視線と拒否反応
——う、うちの担任とは違って名前は名乗ったか……
それにしても、なんで自分から新しい生活の出発点を挫いた?
俺は自己紹介に対する拍手がパラパラと広がる教室の真ん中、少女の顔をまじまじと見た。
俺が一目惚れした舞鶴<まいづる> 志乃<しの>ほどの明るい茶色とまではいかない少し茶がかった髪を一つに束ね、髪の色に同化した丸い瞳を宿すその顔は非の打ちどころがないほどの美形だった。
と、彼女の視線が俺の方に向いた。
俺は慌てて目を逸らす。
——なんだろう……
わけもなく目を逸らしてしまった……
特に恥ずかしいということもない。
自己紹介で性格が謎と知れた時点で、いくら可愛くとも恋愛対象から外れている。
なのに……
何故か見られると目を逸らしたくなる……
俺は横目でもう一度転校生 御所の方を見た。
だが、そこに彼女の視線はない。
——気のせいか……
俺はホッと一息吐いてから下を向き、妙な勘違いをした自分を責めた。
と、その時だった。
——また、不快な視線が俺の方に向いている感覚……
俺はそっと黒板前に立つ少女の視線を確認した。
「——‼」
目があった瞬間、体が凍りつくような不快な感覚がまたも襲う。
なんの変哲もない、ただの女子高生の視線。
しかし、どことなく周囲の人間とは違う。
——怖い?
俺はどこから現れたのか分からぬ感情に脳を侵食されていくのを感じた。
「それじゃあ、自己紹介も終わったところで私は自分の仕事をやりに下に行く。あとのことはお前らで勝手にしろ。」
担任はそう冷たく一言残すと、教卓から立ち上がり、廊下の方へと消えて行った。
——あの人は本当に自由だな……
「あー、忘れてた。今日の放課後、誰か御所に学校案内してやれよ。」
廊下へと消えたはずの担任が扉から顔だけを覗かせてそう言った。
「学校案内ね~ 異彩な空気を放ってる転校生に近づくやつが居ればいいけどな……」
俺は心にもないを無意識的に呟いてしまった。
何故かはわからないがどこかしら彼女に対して拒否反応が起こっているのだろう。