二度目の下校
俺はハッと思い出したようにズボンのポケットへと手を突っ込んだ。
冷たい直方体の感触が掌に伝わる。
それを右の手で握り、ポケットの外へと取り出して中身を確認した。
「一枚減ってる……時間が戻ったんじゃないのか?」
俺はそれをひっくり返し、裏面の表示を確認する。
そして、自分の目を再度疑ってしまった。
「こ、これって……」
視界の中央に映り込んだもの。
それは、
《品名 携帯用時間遡行ガム》という文字だった。
——時間遡行……
つまり、このガムはタイムスリップするための道具ってことか?
俺は心底驚いた。
『異常』その二文字で表すことさえ憚られる。
当然だろう。
『時間を逆行する』という非科学的な事が可能になってしまったら、この世界はいったいどうなる?
誰もが私利私欲のためにその効果を発動し、他の者を侵すだろう。
つまり、これ一つを所持しているだけで自身の人生を大きく左右できたり、それこそ他人の人生を破壊することもできる。
俺は雨が降りしきる中、一人立ち尽くし、このガムをどうするべきかを考えた。
そして、しばらくしてからそれをポケットへとねじ込み、濡れた鞄を拾い上げると二度目の帰宅路を静かに歩いた。