レーセナの夢
カールの結婚式があって、それから初めてここラザフォード侯爵邸にやって来て、という盛りだくさんな一日の後に……こういうことになってしまった。
久しぶりのダニエルとの逢瀬。
セリカもさすがに疲れはてて、温かな布団の中でウトウトしていた。
何故かダニエルがセリカの部屋にやって来たので、二人は一緒にセリカのベッドで横になっている。
セリカの肩に腕を回しているダニエルは、長々とカールの結婚式の話をしていた。
「あの宴会部屋はいいな。もしここの屋敷に設置するとしたら、どこに作るのがいいだろう」
「……そうですね、第三夫人の部屋なんかはいかがですか?」
セリカは厨房を見学した後に、第三夫人の住むところを見せてもらった。
エレナは何か言いたそうだったが、黙って案内をしてくれた。
「何でそんなところに作るんだ?」
「いずれ私が住むところですから。ダニエルはあの部屋が気に入ってるようでしたし、宴会部屋があれば少しは私の所に来て下さるでしょ?」
「………………」
「……ダニエル? あふぁ~、寝たのかしら」
「寝てない。何を勘違いしてるのか知らないが、私は君を第三夫人にするつもりは無いぞ」
「? でも、お見合い話が数多く来ているとおっしゃってませんでした?」
「すべて断っている」
「でも、貴族の務めで魔法量を増やさないといけないんじゃないんですか?」
「それは君がたくさん子どもを産めば済むことだ」
ん?
ここにきてセリカも話が噛みあっていないことに気づいた。
ぼんやりとしていた頭にも、血液が戻って来る。
セリカはゴソゴソと顔を横に向けて、寝乱れたダニエルの横顔を見た。
まぁ、こうやって近くで見ると金髪でも部分によって濃さが違うのね。
― セリカ、そういうこと考えてる場合じゃないでしょ。
お互いの人生設計にズレがあるじゃない。
そうだった。
「あのぅ、私が第一夫人だと、まずいんじゃないですか? 貴族の生活についても詳しくないですし」
「それは私でも最初はそうだった」
「あ……」
ダニエルは言葉をなくしたセリカを見て、おかしそうに笑った。
「エレノアに聞いたんだろ? 自分で説明するのも面倒だったから、あの二人をダレニアンに行かせたんだ。お節介な二人のことだから、私の説明の手間を省いてくれると思ってね」
「策士ですね」
「エレノアの病気も快方に向かってるようだし、一石二鳥だろ」
この人は本当に頭がよく回る。
「それにウザイ他の貴族を黙らせる策も考えている」
「どんな策なんですか?」
「フッ、それは明日のお楽しみだ。明日は二人でレイトの街にある王宮へ行くからな」
王宮?!
セリカの身体が緊張したのがわかったのだろう。
ダニエルは肩をさすってくれながら、安心するように言った。
「王族には会わないよ。事務手続きに行くだけだから」
「はい」
「また明日も出かけるし、残念だけど今日はこれで休もうか」
やれやれ、やっと眠れそうだ。
「ええ。ダニエル、あなたにレーセナの夢を」
「……そう言えば、君は平民なのになんでその挨拶を知ってるんだ?」
「え? レーセナの夢をっていうやつですか?」
「ああ」
何でだったかな?
― セリカ、ジュリアン王子よ。
最初に念話で話した時に言ってたじゃない。
そうか。
「ジュリアン王子殿下に最初に言われたので、お休みの挨拶なのかなと思ったんです」
― セリカったら、その言い方は誤解を招くわよ。
「ジュリアンか……」
ダニエルの声が低くなった。
怒ってる?
― ほらぁ~
「なんかまずかったですか?」
「その挨拶は家族か恋人同士でしか使わない。私は……家族にそんな挨拶をしてもらったことがなかったから、その言葉を知らなかったんだ。夏に離宮へ行った時に、従兄弟たちにそのことでからかわれたな」
「そうだったんですか……」
「ヘイズ兄さんは私たちより年上だったから、ジュリアンとクリフ兄弟を諫めてくれたけどね」
そうか、ダニエルにとってはあまりいい思い出のない挨拶なんだな。
「ごめんなさい」
「何で謝る? 君が私に『レーセナの夢を』と言ってくれてから、その言葉の意味が変わった。しかし、ジュリアンに最初に習ったというのは妬けるな」
あの……もしもし?
寝るんじゃなかったんですか?
明日用事があったハズなのに……
― 仕方がないね、セリカ。
もうひと頑張りだよ。




