悪夢
黒騎が自分の能力を自覚し、
それを誇りに思ったのは、
パチンコを初めて3年経った時のことだ。
彼の能力は、Bクラス。
あってないような能力のCクラスよりも上位の、
『貸玉する度、本来の回転数に2回転上乗せ』。
つまり4円パチンコだと、
2回の貸玉(補充)が発生し、
平均17回転ほど回る設定の釘の中を、
21回転出来るというもの。
地味な能力だという人は、
おそらくパチンコを知らない。
4回転がどれほど貴重なのかを。
1万円の投資であれば、
平均170回転の台を、
210回転回せる。
パチンコは確率ありきの遊戯なので、
確率を少しでも縮めるこの能力は、
Bクラスの中でも取り分け使いやすい能力であった。
彼の能力の利点は、
自分の能力がバレないことだった。
景気よく回転していても、
ゴト行為をしているでもないので、
彼をただの打ち手としか判断できない。
加えてこの能力は、
あくまでも当たりに近づくための能力ゆえに、
目立って大勝することもなく、
一般人と同じ水準で見られる。
仮にデータカウンターで回転数チェックをする店があったとしても、
彼の回転数は注目されない。
黒騎は最初から最後までパチンコ店には居座らないし、
居座るとしても定期的に台を変える。
他の客の回転数に混ざり、
総回転数は目立たない。
そんな彼が聞きつけた奇妙な噂。
それが『闇パチ』だった。
出資者は不明。
大会参加上限は500人。
日に数百億が動くとまで言われている。
彼はその闇パチへの切符を手にするため、
入場料と、中に入るために必要とされる、
1200万円を貯めた。
「勝てると思っているのかい?
たかだか、Bランクの能力で。
……決勝にまで上がってきた努力だけは買っておくよ」
勘と知識と能力で、
黒騎は初出場で決勝にその手を伸ばしていた。
予選。参加費200万円。
本戦。参加費1000万円。
決勝。参加費3000万円。
本戦時点で、7000万円ほどの勝ちを既に拾っていた。
この大会は、引きどきを自分で選ぶことが出来る。
1球 1万円という破格の勝負だ。
7000万円とて、換算すれば7000球にしかならない。
黒騎は、たった4000球を手に決勝に上がった。
そこで優勝すれば、
100億円をその手に掴めるのだ。
「Bランクだが、Sでも食ってやるつもりで来たぜ」
「……無知な奴は嫌いだ。
無謀な奴は破滅させたくなるほど嫌いだ」
黒騎よりもひと回り小さく、若い男。
容姿は上等の水準を大きく超え、
人によっては彼を見るだけで身震いを起こすほど。
陽の光を一切遮断した場所にいたのか、
色白の肌に白絵の具を混ぜたようなほど、全身が白い。
着ている服も、金持ちとは言えない、
普通の物だ。安っぽさも感じる。
そんな彼が、大会の優勝をかっさらい、
黒騎は彼の後塵を受けることになる。
まざまざと見せつけられたSランクの能力を、
黒騎は見破ることが出来なかった。
……わかったことは、
どんな台でも、すぐに当てて見せていたこと。
「分かったろう?
Bランクは大人しく、
普通のパチンコ店に帰るが良い」
「畜生……俺にも……Sランクが……」
「『銀河の祝福』を受けた者を見つけるのは無理だろう。
誰も自分の異能をひけらかさないさ。
折角宿った才能だ。もっと自信を持つがいいさ」
負けた。
持ち金は全て消えた。
何よりも、黒騎のプライドが、
自分の能力の脆弱が、
足掻いても届かないSランクの壁が。
黒騎はたまに、この時の悪夢を見る。
彼はあそこから逃げることはなかった。
「……あ」
大型のテレビ画面には、
ブルーレイのメニュー画面が映っていた。
気になっていた映画の途中で、眠っていたようだ。
黒騎は頭をボリボリかきながらソファから立ち上がり、
隣の空き部屋で眠っている当麻を見た。
寝相もよく布団にくるまり、
静かな寝息をたてている。
「寝てりゃあ普通のガキなんだがなあ」
自分が望んで止まなかったSランク。
それを持っていたのは、こんな若者だった。
……そういえば、自分の中にいた悪夢は、
今何歳なのだろうか?
あの時の美貌は既に無いだろうが、
朝の日光を遮るカーテンを解き放つと、
都会のビル群が広がっている。
彼が自信の能力で得た、
今の財産だ。
黒騎はそのビル群を前に思うのだ。
今度こそ、奴らを見下ろす側に立つんだと。
女性キャラを連れ込んで一夜 → わかる。
同性を連れ込んで一夜 → わかりません。