表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第6話「一人じゃない明日へ」

 アカリが707番州駅受付職員となって3年目の春が訪れた。この春に駅受付部署は高卒のジェシカを採用して迎え入れた。彼女の指導をアカリが担当した。ジェシカは701出身のおとなしい新人だが、幼少より707の観光をしてきて、「大人になったらこの街で生活したい」と強く思って707の駅職員となった。この経緯に感動したアカリは愛情たっぷりに彼女の職業指導にあたっていた。



 その出来事はジェシカが現場に入って3日後に起きた。いつもと変わらぬ朝、受付開始の直前のことだった。この日の体制はジェシカとアカリ、キャンベラの3人でジェシカはキャンベラと初顔合わせだった。



「初めまして。ジェシカ・レトリーです。宜しくお願いします」

「ヨロシクオネガイシマス。キャンベラトイイマス。ガンバリマショウネ♪」

「キャンベラ〜私の時と全然違うよ~こんなに温かったぁ?」

「?」

「アナタハキッスイノモンダイジダッタジャナイ」

「え? そうだったのですか?」

「む、昔の話だよ! ほら、ぼちぼち窓口開けるよ! ジェシカは今日も笑顔1番で頑張るのだよ! 昨日みたいに困ってもおどおどすんじゃないよ!」

「は、はい……」

「ダイジョウブダヨ、ジェシカ。イマノコノヒトハココデ1バンタヨリニナルシ、ヤサシイセンパイダヨ! ナンデモキイテ、シッカリマナンデネ♪」

「はい! 何でも聞いていきます!」

「もうっ、みんなしてハードルあげちゃうのだからさ。ま、今のジェシカの返事ぐらいみんなで元気にやっていこうね!」



 それからアカリが駅受付口のシャッターを開けようとした瞬間、駅のサイレンが甲高く鳴り響いた。駅本部よりミナトが放送を始めた。この日の駅の運行及びサービスを全面中止するという知らせだった。突然の知らせに受付3人は驚いた。その直後、本部ミナトよりアカリとキャンベラに本部への招集がかかった。またジェシカに対しては即時退社するように指示が出たりもした。



「ナンダカイヤナヨカンシカシナイネ……」

「うん。でも駅長の言うとおりに私とキャンベラは本部へ向かおう。ジェシカはここに残って!」

「え?」

「チョット! エキチョウハカエラセロッテイッテタジャンカ!」

「だからこそだよ。せっかく私達と同じ駅職員になれたのにさ、新人だから何も経験させてあげないのは可哀想だと思わない!? そりゃあさ、ジェシカがどうしても帰りたいのなら別に止めないけどさ」

「私は……」

「ムリシナクテイイヨ! コレハキンキュウジタイナノダカラサ、シカタナイヨ!」

「残ります!」

「ノコルンカイッ!」

「うん。その意気が大事だよ。さ、行こうキャンベラ!」



 アカリとキャンベラは駅本部である駅長室に急いで向かった。



 駅長室には各部署のチーフ16名が揃っていた。この日が休日の筈のガーディもジャージ姿にて参席していた。しかし真っ先に目に飛び込んできたのは豪華な現場責任者達ではなく、電子液晶画面に映し出された衝撃的なニュースだった。



『木星圏エウロパ圏域にて原因不明の大規模なガス爆発が発生しました。圏域内にて認知されている3000機以上の宇宙船が被害を受けました。死傷者多数、重傷者多数、うち1600機は緊急着陸を要する状況にあるとされます。繰り返します。只今木星圏エウロパ圏域にて―』



「この報道を観てのとおりだ。ほとんどの州で外出禁止令が公に出されている。駅の運行もごく一部の地域を除いて禁止令が発令されている……」

「そうなら職員一同即時解散にすれば良いのでは?」

「ああ、そうしたいさ。だがオレ達には臨時緊急対応が連邦より請求された」

「!?」

「それってどういう……」

「大型宇宙船ガリレオ・タイガー606の緊急着陸支援だ。具体的に言うとだ、現在損傷が激しい大型船乗員の救出になる。大型船にして何時爆発したとしてもおかしくない機体だ。連邦軍のほとんどが701の受け入れ対応に向かっている。こっちにはたった3名の隊員しか送っちゃこないそうだな」

