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堕落した帰宅路

※現在


そんなわけで二ヶ月経った今もなお存在は空気だ。

あの日、もの凄くドラマチックな出会いであったにも関わらず、舞島 志乃とは委員会の仕事以外にそれといった会話もない。


つまり、完璧なる高校デビューの失敗だ。

勝手に運命的な出会いだと思い込んだ末に、高校でのぼっちが確定したということだ。


「あぁ……ついてない……」

俺は一人呟いた。


一人と言っても今は教室のほぼ真ん中。

HRの真っ最中だ。

しかし、反応してくれる人がいないので独り言には変わりない。


と、無機質なチャイムの音が何も無いまま一日の終わりを告げる。

何度も何度も同じことも繰り返す日々。

まさに人生を無駄遣いしているような気分。


群れることの許されない一匹狼の俺は静かに鞄を持ち上げ、帰路に就く。



「雨?」

俺は一人呟き空を見上げた。


登り始めた坂道に雨粒が反射する。

靴が雨を吸い込み、重い。


「予報は晴れだったんだけどな~」

俺は振り返り、途中まで登った坂道の上から学校の方を見下ろした。


この町の地形は昔から高低差が激しいことで有名だ。

それ故に少し坂道を登れば町中を見渡すことができる。


俺はそこから眺める町の風景が好きだった。


しかし、今日の眺めは何かが違っているような感じがしてならなかった。

黒い雨雲が何かを予期しているように——


「早めに帰るか、雨を徐々に来てるし」

家の方向に体を向け直し、歩き出そうとしたそのとき‼

俺の体は得体の知れない何かに跳ね飛ばされた。


「痛ってぇ~」

両の手を地面につき、得体の知れないものを確認しようと顔を上げた。


見ると、茶色いコートに身を包んだ如何にも怪しい雰囲気の人が同じように尻元を突いている。


——なんだこいつ……


コートのフードを深々と被り、顔は確認できない。

しかし、明らかに普通の人とは違う存在感を放っていた。


「すいません。大丈夫ですか?」

俺は立ち上がり、即座に謝った。


しかし、相手からの返事はない。


無言のままに立ち上がったそれ<・・>は衝突の衝撃で落としたとみられる手荷物を拾い上げる。

そして、最後まで何も言わないまま坂道を下って行った。


俺は一連の動作を不審に思いながら、雨に濡れるその背中を目で追った。

やがて、その背中は降りしきる雨の中へと消え、俺も目で追うのをやめた。


——何だったんだろう今のは……

俺はそれだけ心の中で呟くと、すっかり考えるのをやめ、再び自宅のある坂道の上へと体の向きを変えた。


と、歩み始めたと同時、足の裏に何かを踏んだような感覚が走った。


「何だこれ?」

俺は雨水が薄く貼り始めている地面からそれを拾い上げた。


「ガム? 未開封だけどさっきの人が落としたのか?」


スティック状のガムが入ったそれを色々な角度から眺めまわす。

しかし、自称“ガム愛好家”の俺が見たこともない。


——日本で発売されている物は全て噛んだことがあるはず……


俺は辺りを見回した。

雨の降る坂道には既に人影は存在しない。


そのとき、俺の心に一種の好奇心が目覚めた。


「これって貰っても大丈夫だよな……」


自分が何をほざいているのかもわからない。

落ちているもの、ましてや食べ物を持って帰るなどあってはならない。

心の一端ではそう理解している。


しかし、“ガム愛好家”としての好奇心は止められなかった。


俺はそれを制服のポケットへとねじ込み、自宅へと急いだ。


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