枯れ木よりも金のなる木が欲しい
店がほしい客。
それは黒騎のような、スター性のある客か?
違う。
台パンというツンと、
大当たり字時の笑顔デレを使い分ける客か?
断じて違う(台パンはマナー違反です)。
答えは……
ちょっとだけ勝つ。
また来たいと思う。
黒騎から言われた、
台選びの指針。
当麻はこの言葉を考える。
黒騎さんはさっき言っていた。
店がほしい客って……。
店がほしい客なんて、
そんなのお金を落とす人なら誰でも良いんじゃないか?
僕だって、黒騎さんだって、
お金を落としているし……。
だいいち、ちょっとだけ勝つってどういうことだろう?
いくらまで勝てばいいんだ?
……良いじゃないか。
この店に来ることなんて、
多分もう無いんだし……。
僕はまた来たいと思っていない。
僕はパチンコをしたいためにここに来たんだ。
この店が仮に潰れても、
パチンコは……。
待てよ?
そうだ。宝来さんだ。
あの人は手広く商売しているけど、
普通のパチンコ屋はそんなことしない。
パチンコでしか儲けがない。
僕が大勝して、
どうなる?
店は僕を歓迎するかな?
僕なら……しない。
そうか、そういう目で見なきゃいけないんだ……。
客だから一方的にサービスを受けられるのは、
それは普通の店の発想だ。
飲食店も、販売店もそう。
あれは購入するというリスクを支払って、
相手はそれを喜ぶんだ。
パチンコで言うリスクはずばり所持金。
リターンはこれまた所持金だ。
相手は僕達が所持金を落とすのを望んでいる。
でもパチンコは、遠隔でもしないと安定した利益は出せない。
僕の能力がなくても、
運がいい人は毎日勝ち続けるし。
そうなると利益も出ない。
パチンコで利益を出すには、
客を負かすこと。
……でも負けが込むような店には行きたくない。
……そういえば、今日、最初に行った店はガラガラだった。
負ける店だから。
あれは固定客がいないからだ。
時期に潰れて、新しいパチンコ屋になるか、
別の店になるだろうな。
ここは割りと盛り上がっている。
……固定客がいるから。
全員勝てる店に皆行きたい。
でもそんな店は存在しない。
……パチンコ店にとって、利益に繋がる行為。
……それがもしかして、ちょっとだけ勝つってことなのか?
……えええい! 考えるのは打ってからでも良い!
とりあえず、あの台!
大して勝てないけど時間をつぶすには十分な台!
あれに座ろう!
……じゃんじゃん音がうるさいな……。
ああ。そういえば。
勝った人の隣の席には、
誰かが座るんだよな。
それも関係有るのかな?
あ、当たった。右打ちしなきゃ。
「また来たい」
と思うっていうのは、
勝った店に対して思うことだろうな。
負けた店にまた来たいだなんて思わないし。
……そうか。
勝ちやすい店に行きたい。皆。
特定の人ばかり勝つ店なんか、
行きたくない。
その人達に遠隔支援しているのかと思われちゃう。
遠隔店になんか行きたくないし。
…………でも勝ってばかりでは店も成り立たない。
ああそうか。
ちょっと勝つってそういうことなのか!
じゃあ、今僕の打っているこの台が
正解じゃあないか!
そうだ……CAROで爆発的に1回勝つよりも、
地味な台で負けて、
次の日……勝てばいい。
シーソーゲームだ。
普通なら一方的に客が負けるかもしれない、
僕ならバランスの取れる、シーソーゲーム。
リピーターが増えれば、
枯れ木も山の賑わいで、
店も盛り上がって、釘も甘くなるかもしれない。
だって客の多さが収入に直結するんだから。
……もしくは、
大敗北している時に、
大当たり爆発台を選んで逆転をするのもいい。
店としてはプラマイ的に痛くないし、
他の客を発破かけられる。
そうか、そういうことだったんですね黒騎さん!
「黒騎さん! ……あ」
僕は、黒騎さんを良い人と思っていたが……。
僕が見たのは、
さっき僕の指定したCAROに座り、
大連荘を叩きた出そうとしている、
黒騎さんだった。
……後で聞けば、
「授業料だ」ということらしい。
嘘だ。この間の僕の大連荘が羨ましかったに違いない!
おのれえええええ!!
閑古鳥が鳴く店に、お客さんが来たとします。
お店としては利益がほしいから、お客さんが勝てないような釘設定をする。
でも、その客は負けたら二度と来ない。
枯れ木すらもない山はただの土塊でしか無い。
森をたたえた山は人も多く観光で訪れるように、
パチンコ店も本来そうあるべきだと思うのです。




