二夜
竜「おはよう、にんげん」
はかせ「おはよう?」
竜「おはよう」
はかせ「お、おはよう」
竜「にんげん、よくねむれたか。おれのような大きい生き物がいては、ねむれなかったろう」
はかせ「おお、じつはそのとおり。こうふんしてねつけなかった」
竜「あらためてすまんな」
はかせ「いいともいいとも」
はかせ「ところできみ」
竜「なんだろう」
はかせ「きみ、なにを食べるんだ。肉かな、草かな」
竜「なんでも食べるが、石がいちばん栄養だな」
はかせ「石!」
竜「なんでもいいが、ちいさくても、かみごたえのあるやつがいい」
はかせ「機械のようだな。気に入った!」
竜「はぁ」
竜「奇妙なことで興奮する」
はかせ「なんでもすきな石をいいたまえ!」
竜「それよりあなたの朝食はどうなんだ」
はかせ「ちょうしょく?」
竜「ちょうしょく」
はかせ「ちょうしょく、なんぞたべない」
竜「はぁ?」
はかせ「そんなものはいらない」
竜「人間は三食たべるものだろ。朝、昼、晩」
はかせ「わたしは一食でいい。一回にたくさん食べる方が早い」
竜「な、なんて非人間的なことを」
はかせ「おまえが言うか」
竜「卵をもってきなさい」
はかせ「なんだと」
竜「フライパンにあぶらか肉をしけ」
はかせ「ふらいぱん?」
竜「フライパン」
はかせ「ふらいぱんってなんだろ」
竜「なんか黒くてひらたいやつだよ」
はかせ「???」
竜「おい……」
はかせ「これがふらいぱんか」
竜「それを熱します」
はかせ「ごしゃー」
竜「そして肉をのせます」
はかせ「じゅー」
竜「卵をいれます」
はかせ「ごろごろ」
竜「割れ!」
はかせ「言ってよ!」
はかせ「いいにおいがするぞ」
竜「こがさないようにするのだ」
はかせ「こがすとはどのような状態だ」
竜「くろくなることです」
はかせ「じゃあもういいだろ」
竜「それは生といいます」
竜「うむ。ちょうどいい」
はかせ「うまい!」
竜「ふふふ」
はかせ「なぜわたしをわらうのですか。不愉快だ」
竜「いいや、ぞんがい、あなたというにんげんは世話がやけるなとおもったのだ。そして、やはりおれはにんげんのたのしむ顔がすきなのだ」
はかせ「むむむ」
竜「ふふふ」
はかせ「腹がふくらんだ」
竜「そうだな」
はかせ「もうくわなくてよさそうだ」
竜「満腹というんだ」
はかせ「まんぷく?」
竜「そうとも」
はかせ「まんぷくはここちよい」
竜「そうかそうか」
竜「それにしても、今日もまつりか」
はかせ「まつり?」
竜「うえからどんどん、という音がする。にぎやかなことだ」
はかせ「ああ、どいつもこいつも元気なことで」
竜「すまないなぁ、おまえもいきたかろうに」
はかせ「わたしが?」
竜「ああ」
はかせ「わたしが?そとに?ごめんこうむります。あらっぽいのはきらいだ」
竜「昨日はあんなにあらっぽかったのに」
はかせ「そんなこと言わなかったではありませんか」
竜「とても痛かった。あなたはものをしらないようだから、いっておこう。つぎはやさしくしてほしい」
はかせ「むむむ」
竜「医をこころざすのだろう。そんなにんげんが、へたくそだなんて」
はかせ「むっむむ。善処します」
竜「さてきょうはもうねむい」
はかせ「ゆうしょくのたまごやきもうまかった」
竜「なによりだ」
はかせ「いい、いい。眠れ。明日はエサをたんまりくれてやる。それまでおんぞんするがいい」
竜「ああすまない。なにもかもをまかせきりだ。すまんなあにんげん」
はかせ「いいですよ。いいんですよ」
竜「すやすや」
はかせ「ちょうしのくるうやつだが、こんなやつをのがすてはないなあ。なるたけ長生きしてもらって、なるたけよい材料になってもらわねば」
はかせ「ふふふ、ふふふ」
扉「ガタッ」
はかせ「あっ……」
扉「…………」
はかせ「…………」