ユニーク~SevenS.over~ 10000階の塔と7人の愚か者
平和な世界に突如現れた神々の遺産……
それは名も無き"塔"として、その世界に悠然と立ち続けた。
ある日、世界の半分を手に入れた王が、世界の残り半分を救うべく、力と才能に恵まれた7人の勇者を選び出し、塔の最上階に眠ると言われる奇跡を求めて、踏破を目指す。
やがて、勇者達が塔を囲む街に辿り着いた頃、塔を望む丘の上で目覚めるものがあった。
目覚めたものの正体とは?
果たして、塔の上には何があるのか?
あなたはきっと騙される……
ユニーク~SevenS.over~
見渡す限りのエメラルドグリーンに塗られた草原の上、雲一つ無い真っ青な空の下目覚める。
まだ春になったばかりだと言うのに、俺はこんなところで何をしてるんだ?
ふと視線を移すと、天を貫くほどの高い塔が聳え立っているのが見えた。
正確に言えば、貫くほどのと表現はしてみたものの、本当の意味で本当に先が見えないから、何かもう色々と不安になってくるのは俺だけなのだろう。
まず始めに俺は言いたい……
「ここはどこだあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
気がついたらこの小高い丘の上で仰向けになっていた。
俗に言う異世界ものと言うやつか何なのかは知らんが、俺からすれば、そんなことは正直どうでも良いことだ。
思い起こせば、とか本来のテンプレ的な展開でいけば、この世界に召喚? ないし転移する前の記憶を遡ったりするのだろうが、そんなものは無意味だ。やるだけ無駄だ。それはなぜか? 考えてもみろ、そんなもん考えたところで、もと居た世界に帰れるわけでもないし、ましてや帰りたくもない。
「しかし.まあ……ボーっとしてても腹は減るしな……」
空腹を覚えた腹を満たすため、とりあえず立ち上がり辺りを見渡してみる。
「おっ!街っぽいのがあるじゃん!」
見れば塔の麓に民家が軒を連ねているのが見える。あの規模ならば飲食店などの店もある程度は揃っているだろう。
腹も減ったし何かしら手に入れる事が出来るだろうと安易な考えのもと眼下の街へと俺は歩みを進めることにした。
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「よう、とりあえず有り金、全部出しな」
街に着くなりこれだ、人目のつかない路地裏へと連れ込まれ、周りを厳つい筋骨粒々な方々数人に囲まれたかと思いきや、ありもしない金銭を要求される。
治安が悪いのか、はたまた俺の運が悪いのか、不思議なことに言葉は通じるらしいが、思案するのも面倒なので、とりあえず流れに身を任せてみることにした。
「金はない!」
「あっ?そんな格好しといて金がねえなんて嘘を俺達が信じるとでも思ってるのか?」
そんな格好と言われても普段着なのだからしょうがない、それに人を見た目で判断するとは心外だ。
自慢じゃないが、俺に金と根性と友達の無さで勝てるやつは一人もいないと自負している。
自慢気に腕を組んでふんぞり返っていると、その態度に腹を立てたのか、チンピラどもがにじり寄ってくる。
「ふっ、しょうがない貴様ら余程、自分の血が見たいらしいな……」
「この人数相手にやれるもんならやってもらおうじゃねえか?」
「良いだろう、死にたい奴から前に出てこい」
厨二っぽく振る舞い相手を怯ませる作戦は見事不発に終わったようだ、寧ろチンピラどもが先程よりもお怒りになって見えるのは、俺が今までに培ってきたコミュニケーション能力のなせる技だろう。とどのつまり俺は今ピンチの真っ只中にいると言うわけだ。
「なんもねえならこっちから行くぞ!」
チンピラの一人がゴツイ拳を振り上げ、俺目掛けて降り下ろす。
「おいおい、いきなりなにをす……!?」
顔面にモロに良いのを貰い、強烈な痛みと共に壁に吹き飛ばされる。
「おい、こいつすげえ弱いぞ!」
痛みで薄れ行く意識の中、豪快な笑い声と共にチンピラどもが近寄ってくるのが見えた……筈だった。
「お前、なにしてんの?」
「へっ!?」
目を開けると先程まで俺を囲んでいたチンピラどもが、全員地に伏し倒れていた。代わりに俺の目の前に立っていたのは肩まである紫髪が特徴的な、俺とは無縁なイケメン男子だった。
「いや、本当にお前危なかったよ?俺が間に合ったから良かったものの、つか戦えよボコれよこれぐらい楽勝だろうが、アッ?お前聞いてんのかよ、おい!」
もう一度言うが、俺はこのイケメンとは無縁だ、多分同じ空気を吸うことすら、おこがましい矮小な存在だ。しかし、このイケメンいったい何を言っているんだ?
「あのぉ、お訪ねしますがどちら様ですか?」
「マジか!?」
イケメンが驚き、俺の頭を調べてくる。別に頭は打ってないし、それくらいで人様の顔を忘れてしまうほど、ちゃちな造りには出来てない筈だ。
「俺だよ俺!俺俺!」
おれおれ詐欺ですか? 古いですよ?えっ?違う?でも、こんなイケメンはモニター越しでしか見たことがないわけですよ、もう一生分の幸運をアンタが持っていったんじゃないかと思うくらいにね、責任とってくださいね?
