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妻同士

昼食の後、セリカが自室の窓の側に置いてあったソファに座り、なだらかに広がる草原やその向こうに見える山の新緑を楽しんでいると、マリアンヌが訪ねて来てくれた。



「おかあさま? ぼくもはいっていいの?」


可愛らしい声が聞こえてきたのでマリアンヌの後ろを伺うと、2歳だという息子のティム君が一緒に来ていた。

マリアンヌと同じブロンドの髪をしたハンサムくんだ。



「セリカさん、ティムも一緒でもいいかしら? 最近、お昼寝をしなくなっちゃって」


「いいですよ~ どうぞ」


ティム君は最初はお母さんの隣にチョコンと座って大人しくしていたけど、すぐに大人の話に飽きて応接間を走り回り始めた。



「まぁ、部屋の外へ出たほうがいいみたい」


「男の子ですものね」


「セリカさん、今日は私がダレニアン邸の案内をさせていただますわ」



皆で部屋を出ると、話をしながら廊下奥の階段を使い、三階へと上がった。

この右奥の階段が、勉強部屋へのアクセスに良いそうだ。


「セリカさんは子どもに慣れていらっしゃるみたいね」


「ええ、店に来るお客さんで家族連れの方は多いですし、近所の知り合いの子どもなんかは、地域のみんなで一緒に子育てしてましたからね」


「そうなの。そういうのは少し羨ましいわ。ティムもアルマが大きくなるまでは一人っ子みたいなものでしょ? 男の子のお友達がいたらいいんだけど……」



マリアンヌは赤ちゃんのアルマにあまりわだかまりは持っていないようだ。


夫を他の女性と共有するという感覚が、セリカにはどうもよくわからない。

こういう貴族生活に自分も慣れることが出来るのだろうか?。


 

セリカがそんなことを考えていると、マリアンヌの侍女がすぐ側にあった部屋のドアをノックしていた。

マリアンヌが最初に案内してくれたのは、第二夫人のペネロピの部屋らしい。


この三階の右側の棟は、クリストフの家族が使っているそうだ。


ノックに応えて、すぐに中にいたお付きの人がドアを開けてくれた。

マリアンヌが来たことがわかったのか、ペネロピがガウンを羽織ってベッドから出ようとしている。


落ち着いた茶色に近い赤毛の、色の白い人だ。


マリアンヌは綺麗なお嬢様系の美人だが、ペネロピは落ち着いた知的な雰囲気を持っている。

でもセリカと同じ16歳なので、やはり若い感じがする。



「こんにちは。休んでいるところをごめんなさいね。新しい家族をあなたに一番に紹介しておこうと思って」


「ありがとうございます、マリアンヌ様。こんな格好ですみません。お会いしたかったですわ、セリカさん。同じ歳でもありますし、これからよろしくお願いします」


「セリカです。よろしくお願いします、ペネロピ様」


「まぁ、様ではなくて、呼び捨てでいいですよ。あなたがお姉さんになるそうですし。私は秋の9月生まれなんです。セリカさんは7月生まれなんでしょ?」



「あらペネロピ、私のことはいまだに様付けで呼んでるくせに。私のことも、二人ともさん付けぐらいにしてくださいな」


マリアンヌがそう言って、ペネロピを軽く睨みつけた。

ペネロピの方は真っ赤になってモジモジし出した。


「マリアンヌ様は伯爵家の出ですし。私は、その、子爵家の人間ですから……」


「まぁ! 出自はもう関係ないわ。子どもも出来て、私たちも家族になったんでしょ?」


「はい…………マリアンヌさん」


「ふふ、よろしい。セリカもそうしてね」


「わかりました、マリアンヌさん。では失礼して、ペネロピ、私のことも呼び捨てでセリカと呼んでね」


「え?! ……わかったわ、セリカ」


なんだか呼び方が変わるだけで、二人のことが身近に感じられてきた。


この調子ならここでも何とかやっていけるかもしれない。



セリカとマリアンヌが先日行った服屋での買い物の話をしていると、ペネロピのお付きの人が声を上げた。


「ペネロピ様、またアルマ様が浮き上がってますっ」


「あら、また?」


ペネロピが赤ちゃんに向かって魔法を使うと、アルマは小さな声で泣きながらベッドに降りてきた。



「おしっこが出たんじゃない? ティムもオムツが汚れると気持ち悪いらしくて、すぐに浮き上がるの」


マリアンヌがそう言ったので、お付きの人がすぐにオムツを変えた。

言った通りに汚れていたようだ。


「クリスは浮遊魔法が強いから、子どもも似るのよ」


「ああ、それで。アルマが浮き上がるばかりするからどこか悪いんじゃないかと思ってたんです。教えてくださって、ありがとうございます。安心しましたわ」


思わぬところで共通の旦那を持っている子どもを育てる、母親同士の結束が強くなったようだ。



「もう少し大きくなったら『ビューン、ポイポイ』を始めるわよ」


「何ですか? それ」


「何でもかんでも魔法を使って、ゴミかごに投げ入れるの」


マリアンヌさんがその話をするとすぐに、侍女たちが三人揃って叫び声をあげた。


「「「あーー、坊ちゃま!!!」」」



いやにおとなしいと思ったら、ティムが魔法を使い、飾り棚の飾りを全部、ゴミかごに投げ込んでいたらしい。

子どもが静かだと、とんでもないことになるわね。



でも、なんか奥様同士って、こんな感じなんだ。


セリカとしてはまだ戸惑いがあるが、この二人の仲は良さそうなので、これはこれでいいのかもしれない。

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