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転校生

翌日。

俺はガムの取り扱い方について考えながら学校へと登校した。


——時間を巻き戻すガム……

使い方によっては人生を作れるし、壊すことだって簡単だ。


だが、戻すための道具がガム。

つまり枚数には限りがある。

それにどうすればどれだけ時間が巻き戻るのかも定かではない。

戻るためにはそれ相応のリスクが必要だろう。


俺はポケットに入っている四角い物を感じながら校舎へと入った。


——後は、ルールだよな。

まず、どう考えたって犯罪に利用するのはアウトだ。

そして、このガムを使って財や地位を得るのも俺のためにならない。

もし、この力で宝くじを当てたとしても、この先それだけで暮らせるとは思えない。

仮にお金が無くなるたびに当てたとしても、変に目をつけられ危険な目にあうだろう。

ならば、人助けに使うか?

いや、助からない命を助けてしまうのは良くない。

時間をやり直すことはそれなりにリスクを伴うはずだ。

それを他人のためだけに使うのは、勿体ないだろう。

となれば、使い方は一つ。

時間遡行の力を手に入れた本人が己のためだけに使うこと。

結局は手にした力を自分のプラスにならないことに使ってしまうのは勿体ない。


俺は頭の中での議論を心底楽しみながら、そっと教室へ入った。


いつも通り、なんら変わらず周りには誰も集まって来ない。

正直なところ寂しさに耐え兼ね、いきなり入学式の日に戻りたい気分だった。


「はぁ……せめて戻れる時間のコントロールができれば……」

俺はぼそりと呟いた。


と、入学式の日以来、一度たりとも衰えたことのない扉の開閉音が響く。

もちろん入ってきたのは担任だ。


「ほら、座れー」

聞き慣れた威厳のある声だ。


教室のあちこちに散らばっていた生徒は、担任の一言で一斉に席へと座る。

高校生活が始まってから二ヶ月。

もはやそれは生徒たちの間で日常と化していた。


「えー、今日はうちのクラスに転校生が来た。紹介する。」

担任はそう短く告げると、扉に向かって手招きし、さっさと教卓へと座った。


——転校生? 六月に引っ越してくるって珍しいな。

それにこの学校って一応国立だから簡単には入れないはずだが……


そこまで考えると俺の思考回路は別の方向へと回転を始めた。


先生の紹介によって入ってきたその少女に目を、耳を、心を奪われた。

少女は黒板の中央で立ち止まり、白いチョークを取ると黙ったまま何かを書き始めた。


俺はふと今見ている光景に既視感<デジャブ>を感じた。


——まさかな……


だが、そのまさかだった。

《目玉焼きは断然ソース派です‼》

彼女は黒板に丁寧な文字でそう書くと、みんなの方に向き直った。



——これは先生の指示だろうか……

それとも今のご時勢は、自己紹介に目玉焼きの食べ方が基本なのだろうか……


「初めまして。今日からこのクラスでお世話になります御所<ごせ> 椿<つばき>です。

朝食の目玉焼きはソースでしか食べません! どうぞよろしく!」

そう言って彼女は頭を軽く下げた。


俺はただ茫然としてしまった。


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