「何ということを」

「ああ。まさに腸が煮えくり返るような状況だろ? だがこうなった以上、オレはここにいる皆様に一つ問わなければならない……」



 ミナトの言葉が止まったのと同時に室内の空気は重苦しい静寂に包まれた。



「この無謀な挑戦に協力してくれる者はいるか……?」



 誰もが言葉を失った。それが普通の筈だった。



 一人の女性職員が手を挙げた。彼女だった。彼女しかいなかった。この空気を変えたのはアカリ・クリスティという女性職員の勇気だった。



「私、協力します! 駅員として誰かの命を救えるのなら、それは駅員として最高の誇りじゃないですか!!」



 アカリの勇気ある声にその場にいた誰もが度肝を抜かれた。そしてその勇気は彼女を慕う職員の心を奮い起こさせた。



「もぉ~アンタが言い出したら、私も責任持たなくっちゃいけないのだからね! はい! 私も協力します! 何なりとどうぞ。ミナト駅長」

「ワタシモキョウリョクスルヨ! 100キロマデナラ、モチアゲカノウダヨ!」

「ガーディ先輩……キャンベラ……!」

「お前ら……」



 アカリの勇気によって受付職員の全員が臨時緊急対応に臨む事となった。これには警備・セキュリティ部チーフのファイサルも黙ってなかった。



「こんな可憐なお嬢様ばかりに無茶をさせては我が部署の名折れです。本日いる私達の部署3名も総動員させましょう!」

「ぼ、ボク達エンジニア部だって……」

「アタシだって参加しますよ!この駅と運命を共にするのなら本望です!」

「みんな……」



 気がつけば宇宙船救出案件の協力者として全部署のチーフ16名全員が名乗りをあげていた。それも部署全員での協力を前提に。一人の勇気は万波を生んだ。ガリレオ・タイガー606救出の支援を表明してからは早かった。各部署の役割分担をミナト主導で迅速に決め、早々に準備にとりかかった。受付部署と警備・セキュリティ部署は共同で「臨時大容量避難所」への誘導を担うことにした。



 受付部新人のジェシカもアカリの説明を受け、問う間もなく自ら救助の協力を申し出た。それは入社日よりおとなしい性格の目立つ彼女が一気に変わっていく瞬間のようであった。



 誘導に関して経由地点をジェシカとキャンベラに警備部職員の3人、避難所の地点をガーディと警備部職員の2人が担当した。そして宇宙船停留所近くの誘導をアカリとファイサルで担当することとなった。宇宙船着陸まで緊張が高まる中、ファイサルはアカリを労うようにして声をかけてきた。



「いやぁ、あそこで君が何も言わなかったらどうなったことか。感謝を言うよ!」

「いいえ。私は私の言うべきことを言っただけです。一緒に頑張りましょうね!」

「ああ。アッラーの名の下に誓おう! 妻の言うとおり君は素敵な妻の友人だな」

「妻?」

「ああ! 半年ほど一緒に暮らしたと聞いたぞ?」

「えっ? もしかしてアイシャの御主人さん!?」

「積もる話は全て終わってからだ。まずは共にこの天命を全うしよう!」

「何ていうか……えっと、その、わかりました! やり遂げましょうね!」



 それから暫くして、宇宙船停留所にガリレオ・タイガー606が漂着をした。機体の至る部位から煙が発せられており、ミナトのいうようにいつ大爆発を起こしてもおかしくない状況にあった。人命救助はミナトと自衛隊員主導の下で迅速に行われた。乗員は367名中6名の死亡が確認され、361名のそのほとんどが重傷を負っていた。その搬送を73名の人員で行わなければいけなく、駅職員のほぼ全員がその作業に取り掛かった。誘導を担当していたアカリ達も急遽その役割を担うこととなった。かろうじて意識を取り戻した宇宙船乗務員曰く、残り2時間もすれば宇宙船のエンジン部分が大破し、大爆破を免れないとの事だ。



 一刻の猶予もなかった。救助にあたった人間はただひたすら懸命に動いた。



 100人収容の臨時大容量避難所へ怪我人を搬送してはワープを繰り返した。



 4度目のワープを終え、推定爆破時刻まで残り30分となった。残すは駅職員と自衛隊員のワープのみで着々と臨時大容量避難所へ駅在住の65名が向かった。しかしその道中、アカリは『まだ一人残っている。助けてあげてくれ』という声を耳にした。振り向くとそこにジャックが立っていた。しかし一瞬にしてその姿は消えた。幻だった。しかし彼女のとるべき行動はその時に決まった。



「おい! どこに行く!?」

「まだ一人残っています! 助けに行きます!」

「何言っている!? もう30分しかないのだぞ!」

「だからって生きている人を見捨てることはできません!」

「全く困ったお嬢さんだ……わかった! 私も向かおう!」

「ファイサルさん!」

「特別だぞ! 今からブライアントさんに無線を入れるぞ!」

「あ、いや、それ私が今やっています!」

「えぇ!?」

「もしもしガーディ先輩、これより宇宙船乗員1名の救出に向かいます!」

『はぁ!? 何を言っているの? アンタ! もうみんなここに来ているのよ!』

「でも今確かに宇宙船から1人のGPS反応を検出しました! 見落としですよ! 先輩はこの人をほっときますか!?」

『私は……いや、いいわ。許可するわ。そのかわり約束して』

「?」

『必ず生きて帰って』

「らじゃ! 生還できたら一緒に動物園行きましょうね♪」

『もうっ! 約束破ったら只じゃおかないのだからね! 覚えておきなさいよ!』

「了解! 先輩達は先にワープして下さい! 私たちは臨時小規模避難所より後ほどワープします……と言うことでいいね? アイシャの旦那さん?」

「ああ! 了解だ! しかしその呼び方は何だか恥ずかしいな……」



 アカリ達は急いでガリレオ・タイガーの船内に入った。GPS反応は運転席に近づくにつれて強くなった。そこには既に息のない船員クルーが横たわっていた。しかしその中に肩で息をしている一人の中年パイロットがいた。すぐに助けようと思ったが、彼は見るからに100キロを優に超す巨漢の体格だった。