「お名前聞いても良いですか?」
俺俺言っていた素敵生命体が、黙って俺の顔を除きこんで小さくため息を吐く、ため息を吐かれるぶんには馴れているが、正直イケメンが相手だと、受けるダメージがデカかった。
「クレイだよクレイ=アルバース……お前の警護担当兼お前の周囲の警護担当術師だ。思い出したか?」
まったくと言って良いが、警護されるほどの身分ではないし、その前にお前誰だよ感が強すぎて、他の事が薄れそうになるが……
「俺の周囲の警護?」
「そうだよお前が周囲の人間に危害を加えないように最小限の被害に留めるのが俺たちの任務だ……って聞いてんのか?」
「やめろ、アンタの顔面は破壊力が高い!」
クレイが顔を覗き込んで来るので、気恥ずかしさからか思わず顔をそらす。
「お前なぁ、とりあえず他のやつらと合流して……」
グーと腹の虫が鳴く、クレイが呆れたようにまた、ため息を吐く。
「んとに、お前はしょうがねえなぁ、合流する前に飯でも食いに行くか?」
「金はないぞ!」
「俺が預かってるよ、スルグナッツァかチュアゴシどっちが良い?」
「じゃあ、クレイが好きなモノで♪」
どっちも聞いたことのない料理だったが、どれが良いか解らないときは相手に委ねるのが定石だ。
頭を掻きながらスタスタと歩いていくクレイの後を急いで追い掛ける。
「ところでお前、そんな格好でよくあの塔に登るよな?」
「これは普段着だから動きやすいんだよ!ってあの塔に登る?」
だいたいの予想はしていただけに気が滅入る。
「そうだよ、まだ誰も到達し得なかった最上階に眠る秘宝を手に入れるためにお前とお前の選んだ俺達7人であの塔に登るんじゃないか、それも忘れたのか?」
このイケメンはいったいなんのゲームの話をしているんだろうかと、横を歩きながらクレイの話に耳を傾ける。
「っと、着いたぜ俺のオススメ、ツァゴテリの専門店だ!」
「わぁ……」
聞き慣れない名だが専門店と言うのだから多分美味しいのだろうが、看板には紫色をした謎の未確認生物らしきものが描かれていた。
と言うかこのイケメンはなぜに、最初の質問にはなかった料理の専門店に連れてきたのだろうか? 俺を驚かせるにもサプライズ過ぎるだろクレイ!?
「まぁ、お前の金だし、好きなものを食って良いぞ!」
「好きなものを食えと言われても……」
メニューに目を通してみたがほぼ全ての料理にツァゴテリの文字が含まれていたので選択肢はツァゴテリ一卓しかないのだが、他の店は結構賑わっていたのにこの店だけ客が少ない、と言うより俺達だけしかいなかった。
「なぁ、本当にこの店大丈夫なのか?」
「ああ、俺はよく来るぜ、親父いつものやつね」
「じゃあ俺も同じので!」
一瞬、店の親父が驚いたように見えたが、きっと俺の気のせいだろうと自分に言い聞かせながら、料理の運ばれてくるのを待つ。
「なあ、お前さ本当にその格好で塔に登るの?」
クレイが俺の化着ている服を指差す。
「失礼なやつだな何度もいっているが、これは普段着だから動きやすいんだ」
「普段着ってそんなフリフリの付いた黒いドレスが普段着ねぇ……」
「ゴスロリの良さが解らんとは異世界とは不憫な場所だな」
俺は女なのだからそれは当然だろうと言う顔で成長し始めた胸を張った。
「いせか……?ま、まぁ、お前が良いんなら良いけどさ……おっ♪きたきた」
俺達の目の前に、親父がゴトリと皿を二つ置き、俺に顔を近付けてゆっくりと口を開く。
「お客さん、やめとくなら今の内だぜ?」
おいおい、この親父はいったい何を言い出すんだ? 持ってきてから言うなよ、もうすでにあとには引けないよ?寧ろ、持ってきてからなら言わないのが優しさだからね?
去っていく親父の背中を見送りながら不安に駆られる俺をよそに、クレイが嬉しそうに、運ばれたツァゴテリにフォークを刺し口に運ぶ、紫色の何かがとろみの付いたソースのなかでビクビクと動いているのが凄く気になったが、郷に入れば郷に従えと言うやつで、俺も意を決してツァゴテリを口に運んだ。
親父の「お客さん、やめとくなら今の内だぜ?」と言う言葉が、頭の中をグルグルと駆け巡り、朦朧とする意識の中で、俺は1つの結論を導きだした。
もう二度とクレイとはご飯を食べに行かない、そう心に固く誓った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は作者の処女作でありジョーク作品となっております。
作品の続きは今後予定しておりませんので期待はされてないと思いますが一応念のため悪しからず。
この作品はエイプリルフールに投稿されたものです。
タイトルのユニークSevenS.overの頭文字でusoつまり嘘に成ります。