広々した芝生の前庭があった。

芝生の両側には馬車道があり、この馬車は左側の道を進んでいる。


「広い庭ですねぇ」


門を入ってからだいぶ走っているのに、まだ玄関にたどり着かない。


「舞踏会の時にはこの両側に馬車がひしめくからね。長く馬車道をとっておかないと、公道が渋滞するんだよ」


「へぇ~」


馬車が玄関に着くと、重厚な扉が開いて年老いた男性が進み出て来た。


「お帰りなさいませ、坊ちゃま」


「久しぶりだね、ハーバート。しかし坊ちゃまはもう勘弁してくれ」


「坊ちゃまは坊ちゃまです。こちらが奥様のセリカ様ですか?」


ハーバートさんはダニエルの抗議などものともせずに、馬車を降りたセリカのもとへやって来た。


「こんにちは、ハーバートさん。セリカです、よろしくお願いします」


「ハーバートで結構ですよ、セリカ様。貴方はいずれこちらの屋敷の奥様になる方なんですから」


ハーバートの目元が愉快そうに笑っている。


この人のこと、好きかも。


お互いがそう思ったようで、二人で目を見交わして微笑み合った。



ハーバートに案内されて、セリカたちはダニエルの部屋に連れてこられた。


「食事の時間までは、お部屋でくつろがれるようにとのことです。坊ちゃま、セリカ様にお屋敷を案内いたしましょうか?」


「いや、今日はいい。また落ち着いた頃に連れてくる」


「本当でしょうな」


「ハーバート」


「失礼しました。次回も早めのお越しをお待ちしております」


ダニエルが実家に居つかないことをハーバートは残念がっているようだ。



しばらくするとお茶が運ばれてきたので、居間のソファに座って皆でゆっくりすることになった。


でもこんな時でもタンジェントとシータはお茶に口をつけないし座らない。

この人たちは、本当に護衛に徹しているな。


「この部屋が、ダニエルが子どもの頃に過ごした部屋なの?」


「ここは貴族学院に入った10歳の時からだな。それまでは四階の子ども部屋にいた」


「勉強部屋もあったの?」


「ああ、ダレニアン伯爵邸とは違って二部屋に分かれていた。平民用と、貴族用」


「義兄さん、そのことは……」


「最初はコールと同じ部屋で勉強してたんだが、貴族学院に入ってからは別れた。義妹たちと勉強するのは苦痛だったよ。コールは街に住んでいて、この屋敷には通って来てただけだったしね」


どうもこの子育ての環境がダニエルに与えた影響は大きそうだ。




◇◇◇




一階にある大広間には豪勢な食事が用意されていた。


長いテーブルにはもうエクスムア公爵家の皆様が座っていて、セリカがダニエルにエスコートされて部屋に入っていくと、男性が二人立ち上がって迎えてくれた。


大勢いる女の人たちは、ギラギラした目でセリカの一挙手一投足を見ている気がする。


なんだこれ?

家族の食事会っていう雰囲気じゃないね。


セリカは男性二人にお辞儀をして、女性陣には目礼をしてから、ダニエルが引いてくれた椅子に座った。


この辺りもダレニアン伯爵家とは違う。


エレナは使用人用の食堂へ行ってしまったので、ここにはいない。

シータだけが、入り口の近くに立って警備をしてくれていた。



皆が揃うと、エクスムア公爵が気だるそうに口を開いた。


「ダニエル、セリカ、二人ともよく来てくれた。セリカ、君がエクスムアの一族に加わってくれて嬉しいよ」


ちっとも嬉しくはなさそうだが、ここはセリカが応えるところだろう。

ダニエルの方を見ると、軽く頷かれた。

バノック先生に教えてもらった通りに、声のトーンを整えて、物怖じすることなく堂々と挨拶を返した。


「お義父様、お義母様、お初にお目にかかります。セリカと申します。よろしくお願いいたします」


「……ああ、よろしく。うちの家族を紹介しよう。私の向かいに座っているのが第一夫人のシャロンだ」


お義母様が目礼をしてくださる。

ブロンドに白髪が混じった髪を高く結い上げている。細面で鼻が尖った人だ。


― おー、きつそうなおばさんだね。


うん。

ちょっと怖そう。



「私の隣にいるのが、第三夫人のグレタ」


口の周りに皺のある気難しそうな人だ。


― この人、絵本に出てくる魔女みたい。



「その隣は、グレタの娘、カイラだ」


これはまた気弱そうな娘さんだね。


― なんか存在感がなさそう。



「カイラの隣が第二夫人のハリエット」


― わー、この人真っ黒だね。


うん。

農家の奥さんみたい。



「その隣が長女のアナベルだ」


なんか(にら)まれてるみたいな気がするんですが……


― すごい目だね。

  この人、初対面だよねぇ。



公爵の投げやりな家族紹介が終わった後に、セリカのすぐ隣に座っていた男が自分から挨拶をした。

カールスン伯爵というらしい。


エクスムア前侯爵夫人の実家の跡取りだとか、シャロンお義母様の従兄弟だとかの説明も受けたが、ちっとも覚えられなかった。

ダニエルの向こうに座っているのがこの人の奥様のサンドラさんだということだ。でもこのご夫婦は存在感が薄すぎる。

なんか、速攻で名前を忘れそう。


後でダニエルに聞いたら、ここの縁先がフロイド先生の奥さんのエレノアさんに繋がるらしい。


へー、そうなんだ。



最初は、こうして静かに始まった家族の会食だったが、話が進むにつれておかしな様相を見せてくる。


それは第三夫人、グレタの愚痴から始まった。

 

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