「助けに来たのか……いい……俺などほっておいてくれ。直にこの船は……」

「何を言っているの! こんな所で死んだら、みっともないじゃない!」

「そうです! 諦めないで下さい! アカリ、怪我のところに触れずに持ってくれ!」

「はい! ふぬぬっ……!」



 体格の良いファイサルとタンカで持ち上げようとしたがやはり無理があった。



 さすがのアカリも救出を諦めようとした矢先、そこに一人の応援が来た



「100キロマデナラ、モチアゲラレルヨ!」



 何と作業服を着用したキャンベラだった。噂に聴いてはいたが、この短時間で重労働モードに切り替えてやってきたようだ。アカリにとってこれが初見だったが、あまりにも滑稽な感じに笑いが込み上げてしまった。



「チョット! ナニガオカシインダヨ!」

「いや、こんなキャンベラ見たことないなって……」

「ツベコベイワナイ! ノコリ15フン、ヒナンジョマデイソイデイクヨ!」

「ああ! そうだ! この東館の1階に避難所があるぞ! そこまで頑張ろう!」



 3人で巨漢のパイロットを持ち上げた。キャンベラの協力もあってか、先程と比べて断然スムーズに持ち上げられることができた。そして急いで搬送を始めた。この時に『私も手伝うわよ!』と聞き覚えのある声を耳にした。顔をあげると、そこにミーアが救助を手伝う姿があった。しかし一瞬で消えた。またもアカリは幻を目にした。しかしいくらキャンベラの支援を受けているとは言え、不思議なくらい軽快に搬送の作業が進んだ。それはまるで4人で取り掛かっているような感覚そのものだった。


挿絵(By みてみん)


 ガリレオ・タイガー爆破まで残り10分……5分……彼女たちは目の色を変えてただ人命救助に尽くした。彼女達が避難所に到達した折、大きな爆発音と大きな地の揺れを感じた。ファイサルが「まずいぞ! 早くワープしないと!」と、大声を出したその時、アカリはまたも幻を見た。



 その女性は髪をオールバックにしてセミロングにした美人な女性だった。また高身長なのもどこか特徴的だ。駅職員のスーツを着用していた。どこかで見覚えのある人だが思い出せない。その女性はアカリ達に深々と頭を下げて、それから彼女の手元にあるボタンを押した。キャンベラにも見えていたのか「リッカサ……」と彼女が言った瞬間にアカリ達の目の前で真っ白な閃光が走った。



 どうやらワープに成功した。アカリ達は駅前大広場で目を覚ました。駅からは大きな炎と煙が空に舞い上がっていた。周囲には多くの怪我人と救急隊員がいた。


挿絵(By みてみん)


「大丈夫ですか?」

「ぐ……ぬ……助かったのか?」

「ええ! 今すぐ救急隊員をお呼びします! アカリ、パイロットさんを見てくれ!」

「はい! 了解です! キャンベラ、さっきのってさ……」

「ウン。タスケニキテクレタンダヨ。リッカサン……」



 キャンベラは両目から溢れる涙を流していた。




 その後、黒人の巨漢パイロットは救急隊員によって無事に病院へ搬送された。この時間よりココロ各州における外出禁止令と交通機関等の規制が解除された。707番州駅はこの未曾有の大災害を乗り越え、人命救助を全うする事ができたのであった。



 燃え上がる707番州駅の消火活動もやがて終わった。



 何とも言えない感慨に耽っていたアカリに聞き覚えのある声が聴こえた。



「お疲れ様」

「ガーディ先輩、ジェシカ、リンダさんも……」



 振り返るとそこにガーディとジェシカがいた。リンダも駆けつけてきたようだ。アカリは満弁の笑みを浮かべ仕事仲間へ親指をたてて見せた。



「無事生還! 無事任務完了です! 先輩、今度一緒に動物園に行きましょうねぇ♪」

「もうっ! ばかっ!」



 ガーディは涙を見せながらも、アカリにぎゅっと抱きついた。キャンベラ達、駅受付職員は微笑みながらその光景を見守った。



 アカリとガーディの抱擁するすぐ後ろからミナトが現れた。



「うわっ! ミナト駅長!」

「おう、突然すまんな。この度は心からお前達を讃えたい! 本当にありがとう!」

「いやぁ~やめて下さいよ~照れるじゃないですか! えへへ~」

「素直な奴。ホント、アンタ変わらないわね……」

「ああ。だが単に御礼を言いにここへきたワケじゃないぞ。大事な知らせがある」

「大事な知らせ?」

「ああ! アカリ、エルサム大統領からお前へ名誉国民勲章が贈られるそうだぞ!」

「え?」

「ん?」

「今なんて……?」

「メイヨコクミン?」

「大統領?」

「え―――――っ!?」

「あれ? オレまずいこと言ったか?」




 価値ある影の努力は必ず報われる。善き人間であればこそ――




∀・)読んでいただきありがとうございました!


∀・)アカリだけじゃない、みんな頑張った!お疲れ様!


∀・)…と言っておきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