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飯屋の娘は魔法を使いたくない?  作者: 秋野 木星
第二章 結婚生活
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守りの構築

オディエ国出身の人は、真面目で熱心だ。


オディエ人だという護衛のタンジェントとシータは、初めてセリカに出会った場所から、ずっとどちらか一方が側にピタリと張り付いてくれている。

あの時は二人とも雨に濡れていたのに、着替えをするのも交代でするという用意周到さだ。


それだけ長い時間を共に過ごしていたので、セリカも仲良くなろうと思って話しかけると、「仕事中です」というすげない応えが返ってくる。


今朝も起きたら、もうシータが居間に立っていた。

いったい、いつ寝ているんだろう。


二人の身体が心配だとダニエルに言うと、今日中には屋敷のセキュリティ機器を設置するので、その後ならもう少しゆったりと警護してもらえるという。


なんだか大事になってるなぁ。




◇◇◇




朝食ルームへは、タンジェントが付いて来てくれた。


今日も湖が綺麗に見える。

ダニエルと並んで座り、雨上がりの新緑を眺めながら話をしていると、アインが朝食を持って来てくれた。


「アイン、おは……よう。あれ? アインじゃないね」


セリカがそう言うと、タンジェントが警戒してすぐにセリカとアイン?の間に入った。


「奥様、よくお(わか)りになられましたね。私はアインの双子の姉、マインと申します。よろしくお願いいたします」


ダニエルも驚いているようだ。


「セリカ、よくわかったな。私は未だにどっちがどっちだか判らない」


タンジェントはダニエルの言葉を聞いて安心したのか、何も言わずにスッともとの位置に戻った。


「双子だったのね。よく似てるけど、給仕の仕方がちょっと違ったのよ。よろしくね、マイン」


「なるほど、君は他の人とは見るところが違うんだな」



今日の朝食はサンドイッチと具だくさんスープだった。


ハムとチーズのものと、厚焼き玉子が入っているものがある。

ソースもマヨネーズとケチャップで変えてあった。


「お、今日も変わった朝食だな。これは何だ?」


ダニエルは早速、厚焼き玉子のサンドイッチにかじりついていた。


「美味いっ。これはオムレツとは違うようだな」

「ええ、卵焼きという日本の料理です」


セリカがダニエルに説明すると、ずっと無表情だったタンジェントの顔色が微妙に変わった。


もしかしたら、オディエ国にも同じような料理があるのかもしれない。




◇◇◇




午前中は、昨日見つけた料理のレシピ集を書き写しながら、オディエ語の勉強をした。


セリカがブツブツとオディエ語を呟いていると、部屋の中に立っているシータの空気が和らいでいるように感じる。


やっぱり自国の言葉が聞こえてきたら嬉しいのかな。


― セリカの(つたな)いオディエ語に笑いをこらえてるのかもよ。



昼前には、セキュリティ機器の設置が完了したらしい。


「屋敷の敷地全体に魔力感知システムを張り巡らしたぞ。これは王宮につけているものよりも万全な最新式のものだ」


昼食にダニエルが帰って来てそう言うと、目に見えてタンジェントの様子が緩んだ。


「侯爵閣下、食後に護衛についての話し合いがしたいんですが」


「ああ、ちょうどいい。私も君たちに渡すものがあるんだ。魔力登録についても頼みたいしね」


やっとタンジェントやシータと話ができるみたいだ。


― どんな人なんだろうね。




ダニエルの書斎に集まったのは、護衛のタンジェントとシータ、領地管理人のヒップス、執事のバトラー、女中頭のランドリーだけでなく、なぜか料理長のディクソンもいた。


もちろんセリカの付き人であるエレナと、ダニエルの従者のコールもいる。


コールは書斎の机に座って、ノートパソコンのような機械を操作していた。


「まずは皆にセリカの魔法量とその危険性について言っておく」


あれ? 

私って危険物扱い?


「先日の魔法量検査で、セリカの魔法量がファジャンシル国王やジュリアン王子のみならず、魔法部門のトップであったダルトン先生や私よりも多いことがわかった」


「「「おおーーーっ!」」」


「一気に国の重要人物となったわけだが、王宮に留め置くという行政執行部の考えに同意するわけにはいかない。私の妻だからな。そこで宮殿に設置した護衛機器よりも進んだセキュリティ機器をこの屋敷に設置することにした」


「それで午前中、外に魔法科学研究所の方々がいらっしゃってたんですね」


領地管理人のヒップスの言葉にダニエルが頷く。


「屋敷の敷地全体に魔力感知システムを設置したので、使用人全員に魔力を登録してもらう。そうすると他者の侵入を警戒できるからな」


「平民が入って来た場合はどうしますか?」


すぐにタンジェントがダニエルに質問した。


「そちらは今、赤外線感知システムを研究所で作らせている。これが完成するまでは、平民対策も兼ねた護衛をお願いしたい」


「承知しました」


「平民対策がまだできていないことで、注意をしてもらいたいのは食材の搬入だ。それでディクソンにも来てもらった」


「ああ、それでそこのタンジェントさんが厨房の周りをうろついてたんですね」


「私がセリカ様の誘拐を企むとしたら、魔法量の多い侯爵閣下とセリカさんを眠らせることを考える。料理長にはお二人の口に入るものに、今まで以上に注意を払ってもらいたい」


タンジェントの淡々とした言葉に、ディクソンの方はプライドもあったのだろう、少し嫌な顔をしたが素直に頷いた。


「……わかりました」


ダニエルはヒップスさんに「貴族郵便はここ何日かしていたように、研究所経由でやり取りをするから当分の間、このまま研究所の執務室で仕事をしてくれ」と言っていた。


どうりで小人の郵便屋さんを見ないはずだよ。



会合が終わると、皆はコールの側に行って指紋登録ならぬ魔力登録をした。


小さな箱型の機械に人差し指を入れて魔力を微量に流すと、ノートパソコンみたいな機械の方に波形が記録されるようだ。


執事のバトラーと女中頭のランドリーは、自分の登録が済むとすぐに部屋を出て行った。

魔力登録をするために、手が空いた者から順番に、ここに使用人たちを寄越してくれるらしい。



ダニエルはポケットから出したバッジをセリカたちに配った。


「これは念話器を開発する時に派生的にできたものをちょっと改良してもらったんだ。護衛のタンジェントとシータ、それからエレナ、私たち夫婦、この5人が危険を察知した時に通話ができるものだ。バッジの上を5つ数える間だけ押さえると、双方向で通話ができるようになっている。これを常時、身につけるようにしてくれ」


「これはいいですね。セリカ様が勘が鋭いようでしたので、何かおかしなことがあったらこちらに伝えてくださるように頼むつもりでした」


勘が鋭いというのは、朝食の時にアインとマインを見分けたことなんだろうか。

タンジェントがそんなことを言っていた。


― セリカの勘は給仕の所作限定なのにね。


だね。

でも通信手段があるというのは安心かも。

これで遠くに離れてても大丈夫じゃない?



午後は屋敷の中にセキュリティ機器を設置をするらしい。


騒々しいので、セリカとエレナは部屋の準備が整うまで、庭の散歩をすることにした。

護衛にはシータが付いて来てくれるようだ。


「庭に出るのは初めてだから、楽しみだな。」


「今の時期は芝桜やハナミズキが満開ですよ。私は毎朝、屋敷に来る道々を楽しんでます」


エレナに案内してもらって、セリカたちは庭へ出て行った。


そこで、セリカは素敵な場所を発見することになった。

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